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BLUE ENCOUNTのライブはなぜ感動するのか? Vo.田邊が生み出す“個”とのつながり

2016年09月07日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BLUE ENCOUNT『映像で学ぶ! はじめてのブルーエンカウント』(通常盤)

 BLUE ENCOUNTが10月9日に開催する初の日本武道館公演に先駆けて、彼らのライブ入門編とも言える初の映像作品『映像で学ぶ!初めてのブルーエンカウント』を9月7日にリリースした。先日8月27日にNHK総合でオンエアされた特別番組『BLUE ENCOUNT 地元熊本に届ける想い~もっと光を~』が大きな反響を呼び、急遽9月2日に再放送されたばかり。もはやバンドシーンを飛び越えたドキュメントとして多くの視聴者に知られることになったBLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)を今回のライブ映像集をベースに振り返ってみたい。


(関連:BLUE ENCOUNT、新曲「はじまり」でネクストステージへ「“安定の不安定”で振り幅を提示したい」


 映像集には2013年12月の渋谷でのワンマンから2016年6月の新木場STUDIO COAST公演まで、時間軸通りではなく楽曲の流れ重視で全12曲が収録されている。筆者が初めてブルエンのライブに触れたのは、2014年12月に行われたTSUTAYA O-EASTでの『TOUR2014 ROOKIE’S HIGH』ツアーファイナルで、まさにメジャーデビューを発表するタイミングのライブだった。そこで初めて田邊駿一(Vo./Gt.)の凄まじく長尺かつバンドヒストリーを踏まえたMCを経験したのだが、その時点でバンドは結成11年、ライブの動員も伸びず同期や後輩が売れていく過程に打ちひしがれながら決して活動を止めることはなかったのは、目の前のあなたたち一人ひとりがいたからーー。一歩間違えれば根性論すれすれの暑苦しい印象を持ちそうなこんなMCである。しかもそのロングMCに続いて披露されたのは、メジャーデビュー・シングル曲「もっと光を」だ。自分自身は光になれないけれど、一人で苦しむあなたをできる限り照らしたいという曲である。それまで彼らの歩みを応援してきたわけでもない身としては、美談すぎるというか、なんだこの出来過ぎな流れは? という気持ち半分、ステージとフロアの熱量に圧倒されて理屈抜きに感動していることに驚く気持ち半分というのが正直なところだった。


 そして次のタイミングでは「もっと光を」で、それまでのメロディック、ラウド系のファン層から一気に広範囲なロックシーンのネクストブレイクと目され、早くもメジャー第2弾シングルでアニメ『銀魂』(テレビ東京系)オープニングテーマでもある「DAY×DAY」リリース後のツアーファイナル。Zepp DiverCity(TOKYO)を見事にソールドアウトしてのライブだ。この日の田邊は過去、派遣仕事で訪れていた「新木場行き」の電車へのトラウマをMCで吐露し、「ここに来るのが嫌だった」とまで言ったのだ。そこで露わになったのはバンドの艱難辛苦な物語ではなく、それでもほんの何十人かの自分たちの音楽を必要としてくれる目の前の誰かの力であり、自分を信じることだけでは人は前に進めないという弱さも表明する、ブルエンというバンドの素直さだった。もうこの頃になると暑苦しいけどそれがなんだ? という気持ちで彼らのライブを心底楽しめるようになっていた。


 しかしメンバーはこのZeppDiverCityのライブは「ハコの後ろまで届けられなかった」「ブルエンらしさに甘えていた」とのちに筆者が行ったSkream!のインタビュー(http://skream.jp/interview/2015/07/blue_encount.php)で発言し、今回の映像作品集の副音声でも当時を振り返っている。そしてその「届かなかった」原因を徹底究明。演奏をさらに研ぎ澄ますことで臨んだのが、メジャー1stアルバム『≒』に伴う全国ツアーのファイナルとなるZepp Tokyoでの2Days公演だった。この日のハイライトとして、シングルとしては初めてバラードにチャレンジした「はじまり」の披露があった。『第94回全国高校サッカー選手権大会』応援歌として書き下ろされたこの曲で田邊は、自分の殻に閉じこもり、一番辛かった高校時代のことをあえて主軸にした。そしてもう一つのハイライトは、祝福すべきことでありながら苦しそうに次へのチャレンジ、つまり初の武道館公演を発表した瞬間だ。


