『AIR』『CLANNAD』などで知られるゲームブランド・Keyが、2004年にリリースしたのが『planetarian』だ。選択肢の存在しない「キネティックノベルゲーム」の第1弾として生まれた同作はその後、12年をかけさまざまなプラットフォームへ移植され、感動作としてユーザーを深く魅了していった。
2016年7月より配信限定で放送されたアニメ『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』はゲーム本編で語られる、屑屋とロボット・ほしのゆめみの過ごした日々をアニメ化したもの。そして9月3日よりいよいよ劇場公開される『planetarian~星の人~』は、ゲームリリース後に原案・シナリオの涼元悠一によって紡がれた原作小説をアニメ化した待望の作品だ。
ハードSFにも劣らない世界設定と、練り込まれたシナリオ、美しい音楽を持つ本作を劇場に届けるのは、自身もKeyのファンとして知られ、「自分が本作の監督をしなくては一生後悔する!」と考えたという津田尚克。さらに本作の劇場版エンディングテーマをLia×折戸伸治=「鳥の詩」コンビが手がけるというビッグニュースが報じられファンを喜ばせた。
このたび、アニメ!アニメ!ではその津田監督と折戸氏、そしてエンディングテーマ「星の舟」で作詞を担当したシナリオライター・丘野塔也氏に集まっていただき、劇場版本編の見どころやエンディングテーマの聞きどころ、Liaの歌声の魅力などをうかがった。
[取材・構成:細川洋平]
『planetarian~星の人~』
2016年9月3日(土)劇場公開
http://planetarian-project.com
■劇場版は屑屋の視点で語られる
――配信版『ちいさなほしのゆめ』から引き続き、劇場版『星の人』の制作お疲れさまでした。いよいよ公開となりますね。
津田
ありがとうございます。今は自分でも冷静に見られない状態なんですよ。
丘野
いや、本当にお疲れさまでした。シーンの積み重ねと、そこから導かれるラストシーンがすばらしかったです。「泣きの感動」というと並の感想になってしまいますが、それよりさらにもう一歩深いところに響くものだったと感じました。
津田
それは、うれしいですね……。そこは目指す場所でもありましたので、そう言っていただけるのは何よりです。
――本作は配信された『ちいさなほしのゆめ』をインサートする形で進んでいきます。全体を構成する中ではどういう部分に気をつけたのでしょうか。
津田
まず企画として『ちいさなほしのゆめ』と『星の人』は切り分けたいというところがスタートにありました。物語としては『星の人』という大きな器の一部分を切り取ったものが『ちいさなほしのゆめ』なんです。だから『ちいさなほしのゆめ』にエピソードを付け加えて総集編という形式をとることもできましたが、そうしたくなかった。キッチリ違うものを意識して作りました。結果、イベント上映ではなく劇場公開となりましたし、上映時間も新作部分が40分、全体で115分ほどとなりました。
丘野
付け足し感が全くないですからね。配信版の頭とお尻にちょっと付いただけというものではなくて『星の人』は一本のフィルムとして成立していると思います。
津田
最初は「配信版に10~15分新作カットを足して」と言われていたんですけど、さすがにそれで『星の人』を描くのは無理だろうと。みなさんに無茶を言いましたが、キッチリ一本の映画に仕上げられて感謝の気持ちでいっぱいです。
――試写を見せていただきましたが、配信と劇場版では、受ける印象が違いました。
津田
そうですね。配信版と劇場版では、メインとなる視点、主観が違うんですよ。劇場版では男性の主人公である屑屋(くずや)の物語として構成していきましたから、配信版のカットもそういう視点で組み込んでいます。もちろんこれは僕だけの発想ではなく、共同脚本のヤスカワショウゴさんをはじめみんなと相談して決めました。キッチリ構成しよう、ひとつひとつのシーン、回想に意味があるように作っていこうと。結果、過去と現在がうまくリンクして、屑屋の物語として一本にまとめることができたかなと思います。
■Keyタイトルの魅力でもある「物語と映像と音楽」の融合を
――丘野さんと折戸さんは原作サイドとして本作に関わられています。まず『planetarian』が映像化されるという知らせを聞いたときのご感想は?
