2016年09月10日 08:41 弁護士ドットコム
産経新聞の記者が、滋賀県大津市を被告とした行政訴訟で、原告の住民団体が開いた記者会見の録音データや資料を、団体に無断で市に提供していたことが波紋を広げている。この裁判では、競走馬の育成施設を建設する認可を出した大津市に対して、地元の住民団体が認可の取り消しを求めている。
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報道によると、9月5日、原告の住民団体が提訴の記者会見を開催。市の広報担当者が、提訴の詳細を知りたいと産経新聞大津支局の記者に相談したところ、会見に出席した別の記者が録音したICレコーダーや訴状などの配布資料を、団体に無断で被告の市に提供したという。
産経新聞は「厳正に対処する」としているが、進行中の裁判について、報道機関が当事者の一方を取材した資料を、もう一方の当事者に提供することは、法的には問題ないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
「報道機関の『取材の自由』は、国民の知る権利に奉仕するものとして、憲法21条に定める表現の自由に含まれ、あるいはそれと同等に尊重されるべきものとされています。
情報の流通は、民主主義社会の発展に不可欠であり、特に、権力の暴走を食い止めるために必要なことですから、『取材の自由』の重要性は疑う余地がありません。
そして、報道機関の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道機関と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることになりかねず、報道機関の業務に深刻な影響を与え、以後、その業務の遂行が困難になります。
このことから、取材源の秘密は報道機関にとっての職業の秘密に該当するとまで言われています(最高裁判所平成18年3月17日第三小法廷判決参照)」
田沢弁護士はこのように指摘する。「取材源の秘密」の観点から、今回のケースの関係をどう考えればいいのか。
「今回の産経新聞大津支局の記者が、住民側を取材して提供を受けた資料等を大津市に提供した行為は、軽々しく取材源を漏洩したことになりますので、取材源との信頼関係を損なうものといえます。
また、報道機関は、上記のとおり,権力の暴走を食い止めるという社会的使命をも担っております。対立当事者となっている住民側の情報を監視の対象とすべき権力側に提供したとなると、権力側に与する行為をしたことになります。
これでは報道機関の社会的使命を放棄しているといっても過言ではありません。
いずれにしても、報道機関のこのような行為は、取材源の協力を得られなくなる危険性を生じさせますので、報道機関の業務を阻害し、ひいては民主主義社会の発展をも阻害することになります。
今回の取材源にとってみれば、報道目的以外に使用しないとの前提で記者会見において提供した資料等が、訴訟の対立当事者たる市側に提供されたとなると、その暗黙の了解事項を遵守しなかったものとして、損害賠償(慰謝料)請求の対象とする余地もあるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp