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RADWIMPS『君の名は。』が2週連続首位 国民的バンドの風格手にした転機の作品に?

2016年09月08日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

RADWIMPS『君の名は。』(通常盤)

<石井恵梨子のチャート一刀両断!>


【参考:2016年8月29日~2016年9月4日週間CDアルバムランキング(2016年9月12日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2016-09-12/)


 じ、地味だなぁ……。パッと見ても、じっくり見ても、何度見返しても同じ言葉しか出てきません。9月12日付けの週間アルバム・チャート。宇多田ヒカル6年ぶりのアルバムや、EXILEのベストなど、大物の話題作が控えている9月ですが、その始まりはこういう感じ。うーん。CDってこんなにも売れないんだなぁ、というか、この程度の数字で決まる「トップ10」って何だろうと考えてしまいます。


(関連:RADWIMPSが『君の名は。』で発揮した、映画と音楽の領域を越えた作家性


 10位SMAP『Smap Vest』は、彼らを愛するファンが声を上げ続け、グループの名前を消さないでおこうとする草の根(というわりには国民的な規模の)運動ですから、今週4,564枚の売り上げでもいいと思います。塵も積もればダブルミリオンに届くでしょう。しかし、9位のV.A.『SHOW BY ROCK!!BEST Vol.1』が4,786枚、4位のangela『LOVE & CARNIVAL』が7,120枚となると、ちょっとあまりにもなぁ……。「ファン数千人が初週に購入」という事実を、「初登場でオリコン4位に登場!」と扇情的に書いてもいいんですよ。嘘はどこにもないんですから。


 もういっそオリコンは、ランキングとは別に、「今週(または今月)のスマッシュヒット」みたいな枠を作ったほうがいい気がします。条件は3万枚以上売れたこと。いや5万枚以上でもいいのですが、とにかく、マニア向けの作品と、確実に不特定多数に届きつつある話題作を分離して見せたほうがいい。もっとも、これは「オリコンチャートがひとつの権威である」という前提ありきの、古い価値観かもしれませんが。


 angelaは実力派歌姫を擁するアニソン・ユニットなので、CDを、そしてライブを大事に宣伝します。オリコン4位は名誉な出来事だと思います。では『SHOW BY ROCK!!!』はどうでしょう。テレビアニメ/ゲームアプリとして展開するこのプロジェクトにとって、CDはあくまで副産物。サイトのニュースを見ても「本日アルバム発売。オリコン9位登場!」の文字などどこにも見当たらず、「新キャラのキャスト情報が解禁!」などのほうが重要な話であることがわかります。今週6位の『おそ松さんCDシリーズ』、5位の『アプリゲーム・アイドリッシュセブン』、2位の『KING OF PRISM』などもまったく同じでしょう。CD作品がチャートでどう扱われようが別に関係ない。数字に一喜一憂もしない。メディアミックスで展開するアニメ/ゲームの制作側にとっては「CDなんて数千枚しか売れないから主力商品になりようがないでしょう?」ということかもしれない。これが今の価値観だとすれば、律儀にトップ10を調べ続け、毎週何かを考察しようとしている我々、いったい何なのでしょうか。


 最後に、本当の話題作。チャート1位はRADWIMPS『君の名は。』。先週と今週で累計9.7万枚の売り上げで、初の1位獲得も、それが2週連続となることも、実はバンドにとっては初の記録です。前作の場合は1位に少女時代が、前々作の時は1位にEXILEがいて、彼らはずっと2位に甘んじていたわけですね。初の首位。2週連続。これを彼らは名誉と受け取るのか、それともチャートなどどうでもいいと思っているのか。ちょっと気になります。


 また、そういう本人の認識とは別に、客観的に見て重要なのは、『君の名は。』に収録された楽曲が、オリコンのトップに君臨する国民的人気バンドに相応しいスケールを持っている、ということ。たとえば収録曲のひとつ「前前前世」は、トリッキーなアレンジを極力排したストレートなギターロックで、後半、いよいよサビが再び登場というタイミングの前に、〈Oh~Oh~Oh~〉というコーラスパートがわりと長く用意されています。サッカーのスタジアムに響き渡るような大合唱。これをRADWIMPSがやるのが興味深い。数年前なら野田洋次郎は誰にも追いつけない速度でラップをしていたかもしれないし、急にアレンジが切り替わり複雑なセッションが展開されたかもしれない。でも今は「みんなで唄えるコーラス」なのです。『君の名は。』は映画の脚本ありきで作られたサントラだから、100%今の彼らが反映されているとは言えないものの、長い目で考えれば、RADWIMPSがチャート1位に相応しい風格を手にした転機の作品、と言えるのかもしれません。


(石井恵梨子)