丘野
実はリリース当時から完成度が高い作品だけに望んではいたんですよ。一方で、プレイ時間が映像にするには短すぎるんじゃないかという見方もあって(※ゲームの実質プレイ時間は2~3時間)。だから今回の企画は非常に驚きました。どんなものになるのか当初は想像もつきませんでした。
折戸
僕はアニメ化の企画を知るのが遅い方だったんです。知ったと同時ぐらいに打ち合わせと音楽の発注があり、続いて主題歌の発注があり、作って納品して、という感じでものすごい速さでやってきましたので(笑)。アニメ化の話を聞いたときは素直にうれしかったですね。
――オリジナル音楽を担当された戸越まごめさんは現在業界を離れられているとのことで、入れ替わる形で折戸さんほか、強力な作曲陣が入っていますね。
折戸
そうですね、普段からお世話になっているどんまるさんと竹下智博さんにも協力をお願いしつつ、より良いものへとまとめていきました。
丘野
今回はBGMから楽曲まで弊社の音楽班、そして弊社が普段お世話になっている音楽家さんを総動員してじっくり話し合いながら作り込んでいきましたね。
津田
そう! 今回は自分でも驚くくらい作曲家の方と話し合いができました。何より曲ひとつひとつに折戸さんがコメントをくださったんですよ、「こんな感じですが、どうでしょうか」と。そこに僕が意見を伝えたりする。いつもだったら音楽プロデューサーや音響監督が行う作業ですね。普段の制作現場ではあまりない作業だったので、音楽に関して踏み込んだキャッチボールができたというのは、すごく貴重な体験でした。
折戸
僕たちにはアニメの劇伴の経験があまりないんですよね。今回、手探りの状態からはじまったこともあり、とにかく意見が欲しいという思いから、監督にはできるだけ意見をぶつけたり、すぐに質問するようにしていました。
津田
Keyタイトルには、ものすごい数のKey音楽のファンがいます。もちろん僕もそうです。だからアニメ劇伴寄りにすることで薄味になってしまうと、ファンに申し訳がないという不安もありました。だからKeyの音楽がもっとも良い状態で鳴るラインを探るのに、かなり試行錯誤しました。
――アニメの劇伴とゲームの音楽にはどのような違いがあるのでしょうか。
津田
派手で印象的なメロディーが多いゲームに比べて、アニメの音楽はメロディーの主張が抑え目にされているんです。アニメは絵自体が物語を進めていくので音楽にはあまり説明させすぎない。だけどこのタイトルでは「喧嘩上等!」ぐらいの気持ちで音楽にめちゃめちゃ主張してもらっています。Keyタイトルの魅力のひとつに「映像とシナリオと音楽」の融合があると思うのですが、この作品もそういう方向で成立させようと。
――以前、アニメ!アニメ!で取材させていただいた際に、「劇場版では音楽ラインの設計から変えている」とおっしゃっていました。
津田
そうですね、まるっと変えています。
丘野
やっぱりそうですよね、鳴っている音も場所も劇場版は配信版と違うのですごく驚きました、ここまでこだわってるんだ! って。
津田
音楽のライン(※選曲や鳴る箇所を決めること)次第で作品の言いたいことは変えられるんです。それを実践する形で、配信版はゆめみ主体のかわいらしさを出して、劇場版では屑屋の心情に寄り添った音楽を付けています。音楽だけではなくて、映像もそれぞれの視点に添った編集をしています。配信版と劇場版では、互いにどのカットがなくて、代わりにどういうカットが差し挟んであるのか、そういう部分にもいろんな意味があるので、じっくりと楽しんでいただきたいです。
丘野
配信版と劇場版、どちらを先に見ても新鮮にどちらも楽しめるというのはいいですよね。
(次ページ ■劇場版エンディングテーマ「星の舟」には物語がある)
■劇場版エンディングテーマ「星の舟」には物語がある
――今回の大きな注目点として、折戸さんとLiaさんの待望の共演があります。ついに実現しました。
津田
いやぁ・・・、「やった、ラッキー!!」という感じですよね(笑)。
折戸
劇場版、配信版、プロモーション用でボーカルを誰にしたらいいのか、という話し合いがあったんです。その中で津田監督たちからもご意見をいただき、Keyと言えばLiaさんじゃないかと。僕も今回の劇場版のエンディングに絶対にハマるだろうと思っていました。それでオファーに至ったという感じです。
――劇場版のエンディングテーマ「星の舟」はどういうところから曲作りを進めたのでしょうか。
折戸
