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乃木坂46は2016年の夏にどう成長した? 神宮BDライブが映し出した“2つのテーマ”

2016年09月07日 16:51  リアルサウンド

リアルサウンド

乃木坂46

 8月28~30日にかけて東京・明治神宮野球場で開催された『真夏の全国ツアー2016 ~4th YEAR BIRTHDAY LIVE~』は、そのタイトルにあるように2つの大きなテーマを背負っていた。


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 ひとつは2016年の全国ツアーを締めくくる、ファイナル公演としての性格である。深川麻衣卒業コンサートでもあった6月の静岡公演を経て、15枚目シングル『裸足でSummer』を携えての7~8月のツアーは、齋藤飛鳥が初のセンターポジションを担うことに強い意味が持たされていた。例年、夏シングルのセンターメンバーが中心に立つ真夏の全国ツアーだが、今年は過去に比べても特に、初センターを務める齋藤の奮闘にスポットがあたり、グループの中心人物としての成長に大きな期待がかけられていることをうかがわせた。神宮球場での3日間は、齋藤飛鳥をセンターに戴いて走り抜けてきた2016夏の乃木坂46の集大成である。


 一方でこの3日間は、これまでならば2月22日に開催されてきたグループのバースデーを祝う、半年遅れの記念ライブでもある。各地で行なってきたライブとは構成をまったく一変させて、アニバーサリーライブとして乃木坂46が発表してきた全曲を披露するため、内容的には一旦ここまでのツアーの流れからは切り離されることになる。そのコンセプト上、年を追って披露楽曲が増加するため、埼玉・西武ドームで開催された昨年のバースデーライブは7時間半に及ぶ構成となり、一日がかりの「お祭り」としての雰囲気を帯びていた。さらにシングルリリースを重ね、2枚目のアルバムリリースも経て楽曲数を重ねた今年は、神宮球場での3日間すべてをバースデーライブに充てることで、歴史の節目を無理なく、より丁寧に見せるものになった。


 初日はメンバー全員による「ぐるぐるカーテン」で幕を開ける。この曲で始まるのはバースデーライブではもはや親しみのある光景だが、昨年とはまた違う意義を持つ。昨年、2期生の中でまだ正規メンバーに昇格していなかった6人の正規メンバー入りが発表されたのは、3周年を祝うバースデーライブのアンコール時のことだった。つまり、前回のバースデーライブ開幕時点では、彼女たちはまだ研究生としての出演だったことになる。在籍する1・2期生全員が正規メンバーとして迎える初めてのバースデーライブで、グループのデビュー曲を現在のメンバー全員で表現することから、今年のバースデーライブはスタートした。


 この「ぐるぐるカーテン」にもうかがえるように今年のバースデーライブは、できるだけ楽曲オリジナルに近いメンバーでの披露を原則としながらも、過去曲の歴史や文脈をそのまま再現するだけでなく、現メンバー全員で乃木坂46の歩みを振り返り、現在形でパフォーマンスしてみせる色合いが強くなっている。たとえば、秋元真夏が活動に本格参加して初めてのシングル『制服のマネキン』パートの導入では、例年と同じくリリース時の秋元らの葛藤を振り返る。この時、VTR中に同時に重ねられるのは、秋元の活動再開とその復帰を受け止める西野七瀬との関係性が、かつてのバースデーライブですでに一度昇華されているという記憶である。今回のライブでは、このように過去のバースデーライブの一幕などもまた歴史として踏まえられながら、各シングルリリース時の状況だけでなく、その後のいくつもの変遷を想起させる場面が多かった。そして、その上で各曲をパフォーマンスするのは、充実期にある最新系の乃木坂46である。そこに結成から数えれば5年になるこのグループの歴史の厚みがうかがえる。


