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SANABAGUN.、KANDYTOWNらによる最高の遊び! 異色のイベント「SPEAK EASY」レポート

2016年09月10日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SANABAGUN.(photo by MasashiYamada)

 今夏も屋内外でさまざまな音楽イベントが開催された。そのなかでも異彩を放つと同時に明確なコンセプトとマインドを打ち出した『SPEAK EASY~平成生まれのモグリ酒場~』と銘打たれたイベントが、8月7日に渋谷HARLEMで行われた。日本のヒップホップカルチャーを牽引するクラブとして有名な渋谷HARLEMだが、「SPEAK EASY」は深夜帯ではなく、15時オープン・20時クローズというデイイベント。つまり、未成年のオーディエンスにも広く開かれたイベントであることにも大きな意味があった。「SPEAK EASY」の“首謀者”である映像クリエイターチーム、BUDDA 108も含め出演者及び関係者全員が“平成生まれのヤングガン”であり、現在進行形のストリートカルチャーを生きる者たちのバイタリティーとフィロソフィーを掲げ、狼煙をあげることこそが、「SPEAK EASY」のコンセプトである。


(参考:SANABAGUN.高岩遼と岩間俊樹がめざす、音楽による革命 「リスナーの耳の鮮度を上げたい」


 イベントタイトルの由来になっている“スピークイージー”とは、禁酒法が施行されていた1920~30年代のアメリカにおいて、アルコールが密売されていた場所を指す隠語として使用されていた。2016年、東京から発信するストリートカルチャーの秘密基地、あるいは社交場として「SPEAK EASY」は立ち上がった。


 記念すべき第一回のライブアクトにはSANABAGUN.、KANDYTOWN、THE NUGGETS、SWINGERZ、リベラルa.k.a.岩間俊樹、前日に出演が発表されたTHE THROTTLE、DJにはオカモトレイジ(OKAMOTO’S)らが名を連ね、2Fのメインフロアでパフォーマンスを行った。さらに3FのBX CAFEにはスケートボードのランプを設置。DJのプレイをバックにスケーターたちがトリックを見せ、新宿のゴールデン街に今年オープンした特製のレモンサワーが名物のバーで1000冊を超える蔵書を所有する「The OPEN BOOK」がフード提供とブックブースを展開した。また2FのVIPエリアに隣接したエリアではタトゥーアーティストのブースも用意され、高岩遼(SANABAGUN./THE THROTTLE/SWINGERZ)や小杉隼太(SANABAGUN./Suchmos)が自らの腕にあらたなタトゥーを入れてもらっていた。大型のフェスでもクラブイベントでもライブハウスでもない、ある意味ではこれから能動的に音楽が鳴る場所での粋な遊びを覚えようとする意志が見受けられる若い客層も印象的だった。以下、駆け足になるが当日のライブアクトを振り返ってみたい。


 オープニングアクトとして登場したSWINGERZは高岩遼を中心に、THE THROTTLEの全メンバーとSANABAGUN.の隅垣元佐&高橋紘一&谷本大河、THE NUGGETSの工藤わたる、クラブミュージックやベースミュージック由来のミニマリズムとメロウネスの快楽をバンド編成で昇華する新鋭、yahyelのメンバーでありSuchmosのMVなども手がける映像作家の山田健人など、総勢12人の構成員から成る“表現者集団”である。彼らはこれまで演劇公演なども行っているが、“浪漫維新”を標榜するこの集団の実態はまだ謎が多い。この日もどんなパフォーマンスを見せるのかまったく未知だったが、ステージに上がった彼らは「SPEAK EASY」の開会宣言とまさかの「旅立ちの日に」の合唱という想像のはるか斜め上をいくやり方で、若干の緊張感が漂うフロアのムードを緩和させた。


 2番手のリベラルa.k.a.岩間俊樹は、SANABAGUN.のフロントで見せるスタイルとはまた異なる、90年代から00年代のハードな日本語ラップをルーツにした硬派かつ実直なフロウとリリックで、ラッパーとしての譲れないアイデンティティを誇示した。本人によると、現在SANABAGUN.の活動と平行してソロプロジェクトも進行中ということなので、おおいに期待したい。リベラルa.k.a.岩間俊樹は、現行のシーンにおいてとても稀有なラッパーである。


 7月にニューアルバム『YOUNG』がリリースされたばかりのTHE NUGGETSは、メンバー全員が21歳。“船橋のエルヴィス・プレスリー”の異名を持つフロントマン、工藤わたるのビジュアルからしてとてもその実年齢はにわかに信じがたいものがある。その音楽性の根底にあるのもオーセンティックなロックンロールであり歌謡なのだがしかし、決して懐古主義に陥らないエンターテインメント性に富んだ楽曲の構成力とパフォーマンス力でオーディンスをグイグイと引き込み、ツイストを踊らせていた光景は痛快だった。


 続いて、シークレットゲストとして登場したのは“NEW SAMURAI ROCK`N`ROLLバンド”こと THE THROTTLE。数えきれないほどの路上ライブを経て、満を持して9月7日にリリースするメジャーデビューアルバム『LET’S GO TO THE END』のタイトル曲のMVを会場で解禁上映し、そのまま同曲の実演へと雪崩れ込んだ。路上で鍛え抜かれた頑強なアンサンブルとステージングをもって、2016年の今に鳴るべきロックンロール像を提示し、わずか2曲ながら一度見たら忘れがたいインパクトを残してステージを去った。


THE THROTTLEとは様相が異なるジワジワとフロアを侵食するような熱狂を生み出しのが、世田谷区をフッドとする総勢16人のヒップホップクルー、KANDYTOWN。90年代とテン年代のムードがナチュラルに融和したようなスモーキーかつアーバンなビートの上で、多様なキャラクターを持つMC陣のマイクリレーが絶妙な押し引きのバランスで紡がれ、オーディエンスはそれぞれ自由なモーションでその音とラップに反応していた。KANDYTOWNは年内にワーナーミュージック・ジャパンからメジャーデビューする。


 ライブアクトのトリを務めたのは、SANABAGUN.。ジャズをルーツにさまざまなブラックミュージックのエッセンスを血肉化したその音楽的なメソッドやストリートに根ざしたアティチュードも然り、ある意味では「SPEAK EASY」の理念をもっとも体現しているのがSANABAGUN.であるといってもいいだろう。「M.S」や「大渋滞」、「まずは『墓』」などのインディーズ時代の楽曲から、「BED」や「人間」といったメジャーデビュー後の楽曲を1本の太いグルーヴで繋げてみせたこの日のSANABAGUN.のステージはとにかく自由でパワフルだった。向こう見ずでありながら不敵な熱量の高さはどこか路上時代のライブを彷彿させるものがあった。


 クロージングDJを務めたオカモトレイジのプレイを名残惜しそうにも楽しむオーディスエンスたちを見て、素直に「SPEAK EASY」の継続を期待した。最後にBUDDA 108の代表、神崎峰人が寄せてくれたコメントで本稿を閉じることとする。


「同世代の仲間たちと最高の遊びができた。400人を超えるお客さんが日曜の昼間に集まってくれて盛り上がってくれたし、何より出てくれた仲間たちみんなの笑顔がよかった。そして、さまざまな関係者の方々の協力に感謝いたします。平成生まれ、ゆとり教育も捨てたもんじゃないぜってことを世の中に知らしめることがコンセプトで、もっともっとたくさんの人々にこんな素敵な表現者たちがいることを認知させたい。次回の予定はまだ言えないけど、そもそも地方や海外開催の構想もあるので楽しみにしてください」 (文=三宅正一)