アメリカ伝統のサーキット“ザ・グレン”で開催されているインディカー・シリーズ第15戦。4日に行われた決勝レースは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がポール・トゥ・ウインで今季2勝目を挙げた。最後尾からスタートした佐藤琢磨(AJフォイト)は、追い上げを見せるも終盤にスピンを喫し17位でレースを終えた。
ワトキンス・グレン・インターナショナルの全長3.37マイルのコースで行なわれた3回のプラクティスすべてで最速ラップを記録し、予選でもポールポジションを獲得したスコット・ディクソンは、レースでも無敵の速さを誇った。
清々しい快晴の空の下、上位陣と同じ新品のレッドタイヤでスタートすると、4周で2番手のウィル・パワー(チーム・ペンスキー)以下に3秒以上の差をつけ、11周目にはそれが5秒以上にも広がっていた。
今日の彼には運も味方した。トロントでは他を圧倒する速さを見せていながら、イエローの入るタイミングひとつで勝利を逸した。しかし、今回は彼が14周目にピットに入った直後にミカイル・アレシン(シュミット・ピーターソン)のアクシデントが発生し、上位陣でまだピットしていなかったパワーは、フルコース・コーションになってからピット・ストップを行うと14番手にまで後退していた。
ここで2番手に浮上してきたチームメイトのルーキー、マックス・チルトン(チップ・ガナッシ)は、20周目のリスタートで軽々と突き放し、30周目には10秒以上のリードを持つほどだった。
60周のレースは、40周を迎えるところでパワーにチャーリー・キンボール(チップ・ガナッシ)が接触して起こったアクシデントによる3回目のフルコースコーションが出された。そして、41周目にほぼ全車がピットイン。ここからの勝負は、ゴールまで燃費をセーブして走り切ることを目指すのか、スピード勝負で短い給油も辞さない構えでいくのか、2パターンに分かれた。
ディクソンにはスピードと燃費の両方があった。エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)が懸命の走りでディクソンに差を広げられないよう奮闘していたが、彼はゴールまで3周というところでピットに向った。ディクソンはこの少し前からペースを下げ、2番手以下との差は縮まっていったが、ゴールまで無給油で走り切ったのだった。
カストロネベスに代わって2番手に浮上したジェームズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン)は最終ラップにガス欠でストップ。無給油で走り切ったジョセフ・ニューガーデン(エド・カーペンター・レーシング)が2位に入ったが、ディクソンとの間には16.5秒以上もあった。
短い給油をし、タイヤ交換なしでコースに復帰したカストロネベスは3位。4位には燃費セーブの作戦で戦ったルーキーのコナー・デイリー(デイル・コイン・レーシング)が入った。シボレーが1-2-3フィニッシュで、ホンダのトップはデイリーだった。今シーズン2回目のトップ5フィニッシュだ。
ディクソンにとってのワトキンス・グレン・インターナショナルでの4勝目は、キャリア通算40勝目で、アル・アンサーの39勝を抜いて歴代単独4位となった。AJ.フォイト(67勝)、マリオ・アンドレッティ(52勝)、マイケル・アンドレッティ(42勝)に続く4位だ。
「今日の僕らは燃費が非常に良かった。シボレー・ボルトのように電気で走っていたんだよ」とディクソンはジョークを飛ばし、「マシンのセッティングが良かったから燃費良く走れた。シフトチェンジをせずに速いペースを保てるぐらいのマシンになっていたんだ。今週末、僕らはプラクティス、予選、決勝を完全制圧した。これだけ競争が激しいインディカー・シリーズにおいて、これを実現するのは容易じゃないんだ。それだけに自分の記憶に強く残るレースになるかもしれない」とディクソンは語った。
サイモン・ペジナウ(チーム・ペンスキー)とパワーによるチャンピオン争いは、レース前に28点あったポイント差が、レース後には43点に広がった。パワーはキンボールとの接触でクラッシュ、リタイアを喫して11点しか稼げなかった。ペジナウは粘り強くゴールしてスタートと同じ7位となり、28点を可算した。
「いろいろあったレースだった。ウィルより多くのポイントを稼げたのは大きい。最終戦の自分にはプレッシャーがかかるが、それはいつもと同じことだ。普段と同じように全力で戦うだけだ。自分のコントロールできないもの、相手の順位とかを気にしても仕方が無い。自分のやれることをやり切るだけだ」とペジナウは話していた。
今日優勝したディクソンがポイントランキング3番手に浮上。すでにペジナウと彼の間には104点の差があり、最終戦での逆転は、彼が欠場してノーポイントとならない限り不可能となった。2016年のチャンピオン争いは、パジェノーとパワーのふたりに完全に絞り込まれたということだ。
佐藤琢磨は17位に終わった。レース終盤のパワーのアクシデントでフルコース・コーションが出された際にステイアウトする作戦で2番手へと浮上。トップグループも燃費が厳しい戦いとなる展開と読んで、ゴール間際にスプラッシュを行って上位に食い込む作戦は見事に当たりそうだったのだが、59周目にスピンを冒した。
「ペジナウをパスしようとアウトから仕掛けたら、スピンしてしまった。外に行き過ぎてタイヤかすを拾ったのかもしれない」と琢磨は悔しがっていた。