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岩里祐穂×高橋久美子、名曲の作詞エピソード語り合う「新しいものは“違和感”から生まれる」

2016年09月03日 15:31  リアルサウンド

リアルサウンド

高橋久美子、岩里祐穂(写真=池田真理)

 今井美樹、坂本真綾、花澤香菜、ももいろクローバーZ……あらゆる時代で活躍する女性シンガー/アイドルたちの作品を中心に数多く手がけてきた作詞家・岩里祐穂。今年の5月にリリースした活動35周年記念コンピレーションアルバム『Ms.リリシスト~岩里祐穂作詞生活35周年Anniversary Album~』のリリースを記念し8月27日、『岩里祐穂 presents Ms.リリシスト~トークセッション vol.1』を開催した。本イベントは、岩里がさまざまな作詞家を招き、作詞について語り合うというシリーズ企画。


 この日のゲストとして登場したのは、作家・作詞家として活動する高橋久美子。岩里がチャットモンチーのファンであったことから交流がスタートし、高橋がパーソナリティを務める『ごごラジ!』(NHKラジオ第1)に岩里が出演するなど、これまでも共演経験のある両者。それぞれが作詞を手がけた楽曲からお互いに曲を選び紹介するコーナーでは、それぞれの楽曲に関するエピソードを聞くことができた。本記事ではそのトークセッションの一部をご紹介したい。


(関連:岩里祐穂が語る、作詞家としての歩みと矜持「時代を超える言葉を編み出したい」


<作品分析コーナー>


■チャットモンチー「シャングリラ」(作詞:高橋久美子)


岩里:『ミュージックステーション』にチャットモンチーが出ているのをはじめて見たときに、「これはなんだ!」と思ったのがこの曲を知ったきっかけです。「シャングリラ」には「桃源郷」とか「楽園」の意味がありますけど、なんでシャングリラなんだろうと思っていたら、これは女の子の名前なんですね?


高橋:そうなんです。女の子の名前が「シャングリラ」がいいなと思ったんです。これは大学生のときに書いた歌詞で、その時期はあふれるように1日に10個くらい詞を書いてました。卒論で宮沢賢治の研究をしていたので、そういうところから影響を受けた部分もあるかもしれません。ゼミの資料をつくろうとしても、歌詞があふれてきてプリントの裏が全部歌詞になってしまって、朝までゼミの資料をつくらず詞を書き続けたということもありました。ちょうどその頃のものですね。


岩里:シャングリラにしたのは相当変わってると思う(笑)。私は常々、新しいものはある種の違和感からしか生まれないと思っているんだけど、これはなかなかの違和感でしたよ。


高橋:実はあとからシャングリラが桃源郷だということを知って。「これええやん! 一石二鳥やん!」と思いました(笑)。書いてるときは本当に知らなかったんです(笑)。


岩里:それはとてもめでたい(笑)。歌詞はどういう順番でできたんですか?


高橋:まずタイトルが出てきて、歌詞もこの並び順どおりにできました。


岩里:詞が先にできることを「詞先」、曲を先にいただいてメロディにあてはめて書いていくこを「曲先」といいますけど、ということはこの曲は詞先ですね。


高橋:そうですね。チャットモンチーは、曲の90%が詞先でできていました。


岩里:この詞はもともと音楽にするつもりで書いた詞?


高橋:中学校3年生から詞を書いているので、そういうことは意識せずに書きましたね。<携帯電話を川に落としたよ>の部分とかは、本当にむしゃくしゃしてたんだと思います。私は酔っ払って歌詞を書くこともときどきあって。数カ月後にノート見ると、さっぱり覚えていないけど、いいフレーズがたくさん転がっていたり。この曲もそういう部分がありますね(笑)。


岩里:(笑)。そのあとの<笹舟のように流れてったよ>のフレーズもいいよね。大学時代に笹舟というワードが浮かんだこともすごいし、携帯電話が流れていくのを笹舟にしたというのに感心しました。


高橋:携帯電話は普通は沈みますからね(笑)。何人かのファンの方に「沈みますよね」と言われましたことがあって。


岩里:あ、そっか! 今気づいた(笑)!


