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ceroが提示する、音楽と音楽の間にある見えない“流れ” 主催イベント『Traffic』レポート

2016年08月31日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

cero(写真=廣田達也)

 8月11日に新木場スタジオコーストにて開催された、cero主催イベント『Traffic』。ceroが敬愛するアーティストを招き、“Traffic”と名付けたこのイベントは、その名の通り多種多様な音楽が交錯する場となった。


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 メインステージには主催者であるcero、クレイジーケンバンド、Seiho(Band Set)、ランタンパレード、OMSB & Hi’Spec。入口付近に設けられたバーステージにはSTUTS(Live Set)、Dorian(Live Set)、XTAL(Live Set)に加え、DJとしてcero、MINODA(SLOWMOTION)、COMPUMA、サイトウ”JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)、MURO、MOODMANという豪華出演陣が顔を揃え、飲食ブースでもceroメンバーとの関わりが非常に強いRoji(阿佐ヶ谷)、えるえふる(新代田)などの出店もあり、フェスのような様相を見せた。


 この日最初のライブアクトとしてメインステージに立ったのは、クレイジーケンバンド。1曲目から代表曲「タイガー&ドラゴン」を披露し、早速会場を温める。MCで横山剣が「ceroのアルバム全部持ってる。ファン代表で参加してます」と発言すると、会場からは驚き混じりの歓声が上がった。その後は、8月3日にリリースしたばかりのアルバムの表題曲「香港的士- Hong Kong Taxi -」も交え、「タオル」「GT」「ガールフレンド」と、涼しげなサマーチューンを次々に演奏。ベテラン揃いの安定した演奏陣と、横山の軽妙なパフォーマンスは、若い観客(会場の主な客層は10代~20代であるように見られた)の目を釘付けにし、その心を確かに捉えていた。


 続いては、Seihoがドラム(松下マサナオ)とキーボード(Kan Sano)を引き連れたバンドセットで登場。披露されたのは主に今年5月にリリースしたアルバム『Collapse』の収録曲だ。ライブでの定番となった、花瓶に牛乳を入れ飲み干すというパフォーマンスも決め、視覚的にも彼の世界が展開される。トラックメイカーである彼が、なぜライブで生楽器を取り入れようとするのか疑問であったが、そうすることによって生まれる“即興性”が理由ではないか、と今回のライブを観て感じた。自身ではコントロール不能な要素を取り入れることによって、ライブが予定調和に陥ることを回避し、スリリングなものにする。そして、会場で誰よりもそのスリル/ある種の楽曲の崩壊(=Collapse)を楽しんでいるのは、他でもないSeiho自身であるように思われた。


 その後、アコースティックギターを抱えたランタンパレードが、ウッドベース、ドラム、エレクトリックギターを含む4人編成でステージへ。先ほどのSeihoとは一転して、アコースティックで柔らかな音色が会場に響く。ランタンパレードこと清水民尋の歌声は、実際に生で聴くと予想以上に力強く、耳元までダイレクトに届く印象だ。最後に披露したリズミカルな代表曲「甲州街道はもう夏なのさ」では、ギターのイントロが流れた時点で拍手が起こるほどの盛り上がりを見せ、余韻を残したままステージを去った。


 続いてステージに立ったのは、SIMILABのメンバーでもあるOMSB(MC)とHi’Spec(DJ)。OMSBは「この規模を1人でやるのは初めてなんすよ」と少し緊張する様子を見せるものの、ひとたびHi’Specがトラックを流すと堂々とした身のこなしで、序盤からコール&レスポンスで会場に一体感を生み出す。OMSBが一番好きな曲だという「Think Good」、地元・座間市のことを歌った、Hi’Specとの共作曲「Goin Back To Zama City」など、人気曲を次々披露。質量すら感じさせる重いビートにOMSBのフロウが絡みつくと、体を揺らさずにはいられない。


 そして、メインステージのトリを飾ったceroは、「Yellow Magus(Obscure)」「Summer Soul」「Orphans」と、初っ端から『Obscure Ride』収録の人気曲を惜しみなく演奏していく。「Summer Soul」では、なんと突然OMSBが登場。アナログのみでのリリースで即完売となった12inchシングル「Summer Soul」に収録のOMSBによるRemixバージョンでのアレンジに乗せ、この日のために書いたというリリックを披露し、この日限りの特別なコラボに会場は沸いた。その後はVJとしてVIDEOTAPEMUSICも登場し、ステージ背後に映像の彩りも加えられる。


 MCでイベントについて高城は「すごく攻めてるし、何か見えてくる景色があるメンバーで、この切り込み方はceroにしか出来ないんじゃないかなと思って、達成感を感じています」と嬉しそうにコメント。ライブでの定番曲「Contemporary Tokyo Cruise」ではミラーボールも回り、会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。アンコールではメロウな「FALLIN’」で締め、これで終わりかと思われたが、その後バーステージで行われていたMOODMANのDJブースにいきなり高城が現れ「ありがとうございました!『Traffic』、またやりましょう!」と今後の開催も示唆し、拍手の中イベントは幕を閉じた。


 こうして出演者を並べてみると一見何の共通点もないように思えるが、ここに“ceroのキュレーション”という視点を加えると、腑に落ちるものがある。イベントに先駆け公開された高城のコメント「音楽と音楽の間にある見えない“流れ”を色づけ、可視化してくれる彼ら(DJ)こそ『Traffic』そのものなのだと思います」や、前述のMCでの発言に見られるように、ceroは自らの敬愛するミュージシャン達をDJ的感覚で繋ぎ、そしてあえてイベントという手段を取り、自身のリスナーに直接提示したかったのだろう。そこでは、アクトはそれぞれ音楽的には別の方向に振り切れていながらも、どこかでceroとリンクするような要素があり、ceroから別の音楽への接続をリスナーに促しているように思えた。高城の言うところの「見えない“流れ”」とは、ここで可視化されたアクトとceroとの接続点と言えるかもしれない。それこそがceroが自らイベントを開催する意味だった。


 そしてこの日ceroは、今年11月から全国ツアー『MODERN STEPS TOUR』を開催することをアナウンスした。“Traffic”を経て、“Obscure Ride”から“MODERN STEPS”へ。様々な想像を掻き立てられる、意味深な単語の羅列だが、そこに込められた真意はcero本人達にしか語り得ない。


 『Traffic』は東京だけではなく、9月22日に大阪・味園ユニバースで開催することも決定している。関西圏のファンは見逃さないようにしたい。(渡邊魁)