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『WORLD HAPPINESS』夢の島ラストをMETAFIVEが飾る “音楽のDNA”は次の世代へ

2016年09月11日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

METAFIVE(写真=TEAM LIGHTSOME)

 東京・夢の島公園陸上競技場にて、2008年より毎年開催されてきた『WORLD HAPPINESS』が8月28日、同会場での最後の開催を迎えた。初年度よりキュレーターを務めてきた高橋幸宏へ各出演アーティストが感謝を告げ、METAFIVEが雨降りしきる中大トリを務め、有終の美を飾った。


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 『WORLD HAPPINESS』は、東京で行われるフェスとして、都内在住者にとっては交通の便も良く、会場も広々とした景観に整備された芝生、樹木に囲まれた過ごしやすい空間だ。子供連れでの来場者も多く見受けられ、会場後方にあるキッズエリアには子供向けの映画や遊具に夢中になる子供たちの姿があった。


 そんなゆったりとした空気が流れる会場に爽やかな歌声を響かせたのはオープニングアクトの柴田聡子。LEFT STAGEにて柴田は、「カープファンの子」「ニューポニーテール」「ゆべし先輩」などポップな曲調に鋭いシニカルさが光る楽曲を弾き語りで披露していった。CENTER STAGEの1番手を担うAFTER SCHOOL HANGOUTは、林立夫と沼澤尚によるドリーム・プロジェクト。バンドにフィーチャリングゲストとしてLeyona、高橋が加わるという豪華布陣だ。2曲目のThe Beatles「Lady Madonna」カバーでは、金髪のウィッグを被ったLEO今井が登場。ラストのTodd Rundgren「I Saw The Light」カバーでは、矢野顕子も加わりフェスの1組目とは思えない面々がステージにて演奏を繰り広げた。


 その後、CENTER STAGEに再び登場した矢野は、ピアノの弾き語り演奏ではっぴいえんど「夏なんです」、自身の新アルバムの楽曲「そりゃムリだ」を披露。矢野は、「(幸宏と)一緒の舞台で歌うのはYMO以来だと思います」と語り、会場のファンを驚かせると「次に演奏するのは、アグネスチャンのために書いた曲です。初めて歌った時に『すごいね』って言ってくれたのが高橋幸宏でした」と代表曲「ひとつだけ」のイントロを弾き始めると、会場には自然と拍手が起こった。ステージに花と花瓶、牛乳を持ち登場したSeihoが、生け花を披露しながら繊細な電子音を展開すると、そのまま2人はYMO「Tong Poo」、「春咲小紅」を息のあったパフォーマンスで演奏し会場のファンを喜ばせた。


 今年結成40周年を迎え、「活動休止の休止」を発表したムーンライダーズがステージに現れると、“休止の休止”を待ちわびていたファンから割れんばかりの歓声が沸いた。「Who’s Gonna Die First?」「Don't Trust Anyone Over 30」の2曲でライブの幕は開き、<Don't Trust Anyone over 60!>と自虐ともとれるお得意の歌詞変えでファンとの距離を近づけていく。鈴木慶一が「活動休止の休止スタート!」と叫び、METAFIVEよりゴンドウトモヒコをゲストに「ヴィデオ・ボーイ」、「スカーレットの誓い」を披露しファンによる大合唱が起こった。この日、65歳の誕生日であった鈴木に高橋が花束を持ってステージ袖から登場。そのまま高橋がコーラスに参加し「9月の海はクラゲの海」、「BEATITUDE」を披露。高橋は軽やかなドラム演奏を見せ、鈴木、白井良明の息のあった片足を上げながらのギター演奏で現役のパフォーマンスを見せつけた。


 ブラジルのリオから帰ってきた直後の東京スカパラダイスオーケストラは、「Paradise Has No Border」「DOWN BEAT STOMP」で会場を躍らせ熱を上げていく。「いろんなところのフェスに出てるけど、東京はまた特別です! 東京気合入れて行こうぜ! 戦うように楽しんでくれよ!」と谷中敦が叫ぶと、その言葉に呼応するかのように会場もヒートアップしていった。「音楽の楽しさ、音楽に国境はないことをこの曲では伝えたい」と再び「Paradise Has No Border」を演奏し、ワールドクラスのパフォーマンスを披露した。


 白馬の神輿に乗り会場後方から登場したのは、水曜日のカンパネラのコムアイ。「ラー」「シャクシャイン」「ウランちゃん」とアルバム『ジパング』からの楽曲を中心に披露し、ステージのスクリーンには会場に響く低音に合わせ、サイケデリックな映像が流れていた。LEFT STAGEを降り、客席近くでパフォーマンスするコムアイは、メインステージ下手に脚立を組み、その上で歌唱。そのまま代表曲「桃太郎」を披露すると、再び白馬の神輿に跨り会場後方に消えていった。


