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『HiGH&LOW』が創る“ユニバース”の革新性ーー生身の人間による総合エンタテイメントを読む

2016年09月06日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

■生身の人間から新たな“世界”を創る


 『HiGH&LOW』は、EXILE HIROがプロデュースし、音楽アルバム『HiGH&LOW ORIGINAL BEST ALBUM』、ドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』、ドラマの続編にあたる映画『HiGH&LOW THE MOVIE』、そしてライブショー『HiGH&LOW THE LIVE』(以下、『LIVE』)など、多様な作品が同一の世界観を共有しながら展開する一大プロジェクトである。全体を貫く物語は、架空の地域SWORD地区を舞台に、山王連合会、White Rascals、鬼邪高校(おやこうこう)、RUDE BOYS、達磨一家ら5つのチームと、かつて地区をまとめていたバイカ―集団MUGENの元リーダー・琥珀がある理由から激しい戦いを繰り広げる集団抗争劇である。ここに、喧嘩最強の雨宮兄弟、SWORD支配を狙う九龍グループ、音楽とダンスの理想郷を作るために琥珀に力を貸すMIGHTY WARRIORS、琥珀を陰で操る海外マフィア李、抗争を見守る(?)苺美瑠狂(いちごみるく)などいくつもの勢力が絡んでくる。


参考:『HiGH&LOW THE MOVIE』の“集団戦”はいかに生まれたか? アクション監督・大内貴仁が語る


 筆者はもともと、メインキャストであるEXILE TRIBE(EXILE、三代目 J Soul BrothersらEXILE系アーティストの総称)ファンというわけではなく、『るろうに剣心』に参加した大内貴仁氏のアクション演出と、窪田正孝・林遣都・山田裕貴の出演につられて観はじめたクチである。ところが、ドラマからすべてを鑑賞した今ではその魅力にとりつかれ、アルバムをヘビーローテーションで聴きまくり、劇中のセリフを脳内で反復する、まさに『HiGH&LOW』中毒の日々を送ることになってしまった。同様にEXILE TRIBEに縁がなかった映画ファンや俳優ファン、そのいずれでもない属性の人間で、『HiGH&LOW』の虜になる人も増えてきているようだ。なぜ、『HiGH&LOW』はジャンルを越えて新たなファンを獲得しはじめたのか。ここでは、プロジェクトの集大成である『HiGH&LOW THE LIVE』を入口に、『HiGH&LOW』全体の魅力について考えていく。


■『HiGH&LOW THE LIVE』で明らかになる全貌


 端的にあらわすならば、『LIVE』はドラマ・映画・音楽アルバムの世界を文字通りライブで再現したものだ。そして、『HiGH&LOW』の演者たちが物語から抜け出し、本来のパフォーマーとしてもライブを繰り広げる……つまり架空の世界と現実をつなげるエンタテインメントショーなのである。ドラマ・映画で登場する『マッドマックス』的な驚くべきアクションシーンも表現するし、映画の冒頭を思わせる爆発、肉弾バトルや剣戟、そしてコミカルな寸劇すら再現するのである。もちろん、「一方その頃湾岸地区ではMIGHTY WARRIORSが……」でおなじみの‟あの声”も大活躍。そして、各チームのテーマソングをEXILE TRIBEの各ユニットがパフォーマンスすることで、映画・ドラマの物語を目の前で紡ぐのである。さらに言うならば、ドラマ・映画版では見られなかった、「あの人があのチームにいたら?」といった「もしも」シチュエーションや、いままでフィーチャーされなかったキャラクターの活躍など、公式の二次創作的な展開まで用意されている点にも触れておきたい。このあたりは、公式サイトで明かされている出演者を見れば少しは予想できるはずだ。ただ、そのイメージを軽く上回ってくるのが、『HiGH&LOW』の恐ろしいところなのだが。


 筆者はドラマ→映画と物語の順を追って楽しんできたので、『LIVE』に登場するアーティストたちをすべて劇中キャラとして(例えばAKIRA=琥珀さん)認識していた。だからこそ、ある段階でアーティストたちがキャラの殻を破って見せるパフォーマンスはとても新鮮。EXILE TRIBEの面々が「EXILE」という1つのイメージではなく、各々に豊かな才能と魅力を持っていることを知ることになり、心底驚かされたのである。映画・ドラマの世界が現実のEXILE TRIBEのエンタテインメントと結びつく。それが『LIVE』の正体である。


■『HiGH&LOW』ユニバースが生み出す生身の“キャラクター”


 『HiGH&LOW』のキャッチコピー「全員主役」は大仰な宣伝文句ではなく、プロジェクトのコンセプトを表した言葉である。各チームのリーダーがドラマ各話で主役として登場し、音楽アルバムにはそれぞれのテーマソングまで収められている。彼らが映画・ライブでくりひろげる祭りが『HiGH&LOW』なのである。実は似た方法でおなじくある“世界”を創った人物がいる。アメコミヒーローたちが同一世界線上に存在する“マーベルユニバース”の生みの親・漫画原作者スタン・リーである。彼はスパイダーマンなどのヒーローに「なぜ覆面をかぶるのか」「スパイダーウェブ(糸)はどこから出るのか?」「どうやってスーパーパワーを手に入れたのか?」「なぜこんなデザインなのか」といった大量の設定を性格にも紐づけ、キャラクターを構築してきた。そうして生まれたヒーローを各タイトルのコミックで育て、『アベンジャーズ』のようなクロスオーバー作品で集合させて世界をつくったのである。


 『HiGH&LOW』がマーベルと異なるのは、キャラクターが生身の人間であるキャストのパーソナリティから生み出されていること。演者の持っていたものから作り上げられたキャラに違和感がないのは当然だ。そして、表現するメディアがコミックや映像にとどまらず“音楽とライブ”におよんでいるのも特筆すべき点。各キャラのテーマソングをアルバムで聴けば、映画やドラマの名場面が頭に浮かび、ライブでは物語の主人公たちと間近に触れあうことができるのである。例えばマイティー・ソーが歌って踊って戦い、ときおりクリス・ヘムズワースとしてパフォーマンスするライブをイメージすれば、興奮しないファンはいないはず。また、『HiGH&LOW』の世界は、EXILE HIROによるコンセプトに沿っているものの、原作が存在しないために設定や物語をどんどん追加することができ、際限なく広がっていく。



 LDHはこれまでもコミック・アニメ『エグザムライ』や、PV・ライブでも“世界”を作って提示はしていた。ただし、それらを楽しんでいたのは既存のファンがほとんどだった。『HiGH&LOW』では、大内アクション監督・スタントチーム、そしてインディペンデントで活躍してきた監督たちなどの新しい血を入れてユニバースを作り上げることで、様々なジャンルを越境したファンを惹きつけることができたのである。まさにMUGENの可能性を秘めたプロジェクトーーそれが『HiGH&LOW』なのだ。(藤本洋輔)