 晴れてメジャーデビューしたものの想像したほどシングルは奮わず、スタッフの期待に応えられないこと、そんな思いもあってほぼ曲が出揃っていた『≒』の曲を書き直して完成に至ったこと、知名度が上がり動員が増えることよりも一人ひとりの「あなた」に信頼されるバンドでありたいことなどが、この日も田邊のロングMCに吐露されまくっていた。そこで新規のオーディエンスもブルエンというバンドの性格を知らずに取り残されることなく、この日初めて参加した地点から彼らのストーリーをその音楽が鳴っている時も、もしかしたらそうでない時も共に生きていくことになる。武道館公演というあらゆるバンドにとってのエポックは、歓喜だけなわけがないのだ。この日のオーディエンスの中にも、大きな仕事を任されてビビってる人も、翌年、受験が待っている人もいただろう。そうでなくても日々生きていくのはしんどい。ブルエンがユニークなのは、ファンと「同じ目線でいる」根拠の提示があけすけすぎることだ。それがブルエンのライブは暑苦しくも感動する最大の理由なのだけども。


 そしてこの春、彼らにとってはワンマンとはまた違った意味で、今の自分たちだからこそ実現した対バンツアー『TOUR2016 THANKS ~チケットとっとってっていっとったのになんでとっとらんかったとっていっとっと~』。バンド史上最長の全国36公演には3月から6月まで各地にSUPER BEAVER、アルカラ、LONGMAN、ヒトリエ、フレデリック、忘れらんねえよ、ircle、I-RabBits、クリープハイプ、サンボマスター、04 Limited Sazabys、ポタリ、キュウソネコカミ、9mm Parabellum Bullet、THE ORAL CIGARETTES、グッドモーニングアメリカ、TOTALFAT、Northern19、go!go!vanillas、Fear,and Loathing in Las Vegasという今のロックシーンの中軸を担う、ブルエンにとって先輩、同期、後輩が即答&快諾で共演。今のブルエンだからこそ叶ったツアーだった。


 そして、その九州ツアーが始まる直前に彼らの地元、熊本を地震が襲う。開催を願うファンと開催に対してネガティブな意見もある中で、ギリギリの選択を迫られながらライブを実現。しかも地震の発生は最新シングル『だいじょうぶ』のレコーディング前日だったというのだから、心情的にも揺さぶられる部分は当然あっただろうし、物理的には制作とライブが並走していたわけで、一つのバンドが経験する事柄としては重すぎる事態が4月に集中していたことになる。


 映像作品集の内容から一旦逸れたが、一連のヘビーな出来事、そして最長の対バンツアーを終えた先にあったのがワンマンでの追加公演だ。映像作品集には6月30日の超フルキャパの新木場STUDIO COAST公演が収録されているが、印象的なのはメンバー全員の笑顔だ。ここまで力みのないブルエンは初めて見た記憶がある。


 長々と彼らのライブの演奏面以外のことに触れてきたが、実は映像作品集にはほぼ「熱く長いMC」は収録されていない。ただ、その前後に何があったのだろう? と思わせるファンの涙や、田邊以上に全力で歌うファンの姿が捉えられている。バンドの演奏そのものはストレートにドキュメントとして捉えられ、しかも12曲があっという間に終わってしまう。今、ブルエンのライブでスタメン起用されている楽曲と彼らの演奏の熱量だけを映像作品集に凝縮したことからは、彼らのそれらに対する自信がうかがえた。


 そのライブ1本1本の全体像はこの映像ではわからない。だからこそ、未体験のリスナーにはなぜブルエンのライブが「暑苦しくも感動的」なのか自ら体験して欲しい。(石角友香)