ようやく9月。夏休みの子どもたちはダラダラして、親にとってはイライラの元になりがち。でも、大人になったらずっと働かなくてはならないのだから、子どものうちくらい休ませてあげるのも親心です。親自身の余裕も必要でしょう。
今年の夏休みには、名古屋市のマンションで48歳の父親が12歳の息子を刺殺する痛ましい事件が起きました。父親は「中学受験の勉強をしないので刺した」と供述。25日の朝日新聞には、こんな言葉が載っています。
「自分の人生はうまくいかなかったので、子どもには頑張って欲しくて厳しくした」
「いいお母さん」「優秀な息子」に疎外感?
男の子は私立の中高一貫校への入学を目指しており、父親から勉強のことで厳しく追い込まれていたようです。子どもの将来を思って勉強させていたはずが、大事な我が子を失う結果になってしまい、どうしようもなく大きな矛盾を感じる事件です。
父親は妻と男の子の3人暮らしで、事件当時、妻は仕事で不在でした。24日放送の「スッキリ!」(日テレ)では、近所の人が親子の様子をこう話していました。
「すごく仲良くて、出かけるところをよく見ましたし、本当にいい子で。お母さんもすごくしっかりしていて、本当にいいお母さんです」
男の子は学業優秀で、明るくリーダー的な存在。教頭は「中学受験にも意欲を見せていた」と言います。一方で同じマンションの住人は、男の子が怒鳴られてベランダに締め出され、泣いている声をよく聞いていました。
同級生も、夏休み前に「涙を流していた」「なんか疲れていた」と証言。塾でも意欲的に勉強し、歴史の本を読むのも好きだったそうです。そうすると際立ってしまうのが、やはり「自分の人生はうまくいかなかった」といらだつ父親の存在。もしかすると家庭の中でも、疎外感を抱いていたのかもしれません。
自分が教育熱心な家庭で育ったことも関係か
熱心な教育熱は、父親の生い立ちにも関係しているようです。彼の実家は薬局を経営しており、近所の知人からのこんな証言があります。
「親代々から教育熱心だった。ひいお祖父ちゃん、お祖父ちゃん、三代四代、そういう風に来ている」
男の子が目指していた私立中学は、毎年東大に20人ほど合格する有名校。実は父親もこの学校の卒業生でした。家業を継ぐことを期待されていたようですが、何らかの理由でトラック運転手をしていました。これは父親の大きな挫折だったようです。
父親も親や祖父母から強いプレッシャーを受け、厳しく叱咤されていたのかもしれませんが、ネットにはこんな厳しい声もありました。
「自分の人生の失敗とか後悔を、子どもに一方的に押し付けるなんて最低だろ」
「ダメな親の見本か」「身勝手すぎるわ」
その一方で、「自分の出来なかった事をやってくれるとね、期待しちゃうんだよなぁ」と、愚かな行動をしてしまった父親に我が身を重ねる人もいました。
つい「子育ての成績表」と感じてしまいがちだが
筆者も同じ年頃の子どもを持つ親として、深く考えるところがありました。ともすれば我が子の大学や就職先を、自分の「子育ての成績表」のように感じてしまう親御さんもいるでしょう。子どもには将来幸せになってもらいたいと思うあまり、いま厳しくするという発想もありえます。
しかし、それが親の勝手な思い込みかもしれない危険もあります。子どもの将来、何が功を奏するか分かりませんし、彼らが大人になるのは新しい時代です。自分のエゴに気付かない親にならないよう、常に「子どもの人生は親のものではなく、子ども自身のもの」と自戒の気持ちを強く持たなければと思います。(文:篠原みつき)
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