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『星ガ丘ワンダーランド』『怒り』『何者』……日本映画界のいまが見える、豪華キャストの群像劇

2016年09月06日 18:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会

 主演の中村倫也をはじめ、新井浩文、菅田将暉、杏、市原隼人、松重豊ら、今の日本映画界を支える実力派俳優がバランスよくキャスティングされた『星ガ丘ワンダーランド』。その舞台は、冬になると雪が降りしきる地方にある、星ガ丘。駅員として働いている温人(はると・中村倫也)は、20年前に家族を捨てて家を出た母(木村佳乃)との再会を日々願っていたが、届いたのは彼女が自殺したというニュースだった。


参考:窪田正孝、菅田将暉......連ドラ出演中の売れっ子若手俳優は、"理想の寄り添い男子"だ


 この20年の間に母親に何があったのか? そもそも母親は本当に自殺したのか? だったらなぜ、300万円という大金を持って家を出たのか? いきなり殴りかかってきた異父兄弟の雄哉(菅田将暉)が放った「(母親に)金をせびってたのかよ!」という言葉の意味はなんなのか? 母親へのやりきれない思慕を抱きながら、数々の疑問と自分の過去に向き合う温人を観客は見守る。その一方で観客は、父(松重豊)の死後、温人はなぜ兄(新井浩文)と疎遠なのか、という謎にも引き寄せられながら、物語の見届け人となる。


 好青年だが、過去の哀しみを抱えたまま大人になった温人を、控えめながらも印象的に演じるのは中村倫也。05年に『七人の弔い』でデビュー後、映画、ドラマ、舞台で経験を積んできた。30歳を迎える今年、この『星ガ丘ワンダーランド』に主演した他、7月クールのドラマ「闇金ウシジマくん Season3」では主人公の女性編集者(光宗薫)に近づき、彼女の家族を地獄に叩き落とすDVサイコ野郎の神堂大道役でインパクトを与えたばかり。また、上演中の舞台『Vamp Bamboo burn~ヴァン!バン!バーン!~』では、劇団☆新感線初参加にして、物語の鍵を握る重要な役を演じきっている。これからも、硬軟善悪どんな役でも演じられる役者として、ますます注目度が高まりそうだ。


 中村が演じる温人が関わる人々は、それぞれを主人公にして映画を作れるくらい、“何か”を抱えている。決して多くはない出演シーンで、“何かを抱えているキャラクターであること”を、的確に表現する役者たちの演技は鮮やかの一言であり、それこそが群像劇の醍醐味だろう。


 主演級の俳優が競演する、見応えのある群像劇は他にもある。


5月に公開された『ディストラクション・ベイビーズ』は柳楽優弥が演じる人間の姿をしたモンスターを中心に、菅田将暉、小松菜奈、でんでん、三浦誠己、池松壮亮らが、キャラクターを通して人間の灰汁や澱みを浮かび上がらせる。そんななか、まだ無垢な存在を、まだ役者として色のついていない村上虹郎が体現する。限りなくインディペンデントに近いこの作品に、この曲者キャストが揃ったということは、脚本も手がけた真利子哲也監督の才能がそれだけ注目を集めている証拠だろう。


 ある殺人事件を軸に、沖縄、東京、千葉で3つのストーリーが進行する『怒り』もまた、若き巨匠、李相日監督だからこそ、渡辺謙、妻夫木聡、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、広瀬すずという、名実ともに日本を代表する主演俳優たちが結集したといえる。


 山田孝之が演じる丑嶋が社長を務める闇金「カウカウファイナンス」の客たちの人生模様が交錯する『闇金ウシジマくん』シリーズ。これから公開されるPart3とthe finalでは、本郷奏多、浜野謙太、永山絢斗、太賀、安藤政信らがゲストとして出演する。シリーズ開始当初に比べ、明らかにゲスト俳優のバリューが高くなっているのは、シリーズが認知されたことと、シリーズの中心を担う山田孝之の求心力にある。


 『何者』は、SNS世代の就活生たちを通して人間をえぐる、痛みを伴う青春映画。佐藤健、菅田将暉、二階堂ふみ、岡田将生、有村架純らが就活生を、先輩の院生を山田孝之が演じる。『桐島、部活やめるってよ。』で高校という限定された場所での人間関係を描いた群像小説の名手・朝井リョウと、やはり群像劇といえる『愛の渦』でセンセーションを巻き起こしたポツドールの三浦大輔がマッチングする企画に、若手のトップランナーが参加した。


 偶然か、必然か、ここに挙げた作品はどれも、人間の弱さや暗い部分、今の日本社会が抱える問題にフォーカスを当てた、作り手の熱量が感じられるものばかり。そこに参加した力のある俳優陣が、どんなケミストリーを起こしているのかを、見逃す手はない。(須永貴子)