9月1日にF1からの現役引退を発表したフェリペ・マッサ。会見にはマッサとともにチーム副代表を務めるクレア・ウイリアムズが出席。さらに向かい合う記者席の最前列には、父親のルイス・アントニオと今年7歳になるフェリペーニョを抱える妻のラファエラと、マネージャーを務めてきたニコラ・トッドが座っていた。
マッサのための会見に席は用意されていなかったが、この会見を舞台の袖から立ったまま聞いていたドライバーがひとりだけいる。それはチームメートのバルテリ・ボッタスだ。約2年半の間、マッサとともにウイリアムズで戦ってきたドライバーは、マッサの引退をどのような気持ちで受け止めていたのだろうか。
「彼からは本当にいろんなことを学んだ」と述べていたボッタス。これはお世辞でもなんでもない。長年ウイリアムズでボッタス車のメカニックを務める白幡勝広はこう語る。
「マッサがウイリアムズに加入した2014年、ボッタスはこれまでのドライバーと違うマッサから本当にいろんなことを学んでいました。例えば、ピットストップ。ピットストップの速さはメカニックの作業のスキルのように思われますが、じつはドライバーがいかに常に正確に停止してくれるかが重要なんです。それまでもボッタスは特に悪かったわけではないんですが、マッサはそれまでウイリアムズにいたドライバーたちよりも、ピットストップが本当に正確だった。それからはボッタスも、マッサのピットストップを見習うようになりました」
フィランド人ジャーナリストのヘイキ・クルタも、ボッタスがマッサから受けた影響は大きかったと話す。
「じつは2人はマシンのセットアップのやり方が結構違うんだ。通常チームメート同士でセットアップの方向性が違うと、お互い意識しなくなるものなんだけど、ボッタスは常にマッサのセットアップに注意を払い、参考にできるものが何かないかをチェックしていた」
これはボッタスだけでなく、マッサも同じだったと、ウイリアムズのあるエンジニアは説明する。「彼らはセットアップが違うにもかかわらず、情報を共有して、お互いにレベルを高めていた。このようにしてマシンのセットアップを煮詰めていったチームメートはウイリアムズではいままで見たことがない」
「僕は彼のことをドライバーとしても人としても尊敬している。彼がいたから、僕はこの3年間でいろんなことが学び、成長できたと思う」
愛すべきドライバー、マッサの引退発表を残念に思う人々は多い。その中で、もっとも悲しんでいるドライバーは、もしかしたら、一番近くでマッサを見てきたボッタスかもしれない。