曲先行で作っていったのですが、シナリオを読んで「クライマックスの余韻を残しながら、壮大に締めくくれるイメージで書こう」と思いました。サビを悲しげなマイナー調にするか明るいメジャー調にするかで結構悩みましたね。シナリオを読んで、最終的には「これでいこう!」と。ぜひ聞いていただければと思います。
――曲の長さが6分という大作になりました。
折戸
長さはあまり意識してなかったです。自分が作る曲って6分台は割とあるんですよ。曲の中で起承転結を明確にしたいと思いながら作って行くので、どうしてもそのくらい必要になってくるのかも知れません。
津田
実際、折戸さんの曲はメロディーに物語がありますよね。ゆっくり立ち上がって、盛り上がり、締まっていく。僕の印象ですけど折戸さんの曲は昔からクラシックっぽいなと思っていたんです。だからすごく聴きやすく、ずっと聴いていたくなります。
――曲ができると次に丘野さんの方で作詞を進められたと思いますが、どのように歌詞を作っていったのでしょうか。
丘野
僕はずっと脚本会議にも参加していたので、そういう意味でビジョンは明快でした。モチーフにしたのは『チルシスとアマント』という原作小説です。これは『planetarian』の原作者である涼元悠一さんが発表した小説『星の人』の中に含まれる短編です。作詞自体も涼元さんがやってくれないかな、という淡い期待もあったのですが(笑)残念ながら涼元さんのスケジュールが合いませんでした。ただ、『チルシスとアマント』を歌詞に落とし込んだことで、曲の壮大さにも、Liaさんの歌声のスケールにも匹敵できたかなと思っています。ここは涼元さんに感謝ですね。
――普段、シナリオを書かれている丘野さんですが、作詞という作業はいかがでしたか?
丘野
作詞は作品への理解力がとても求められるんですよね。シナリオを読んで読んで、作品の根幹をきっちり理解してイメージを膨らませる。書く時間自体はそれほどかかるものではないんですけど、書くまでの準備期間はすごくかかるし非常に重要ですね。今回は脚本会議に参加していたことがうまく転がったので、よかったです。
■同じ時代を生きるみんなへ
――「星の舟」では久しぶりの折戸さんとLiaさんのタッグということで胸を熱くするファンも多いかと思います。Liaさんの魅力はどういうところにあるのでしょうか。
折戸
歌い回しや表現力の高さですね。そもそもLiaさんは歌詞のストーリーを理解して歌うという方なんです。歌詞の落とし込みがキッチリ行われた上での表現に繋がっていますし、レコーディング当日は何度も自らリテイクを出して、良いものを作るという気迫がみなぎっていました。実際、完成度の高いものができたと思っています。
丘野
Liaさんの歌声はこの世のものではない感じがしますね。別の世界から来たかのような。今回はそれに加えて、歌が流れるシーンのタイミングなども見事なんですよ。ここだ、というタイミングで流れてくるので破壊力がものすごく高かったです。すごくキレイに映像とマッチングしていたので感動しました。
津田
僕はこの曲が来たことで、物語としての感情の着地点がハッキリしたんです。自分の気持ちも引き締まりました。「ここへ持っていかなくてはいけないんだな」と。知らず知らず作品に対してのキャッチボールができていた。これは非常にいい化学反応だったと思っています。
――ありがとうございます。最後にアニメ!アニメ!の読者へ、メッセージをいただけますでしょうか。
丘野
津田監督を始めアニメスタッフが最高の仕事をもって最高のフィルムに仕上げてくれました。ぜひ劇場へ足を運んでご覧ください。そして、作品の内容について熱く話し合ってもらえたらと思います!
折戸
この作品は自分にとっても思い入れのある作品になりました。何度見ても見入ってしまいます。ぜひ大きなスクリーンで見ていただければと思います。そして感動したら9月21日にリリースされるCD『星の舟』を是非お手にとっていただければと思います!
津田
今お二人に言っていただいたことが全てですが、僕は監督として、そして原作を大好きな一人として、すごく思い入れをもって制作させていただき、気持ちを作品の中にギュッと織り込めたなと思っています。同じ時代に生きているみなさんなら、きっと感じ入ってもらえるところがあるはずです。劇場を出た後、何かしらの感情を持ち帰っていただけたらうれしいです。そして気に入っていただけたら、『星の舟』のCDと同時にBlu-ray『planetarian~ちいさなほしのゆめ~』をぜひチェックしてください!
折戸
監督、本当にいい作品に仕上げてくださってありがとうございました。ぜひ、今後もまた何か機会があれば、よろしくお願いします。
津田
いいんですか? ぜひよろしくお願いします!!
―本日はありがとうございました!