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性行為なき「ネトゲ不倫」既婚女性と愛をささやき、結婚も…慰謝料は請求される?

2016年09月05日 10:12  弁護士ドットコム

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オンラインゲームで既婚女性と親しくやり取りをしているけれど、これって「不倫」になるの? 弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、ある男性がそんな相談を寄せました。


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相談者によると、その女性とはゲーム内のみの関係で実際に会うつもりはないそうです。しかし、毎日のようにLINEやスカイプで連絡を取り合っているといい、今度、ゲーム内のシステムを使って「結婚」する予定とのこと。


相手の女性は、相談者の夜勤の仕事が終わるまで寝ずに、ゲーム内で待ってくれているそうです。また、LINEでは「ずっと一緒だよ」「一番大好き」などの言葉を送ってくれ、相談者もノリで「俺もだよ」と返したことがあるといいます。また女性はツイッターでも、相談者について「大好き」と公言しているそうです。


女性は1日のほとんどをオンラインゲームで過ごすこともあるといい、相談者は「ご主人が許容しているのか」と心配しています。


こうしたやり取りが相手女性の夫にバレた場合、不倫にあたるとして、慰謝料を求められる可能性はあるのでしょうか。また、このやり取りが原因で、女性が夫から離婚を求められた場合、相談者も法的な責任を負う可能性があるのでしょうか。小松利之弁護士に聞きました。


● 女性と相談者のやり取りは「不貞行為」といえる?


相手女性の夫から相談者への慰謝料請求が認められるかどうかは、今回のケースの女性の行為が「不貞行為」といえるかがポイントです。


まず、不貞行為とは、民法で定められた離婚原因の1つで、「配偶者のある者が自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと(最判昭和48.11.15判示724・44)」です。


性的関係は性行為に限らず、夫婦間の貞操義務に忠実でない一切の行為を含むというのが通説ですが、判例上はほとんどが性行為を不貞としています。判例が通説を支持しているかは明らかではありませんが、判例・実務はかなり法定離婚理由を絞っていることが伺われます。


今回のケースを、あくまでオンライン上の行為のみに着目して検討してみます。


まず、相談者は相手の女性とはオンライン上の関係のみで、性行為はないので、判例・実務に従えば不貞は否定されます。そのため、相手女性の夫から相談者に対して、貞操侵害を理由とする慰謝料を請求したとしても、認められません。


参考までに、通説ではどうでしょうか。通説では、「夫婦間の貞操義務に忠実でない一切の行為」つまり「夫婦間の性的純潔(貞操)に対する裏切り行為」と考えられます。具体的には、性行為にとどまらず、広く、キスや、2人で頻繁に食事にいくなどの行為(交際など)も不貞とされるようです。


今回のケースでも、オンラインゲームを通じ交際しているとはいえそうなので、あくまでも通説上は、不貞行為に該当するでしょう。通説に当てはめれば、相手方に対しても貞操侵害を理由とする慰謝料請求が認められる可能性があります。


なお、貞操侵害は「共同不法行為」とされますので、相手女性の夫は、相談者だけではなく、不貞を行った妻に対しても、慰謝料を請求できます。


● 夫婦が「離婚」したら、慰謝料を請求される?


不貞行為とはならないまでも、配偶者がオンラインゲームにはまって家庭を顧みず、夫婦関係が回復不能なダメージを受ける可能性もあるでしょう。その場合には、夫婦関係が破綻したとして「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条5号)にあたり、離婚理由となることが考えられます。


オンラインゲームでは、キャラクターそれぞれの個性や行動心理、感情表現が見事に再現されています。それにより、えてして実際の恋愛感情が高まってしまう事態が想定されます。実際に、かつて私が担当した事件でも、オンラインゲームに夢中になったご主人に対して、奥様が浮気を疑い精神的に不安定になってしまった事案がありました。


今回のケースも、あくまでオンライン上の関係に過ぎないとはいえ、LINEやツイッターでの当事者の言動、「結婚」まで想定されたストーリーにより、擬似恋愛という域を超えて愛情に発展していると考える余地があります。こうなると、家庭が壊れてもおかしくないかもしれません。


ただ、もし夫婦関係が壊れて離婚に発展した場合に、相手女性の夫から相談者に対して慰謝料請求できるかといえば、可能性は低いでしょう。理屈としては、相談者は夫婦の破綻に加勢した者として違法だといえそうですが、実務上は、性行為を伴う不貞行為が認められなければ慰謝料請求は難しいと考えられます。




【取材協力弁護士】
小松 利之(こまつ・としゆき)弁護士
同志社大学法学部法律学科卒業
第52期司法修習生
東京弁護士会所属
17年目になり、専門分野を絞ることなく一般民事、家事などのゼネラリストとして経験を生かした法律事務処理と日々の研鑽をモットーにしています。
事務所名:小松法律事務所