「子供を育てたことのない人には、私たちの気持ちはわからない――」
放送中の連ドラ「ノンママ白書」(フジテレビ系)で、鈴木保奈美演じる50歳・独身子なし広告代理店の土井部長が、内山理名演じるワーキングマザーの野村に言われる言葉だ。大きなミスしても、子供がいることを印籠のように振りかざす野村が不愉快で、それに何も言い返せない鈴木保奈美(土井部長)が疑問だった。
なぜ、「子供がいようがいまいが、責任をもって仕事しなさい!」と言えなかったのか。答えを求めて、ドラマの原作となった香山リカ氏の「ノンママという生き方~子のない女はダメですか?~」(幻冬舎刊)を手に取ってみた。筆者はノンママではないが女性として共感するところが多く、読んでいるうちに涙目になってしまった。(文:鈴本なぎこ)
「結婚はしない」と誓約させられた均等法第一世代
「ノンママ」とは、子どもを持たない選択をした女性に対する造語だ。香山氏も子供がおらず、今年56歳になる。エッセイのようなスタイルで「なぜ自分は子供を持たなかったのか?」の答えを探しつつ、様々な理由で子供のいない女性たちのリアルな胸の内を告白している。
この本が書かれたきっかけは、香山氏と同世代のノンママである共同テレビジョンの栗原美和子氏との出会いだそうだ。2人が共感しあったノンママの本音を「映像化を前提にして本にしよう」と企画された。
香山氏は男女雇用機会均等法が施行されたころに働き始めた、いわゆる「均等法第一世代」。仕事がしたければ男性とまったく同じハードな働き方をしなくてはならず、子供ができればキャリア即終了の時代だった。就職する際に「結婚はしない。子供も作りません」と誓わせた企業まであったという。
そんな時代を過ごした彼女たちが50代になったいま、あたかも少子化の原因のように批判され、ワーママのフォロー役を担い、「なぜ子供がいないの?」という言葉に傷ついている。50代にもなれば自分の生き方への心の整理がついているものかと思いがちだが、本書に登場するノンママたちを見ていると、そんなことはないのだとハッとさせられる。
自分の人生に対し、後ろめたさを感じる必要はない
読み進むうち、少しだけドラマでの疑問が明かされた気がした。こんな一文がある。
「ノンママにとっていちばん傷つくひとことが、『子供のいない人にはわからない』『産んだことのない人にはわからない』ではないだろうか。そう言われてしまったら、返す言葉がなくなる」
香山氏は精神科医として、患者である子供の親から「子供がいないアナタじゃ、分かりませんよね」とウンザリするほど言われている。「むしろ子供がいないからこそ客観的に見られます」という反論を、ほとんど飲み込んできたようだ。
ドラマはあくまでノンママ視点の話なので、言い返せない哀しさ切なさを強調し、「こんな言葉は、ノンママ・ハラスメントですよ」と訴えたかったのではないだろうか。
その一方で香山氏は本書で「反論できない」という思い込みから、まず自分を解放すべきだと説く。それは時代に翻弄されながら懸命に生きてきた自分の人生に対し、後ろめたさを感じる必要はないという励ましだろう。
「子供のいない人の気持ちが分からない」人にも
さらに香山氏は、子供を産まない女性の問題をめぐって「女性同士で対立すること」や「プライベートな問題に国家が介入すること」の危険を訴える。
「子育てだけが人生でやらなければならないことではない」
「『あなたたちの人生を犠牲にしても子供を産むべきだ』などと強要するのは、時代錯誤な人権侵害でしかない」
子供がいようがいまいが100%思い通りの人生などなく、良い面も悪い面も双方にある。その選択は、それぞれに尊重されるべきだ。子供のいない女性が共感する本だが、「子供のいない人の気持ちが分からない」という人にも、ぜひ読んでもらいたい一冊である。
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