 電気グルーヴは、ライブ前半に「Fallin’ Down」「Missing Beatz」「Baby's on Fire」と近年の楽曲、後半には「N.O.」「富士山」「虹」とアッパーチューンを叩き込んだ。石野卓球とピエール瀧は相撲を取り、瀧がステージを縦横無尽に動き回る一幕も。「N.O.」でスクリーンにYMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』のジャケットが映り、「富士山」では石野がキーボードをステージ前方で演奏して見せた。そのまま、ラスト「虹」では楽曲ボーカル五島良子のパートをリフレインさせ、それに石野がキーボードで音を重ねていき堂々たるラストとなった。


 陽もすっかり暮れ雨が本降りになりつつある頃、LEFT STAGEのトリを務めたのは大森靖子。バンド編成での「少女3号」からライブはスタートし、「TOKYO BLACK HOLE」「マジックミラー」と最新アルバムからの楽曲を降りしきる雨を受け、情熱的に歌い上げた。「絶対彼女」では、オーディエンスとコールアンドレスポンスを試みる場面も。そのまま「音楽を捨てよ、そして音楽へ」で鬼気迫るパフォーマンスを披露。1人舞台に残った大森は「さようなら」を情感たっぷりに歌い上げステージを後にした。


 この日のラストアクトであり、夢の島公園陸上競技場での歴史に幕を閉じる役目となったMETAFIVEは、2014年より毎年大トリを務めてきた。スタイリッシュなモーションタイポグラフィがスクリーンに映し出される中、メンバーが登場。LEO今井が太い声を荒げる「Mezzanotte」で幕を開けた。そのまま、アルバム『META』から「Albore」「Maisie's Avenue」「Gravetrippin’」を披露。高橋が、「ちょっと雨きちゃったよね」とオーディエンスに呼びかけるも会場のファンからは温かい歓声が上がっていた。繊細な電子音と高橋の優しい歌声が重なり合う「Luv U Tokio」では、YMO「TECHNOPOLIS」を彷彿とさせるヴォコーダーによる「TOKIO」のフレーズが乗り、曲のアウトロでは東京メトロの発車メロディのサンプリングに乗せ、「TOKIO」の駅アナウンスが会場に木霊した。そのまま、LEO今井の勇ましい掛け声から「Split Spirit」へ。ステージに設置されたLEDライトが演奏を彩っていく。YMO「Radio Junk」披露後、高橋は「夢の島も最後になりました。みなさんが最高に楽しんでくれたら嬉しいです!」と呼びかけ、ラストはファンクチューン「Don't Move」で会場一体を躍らせた。


 アンコールは、高橋と何十年にも渡り親交の深い、スティーヴ・ジャンセンを連れて再びMETAFIVEが登場。スティーヴがドラムセットに座ると、高橋は「どうしてもこの曲をまりん(砂原良徳)が言うから。この曲はもうやることはないかもね。夏の終わりだし」とYMO「君に、胸キュン。」を披露。ライブ途中には、ミニアルバム『METAHALF』のリリースと初のワンマンツアー『WINTER LIVE 2016』の開催をアナウンスし、新曲「Chemical」もいち早くパフォーマンス。この日ラストの夏フェス出演でもあったMETAFIVEから、オーディエンスに贈る嬉しいサプライズとなった。


 この日、出演していたWEAVERはYMOの「RYDEEN」をカバーし、スチャダラパーはアクトのラストに「サマージャム(ワーハピVer.)」と題して、メロディーの上に坂本龍一「戦場のメリークリスマス」を乗せパフォーマンスしていた。高橋は『WORLD HAPPINESS 2016』のオフィシャルホームページで、「上の世代には新しい才能を、若い層にはキャリアのあるアーティストと触れ合える場になればという考えでやってきました。(途中略)長いポップ・ミュージックの歴史の中で培われてきた、そのDNAとでもいうようなものが、この場を通じて次代に受け継がれていってくれたらという、そういう思いも込められています」とメッセージを残している。『WORLD HAPPINESS』は、幅広いジャンル・世代のアーティストが出演しているが、どの出演者からもキューレーターである高橋や上の世代への敬意を払う姿が見受けられた。2020年に開催される東京オリンピックに向けた整備として、今回で夢の島公園陸上競技場の使用はラストとなるが、ホームページには「SEE YOU NEXT YEAR」の文字が記載されている。これからも“音楽のDNA”が次の世代へ受け継がれていくことは確かだ。


(渡辺彰浩)