 それは、初日の本編ラストを飾る5枚目シングル表題曲「君の名は希望」にも見られる。楽曲披露前のVTRではシングルリリースの2013年の映像を印象的に用いながら、その2年後にこの曲で紅白歌合戦初出場を飾る展開までが語られる。それぞれのシングルがリリース以降、長期的にどのような意味を持ってきたのかまでを踏まえることで、楽曲を起点にグループの歴史のさまざまな側面に光をあてることができる。


 そして、シングルに関しては『君の名は希望』までで構成された1日目のライブからは、一つテーマが見えてくる。それは、5枚目シングルまでのすべての表題曲でセンターに立つ生駒里奈が、乃木坂46の象徴として定着するまでの歩みの確認である。このテーマ設定が自然に浮かび上がることで、単にバースデーライブを3分割したうちの一篇というだけでなく、一日で完結するライブとしての統一感を達成してみせた。時折、不敵にさえ見える力強い表情を浮かべる生駒を中心にしたメンバーたちは、芯の太さも表現の巧みさも楽曲リリース時から格段にレベルを上げ、活動初期の曲を2016年の色に更新しながらパフォーマンスしていった。


 1日目が生駒を軸とした活動初期の振り返りだったとすれば、6~9枚目までのシングル曲を中心に組み立てられた2日目は、白石麻衣や堀未央奈、西野七瀬とセンターに立つメンバーをシフトしながら、グループとしての幅を広げていった時期を再確認するものになっていた。時期を適切に区切りながら乃木坂46のストーリーをじっくり振り返るこのスタイルは、3日間を使って初めて実現できる表現だっただろう。本編ラストは9枚目シングル『夏のFree&Easy』収録曲で締めくくり、3日目へとストーリーを繋ぐ。台風の近づく天気との戦いだった3日間の中で、最も強い雨に見舞われた2日目終盤の9枚目シングル曲披露は、2014年以降グループ活動の中心を引き受ける西野の役割をことさらに引き立てる時間帯でもあった。


 そして生田絵梨花センターの10枚目シングル表題曲「何度目の青空か?」に始まる3日目は、披露される楽曲が持つ歴史と現在の乃木坂46との間のタイムラグがなくなってゆく、「今」を見せるライブになった。ただし、その中でも昨年のバースデーライブで初披露された「命は美しい」が1年半を経て圧倒的なパワフルさを備えた円熟型地になり、2期生メンバー6人による「ボーダー」が研究生時とは比較にならない自信をうかがわせるなど、直近2年ほどの間の進化も示してみせる。


 この最終日の公演も終盤に入ると、3日間をかけてたどってきた乃木坂46の歴史の上演が、2016年夏へと追いつくことになる。ここで、大がかりなバースデーライブは、冒頭に示したこのライブのもう一つの意味、つまり真夏の全国ツアー2016のファイナルとしての性格を強く帯びていく。「シークレットグラフィティー」「僕だけの光」など7月以降の地方公演で育てられてきた15枚目シングル収録曲が順に披露されることで、この夏のライブシリーズの締めくくりへと加速する。また、伊藤万理華と井上小百合による「行くあてのない僕たち」の初披露によって、全曲パフォーマンスというバースデーライブのコンセプトも完成を見た。このライブに託された二つの意味が集約されてゆき、ここまでの歴史を引き継いだ現在地として最終日の本編を締めくくるのは齋藤飛鳥センターによる「裸足でSummer」である。この夏に描いてきた二本の物語は、若いセンターの背負う最新曲でフィナーレを迎え、未来への橋渡しとなった。


 1日がかりでこそ表現できるものもあれば、数日に渡ってでなければ描けない景色もある。初めて後者を選択した今年、変則的な開催日程や台風への備えなど、ある意味これまでで最も懸念の多かった4周年のバースデーライブは、そのぶん史上最も贅沢に歴史の厚みを見せる3日間になった。さらに道が長く延びてゆく来年、ただでさえ容易ではないコンセプトを掲げてきたバースデーライブはどのような進化形を見せるのか。乃木坂46が新たな発想で臨む来年のスタイルへの期待も、さらに大きくなる。(文=香月孝史)