今年はクルマのセットアップ、ブレーキのフィーリング、スタートのクラッチの違和感など問題を抱える可夢偉。 どんな苦境でも、持ち前のユーモアと独特の表現で明るく振る舞っていた小林可夢偉(SUNOCO Team LeMans)だが、このスーパーフォーミュラ第5戦岡山での落胆ぶりは大きかった。
今回の第5戦は、結果だけ見ればレース1決勝18位、レース2決勝17位という散々なリザルトに終わってしまったのだから、可夢偉の失意は当然と言えば当然なのかもしれない。昨年、スーパーフォーミュラ参戦初年度のこの岡山戦では予選4番手から抜群のスタートで2位表彰台獲得をして実績があったのに、なぜここまで状況が悪化してしまったのか。岡山レースの決勝後の可夢偉に聞いた。
初日のフリー走行では国本雄資(P.MU/CERUMO・INGING)に次ぐ2番手を獲得して、順調な滑り出しに見えた可夢偉。しかし、手応えと同時に懸念点も見えていた。
「クルマのバランスは前回のもてぎで『これかも』という方向を試して良くなったんですけど、それでもまだ速さが足りなかったし、そのセットアップではロングでは壁が見えていることが分かっていた」と話す可夢偉。
そのフリー走行直後のレース1予選では、パイパーコーナーで「行き過ぎて縁石に乗ってしまった」ことでスピンして、タイヤバリアへ。幸いクルマには大きなダメージはなかったものの、セッションは赤旗になり、可夢偉は最後尾スタートになってしまい、レースは18位。
仕切り直しとなった翌日のレース2予選でも、可夢偉はなんとかQ1を突破したものの、Q2ではアトウッドカーブで再びタイヤバリアへ。広いランオフエリアをまっすぐ突っ切って、フロントからクラッシュしてしまった。
「いつもより20m手前からブレーキを踏んだにも関わらず、最初はロックしたんですけど、次に踏んだら左側のブレーキが効かなくて、イン側しか効かなかった。タイヤもほとんどロックせずに行ってしまった。僕もよく原因が分からないです」
決勝中も違和感が残ったままだったそうだが、チームの方で入念にチェックしたところ、トラブルの症状は見られなかったというから、原因どころか今後の対策方法も先行きが見えない。
さらに、レース2決勝では得意としているスタートを決められなかった。
「今日だけじゃないです。今年は1回もスタートが上手くいっていない。クラッチをミートさせても滑っていて、滑っていると思ったら突然、くっつく。ゼロか100みたいにトルクが突然かかるんです。アイドリングの振動でアクセルキープするのが大変なんですけど、僕、スタートでメチャメチャ集中しているんですよ。それなのに、どうしてもズレてしまう。今、ポール獲っても、全然勝てる自信がないくらいです」
昨年はどのサーキットでも、決勝のスタートダッシュでほぼ毎回順位を上げ、スタートは可夢偉の専売特許になりつつあったが、今年は状況が一変。もちろん、可夢偉のこの症状を聞いて、チーム側でも綿密なチェックをしている。
「ステアリングのスイッチ、システムを全部チェックして、油圧シリンダーを動かすユニットも新しいものに交換して万全を期して臨んで来たんですけど……今日も良くなかったですね」と、肩と落とすのはチーム・ルマンの山田健二監督。チーム側でも手を尽くして原因を調べているが、解決策が見えない状況だ。
予選順位とスタートで勝負の80パーセントは決まると言われる現在のスーパーフォーミュラでは、可夢偉の現在の状況では上位に来ることは難しい。期待された2年目のシーズン、ファンもチームも辛いが、当然、可夢偉自身も頭を悩ましている。
「クルマを全然、思い通りに動かせないんです。なんか、初心者みたいな運転になっていますもん。恥ずかしい感じ。攻めきれないし、そんなに攻めていなくても突然グリップがなくなってしまう」
「WECでは(中嶋)一貴が乗るたびにトラブルが起きている印象があるのと同じように、スーパーフォーミュラでは自分に何かが起きるような気持ちになってしまう。今年の僕はスーパーフォーミュラで開幕できへん気がしてきました。もう、何してもあかんですもん」。明るい兆しが見えず、悩める可夢偉。
そんな可夢偉に追い打ちをかけるように、岡山のレース2決勝では無線トラブルも起きてしまった。可夢偉はスタート直後から、すぐにピットインすることを無線で伝えていたが、それがピットに伝わらず、結局、17周目までタイミングが遅れてしまった。
奇しくも、この岡山のレース1では今年のルーキー、ストフェル・バンドーン(DOCOMO TEAM DANDELION)がスーパーフォーミュラ初優勝を飾り、前回のもてぎでは同じく新人の関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)が初優勝を果たしている。さらには、チームメイトのナレイン・カーティケヤンもレース1で表彰台を獲得している。
F1帰りで鳴り物入りで昨年、国内復帰した可夢偉。2年目の今季は解決の糸口すら見えない逆境の中でもがいてる状況だが、可夢偉らしい、コース上でのアグレッシブな走りとオーバーテイクをもう一度、臨まずにはいられない。
来季マクラーレン・ホンダからのF1参戦が決まっているバンドーンと、このスーパーフォーミュラを舞台にバトルができるのは今年が最後。関口、国本と新たなウイナーが誕生しているが、今こそ『ニッポンに可夢偉あり』の存在感を、ファンは待ち望んでいる。