6月11日にテキサス・モーター・スピードウェイで248周のレースとしてスタートの切られるはずだったインディカー第9戦ファイアストン600は、雨のために翌月曜日の午後へと延期された。
そのレースも、ジョセフ・ニューガーデン(エド・カーペンター・レーシング)とコナー・デイリー(デイル・コイン・レーシング)によるアクシデントが発生した後に降り出した雨により、赤旗中断に。火曜日の天気予報も悪かったこともあり、レースの続きは8月27日まで延期されることが決まった。
■残り177周の変則バトル
8月下旬のテキサスは酷暑となる可能性が十分考えられたため、レース前半の71周は日中に行なわれたが、残りの177周はナイトレース……というユニークな事態になった。これはもちろん、マシンセッティングの変更を全エントラントが余儀なくされることを意味する。71周目(実際にレーシングスピードで争われたのは40周回以下だったが)までに速かったドライバーが、8月にも同じように速いという保証が一切ない、おもしろい状況が作り出された。
6月のアクシデントでマシンを大破させたニューガーデンとデイリーのふたりは、8月のレースへの出場は認められなかった。177周の“レース・パート2”は、20台で争われた。佐藤琢磨(AJフォイト・レーシング)は、トップのジェームズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン)のすぐ後ろ、2番手の位置からスタートした。
ただし、彼は71周目までの時点ですでに1周のラップダウンに陥っていた。予選では4位という好位置につけていた琢磨だったが、レースではハンドリングが苦しく、順位を落としていった。残り周回が少ないレースをラップダウンの状態から始めるのは非常に厳しかったが、セッティングを新たにできる点に彼らは希望を見出していた。
中断からレース再開までの間に、2016年インディカー・シリーズは5レースを消化しなければならなかった。当然、今回は通常の赤旗のルールは適用できなかった。レースの行なわれる時間帯に違いがあるため、マシンセッティングへの調整は当然許可された。燃料やタイヤに関しても全エントラントがイコールになるルールが採用された。リスタート時には満タンにしてよいことになった。ファイアストンタイヤも新品が再支給され、全チームがゴールまでに6セット使用してよいこととなった。
■オーバルでの速さを見出した琢磨だったが……
1周遅れでレース再開に臨む琢磨としては、6月とは異なるマシンセッティングで形勢の大逆転を実現したいところだった。テキサスでは予選4位だったが、2.5マイル・オーバルのポコノ・レースウェイではそれを上回る予選3位をゲット。
高速オーバルでの予選用マシンセッティングに関しては、AJフォイト・レーシングは納得のいくものを続けて出すことができたのだ。そこにレース用セッティングも良くするヒントがあるのは間違いなかった。
しかし、ポコノ決勝での琢磨は、空力のセッティングのミスから1周目に大クラッシュ。レース用セッティングに関するデータを収集することができなかった。しかも、オーバル用のモノコックタブにダメージを与えてしまったため、ロードコース用のタブを急遽オーバル用にコンバートしてテキサス戦を迎えていた。
そして、琢磨はレース再開前のプラクティス開始早々にアクシデントを起こした。新たに組んだばかりの右フロントサスペンションが壊れたのだった。新しいコンセプトのレース用セッティングがどれだけの力を持っているのかを確認することができなかったばかりか、琢磨陣営は再開される決勝への出場も危ぶまれる状況に追い込まれたのだった。
ガレージで必死の修復作業は続けられ、14号車は何とかギリギリでグリッドに着くことができた。列の後方に並べられることもなく、ヒンチクリフのすぐ後ろの、予定通りのポジションからグリーンフラッグを受けることとなった。
しかし、この状況は決して楽観のできるものではなかった。トップグループの真ん中で、琢磨は問題なく走れるのか疑問のあるマシンでスタートを切るからだ。いきなりフルスピード・バトルに加わる訳にはいかない。まずはマシンがトラブルなく走れるものになっていることを確認し、正しくセッティングされているかもチェックする必要があった。ポジションはひとつでも上位に保ちたいが、周りを走るライバルたちに迷惑をかけることも絶対に避けねばならなかった。
■マシンは改善されず不完全燃焼なレースに
新セッティングでリスタートからアグレッシブに走り、ヒンチクリフをパスしたところでフルコースコーション発生、リードラップに戻る……というシナリオを描いて迎えた週末だったが、琢磨陣営は負のスパイラルに陥っていた。
一度悪い方に転じ始めた状況が好転することはなく、クルーたちが時間切れギリギリまでかかって修理してくれたマシンは残念ながらセッティングが正しく施されておらず、前方の車高が高過ぎる状態になっていた。
ハンドリングは苦しく、ピットインしてセッティング変更を施してもタイヤの摩耗が早く、短いサイクルでのピットストップを繰り返すしかなかった。そのうちに無線も通じなくなった。そんな状況では走り続けてもリスクを増やすだけのため、琢磨は90周、6月の走行分と合わせて160周を終えたところでピットロードに入り、マシンを降りた。
レース後に琢磨は、「プラクティスで部品のトラブルがあってクラッシュした。1周しか走ることができなかった。クルーたちが頑張ってくれ、短時間でマシンをグリッドに並べるところまで直してくれたのだが、いざレースが始まってみると我々は多くのトラブルが見舞われた」
「マシンにスピードがなかった原因は、まだハッキリとは判明していないが、とても残念な週末になってしまった。それでも、今年は高速オーバルでの予選用セッティングはレベルの高いものを作り上げることができていた。レースでのスピードを確保する件に関しては、来年への課題としたい」と話していた。
不本意なレースが二つ続いてしまった琢磨とAJフォイト・レーシングだが、もう今シーズンのレースも残すところ2戦のみとなった。キャンセルになったボストンのストリートレースの代わりに急遽開催されることになった今週末のワトキンス・グレンと、9月18日決勝の最終戦ソノマ、いずれもテクニカルな常設ロードコースがその舞台だ。残り2戦、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングがどんな走りを見せてくれるのだろうか。