高橋:やはり岩里さんは、詩人ですね。まあでも、桃源郷だから流れるんでしょう(笑)。


岩里:<希望の光なんてなくたっていいじゃないか>は、酔っ払ってない時に出てきたフレーズ(笑)? ここも素敵ですよね。希望があるから大丈夫だ、ということはよく言うじゃない。どこかに希望があるから前をむいて歩こうとふつうは書くんだけど、「希望なんかなくてもそれでいい」というのは新しいと思ったんですよね。


高橋:「生きていくほかないものね」ということですよね。大学時代は就職のこととかもあったので、このような歌詞が生まれたのだと思います。


■ももいろクローバーZ「サラバ、愛しき悲しみたちよ」(作詞:岩里祐穂)


高橋:ももクロさんたちの10代のものすごいパワーがわーっとでているところに、同じくらいのパワーの言葉で太刀打ちしているのがすごいです。歌詞にでてくる「VS」というワードはどのあたりから思い浮かぶのでしょう。


岩里:この曲は『悪夢ちゃん』(日本テレビ系)というドラマの主題歌で、天使と悪魔のイメージや白と黒の衣装を着せたいというビジュアルが先にありました。布袋寅泰さんのかっこいいデモを聴きながら、詞もさまざまなパーツを串刺しにした感じ。どあたまのラップのようなところでは、良い自分と悪い自分の“2人の自分”の葛藤を話し言葉で表現したかった。日常は曖昧で、理路整然としていないでしょう。そんなところも表現できたらと思ったの。


高橋:<見ざる言わざる聞かざる>のところとか、哲学的ですよね。


岩里:そこはノリかな。日頃から話していたときに面白いと思った言葉をメモしていて、この曲はそういうストックしていたワードのコラージュなんです。


高橋:<だったら許す>のあとに、<だったら笑え>と続くところもさすがだなと思いました。サビの<眠れない羊の群れ>もインパクトがありますよね。眠れないときに数えるのが羊だけど、眠れない羊……あれ? って。


岩里:あ、それは誰かにも言われたことある(笑)。


高橋:シャングリラと同じで、歌詞で「なにこれ!」となる曲かもしれません。


■ももいろクローバーZ 「空のカーテン」(作詞:高橋久美子)


岩里:この曲はどんな感じで書きました?


高橋:彼女たちのふつうの姿が書きたいなと思ったんです。冬の曲というオーダーだったんですけど、「クリスマス」のワードは入れなくていいということだったので、あえてイベントっぽくしたくないと思って。カップリング曲だったので、高城れにちゃんは卒業してますけど、素の高校生を描きたかった。出だしはれにちゃんがいいというのもさいしょから考えていました。<昨日の失敗は/お茶の中に入れて飲んでしまおう>の「お茶」は、さいしょ「ミルクティー」だったんです。でも「最近の子ミルクティーなんて飲みます?」とディレクターさんから連絡が来て、れにちゃんは朝はきっとお茶が似合うだろうと思いこういうかたちになりました。


岩里:さんざん冬の話を展開しておいて、最後の5文字でまた<冬が来た>とあるのは?


高橋:最初じゃなくて最後に書くことで、冬が来たことを噛み締めようと思いました。


岩里:なるほど。そうやって余韻をつくりだしているんですね。


■AKINO「創聖のアクエリオン」(作詞:岩里祐穂)


高橋:この曲はカラオケ大会の番組を見ていたときに、すごい歌がうまい人がこの曲を歌っていて、サビでいきなり<一万年と二千年前から愛してる>と始まって、「だれの歌詞やー!」と思って調べたら岩里さんだったんですよね! びっくりしました。そこまでのくだりは序章にすぎないというか。一万年もすごいんですけど、そのあとも<八千年過ぎた頃からもっと恋しくなった>、そして、<一億と二千年あとも愛してる>とたたみかける(笑)。


岩里:改めて見ると、笑えるね。


高橋:笑えるけど、切なくなるんです。


岩里:この歌詞はタイトルありきではじまったし、アニメの脚本によせた歌詞で。でも、パチンコのCMで流れたのをきっかけに広まって、そういう意味では曲の力で広まった曲でもあって。難しい言葉が並んでいるし、若い人たちはこの歌詞のどういうところに惹かれているのかな、とずっと気になっていたし疑問だったんですよね。


高橋:文学的で哲学的なところがかっこいいと思います。サビの最後の<君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない>、キラーワードですよね。地獄って大声で歌うことってあんまりないなと。


岩里:今から思えば、この曲で言っていることはひとつ、「愛してる」だけしか言ってない。言葉は濃密だけど内容は詰め込み過ぎていない、そのバランスがいいのかな。


高橋:ももクロの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」もそうですよね。最初に言葉を詰め込んで、サビの前「行かないで…」のとこはちゃんと隙間があるという。


岩里:それが私の遊びごころなのかしら。


高橋:サビで数字を使えるのもすごいです。私は数字はBメロにしがちなんですけど。大胆というか、岩里さんのお人柄が出てますね。


 楽曲にまつわるトークのほか、それぞれの詞が生まれる場所についてのトーク、来場者からの質問コーナー、高橋久美子による朗読、シンガーソングライター・坂本麗衣による弾き語りなど、盛りだくさんの内容で行われた本イベント。次回以降の開催も予定されているとのことで、続報を楽しみに待ちたい。(久蔵千恵)