人は、一度でも便利なツールを手にしたら、二度とそれを手放そうとしない。一部ではそれを「依存」と呼ぶ向きもあるが、エアコンしかり炊飯器しかり、便利な道具というものは生活を豊かにしてきた実績があるし、今更使うなと言われても無理なものだ。
特にスマホは、よく依存云々と批判されやすい。まあ、携帯電話としての機能と、娯楽ツールとしての機能を兼ね備えた、最高のガジェットなんだから、そりゃ手放せないはずである。(文:松本ミゾレ)
無理やりスマホ断ちツアーに参加させられた子供たち…親も参加しないの?
そんな中、28日の「報道ステーション SUNDAY」(テレビ朝日系)で、笑える特集が組まれていた。「無人島『スマホ断ち』合宿 子どもたちが挑む夏の試練」というタイトルで、ネット依存の傾向があるという小・中・高の子どもたちが、無人島で合宿し、スマホなしで生活する、というツアーの様子を取材したものだ。
参加者は全部で14人。13歳、中学2年生の男の子は「行きたくないけど無理やり。行きたくない」と、親に勝手にツアーを申し込まれたことを打ち明ける。こういう参加者は他にも大勢いるようで、皆一様に表情が暗い。
この合宿の舞台となったのは、兵庫・姫路市の西島。西島には宿泊施設はあるものの、居住している人はいない。マイルドな無人島というわけだ。
ツアーではまず、合宿をサポートする大学生らによって参加者のスマホが没収される。もうこの時点でイヤなものを見た気分になる。わが子をネット依存にさせたという自覚があるのなら、親も責任を取って同行すればいいのに。
わが子を無人島に送り出す前にすべきことがあるはず
このツアー、専門家の指導の下に4泊5日もの合宿生活を送ることになっていた。長い。顔も知らない他人たちと4泊も一緒に過ごすとか、ネット依存じゃない人でもイヤだろうに。
前項で「行きたくない」と話していた男の子の場合、かなりスマホに執着しているようで、番組が彼の父親に取材したところ、「ずっとスマホでお風呂にも入らない、歯も磨かない」有様だったと話している。
う~ん、それはさすがに行き過ぎだ。ただ、この家庭ではスマホの使用についてルールを設けているんだけど、これが「平日1時間、休日2時間」となっている。ファミコンじゃないんだから……。
依存させたくないと言ったって、こんなのスマホだから深刻に思えるだけで、これがスポーツとか、将棋とかならもっと寛容になれるはずなのだ。親としては自分が買い与えたスマホに熱中してもらえたわけだから、それは素直に喜んでおけばいい。
勝手にゲームに課金して、多額の請求でも来ない限り、静かでいいじゃないか。大体、遊ぶにしたって外では公園の遊具も「危険だから」と大人が撤去させてろくなものがない時代だし、鬼ごっこや凧揚げをしたいと思っても、現代では乗ってくれる相手もいない。
親世代がスマホを手放せない以上、子どもにスマホ断ちを強いる権限などない
西島での合宿では、実は没収したスマホを一切触れないわけではない。毎日1時間だけ、スマホ部屋と呼ばれる場所で好きに使うことができるという。
これについて、兵庫県立大学ソーシャルメディア研究会の竹内和雄代表は、「スマホしようかな、しないでおこうかなと、その1時間を葛藤したり考えたりすることが重要」と話す。実際、スマホの使用について躊躇した参加者の中には、トランプで遊ぶなどして和気藹々とする面々もいる。
ただ、このスマホ部屋で、前出の男の子の場合、同じ参加者の男の子と楽しくスマホ片手に談笑している。スマホのゲームがきっかけで仲良くなったわけだ。禁じるばかりが上策とは言えない。
特集では、スマホがなかった昭和30年代の子どもと、今の子どもの過ごし方の違いについて紹介していた。しかし、仮に昭和30年代にスマホがあれば絶対みんな手にしていたわけで、こういう「古きよき日本と混沌の現代」という比較は、この特集には無粋であったと思う。
そもそもこの合宿で、子どもたちの意識は一時的には変わるかもしれないが、日常生活に戻れば親世代がスマホをいじっている光景が当たり前になっている。子どもの心なんて決して純粋ではない。「大人はスマホを好きにいじっていいのに、なんで俺たちだけ」と思う子は必ずいる。
現代では電車の中や喫茶店で、せわしなく指先だけを動かしている大人ばかりだ。スマホを何時間もいじったまま、ベッドの上で寝落ちするようなだらしのない大人も多い。大人たちがスマホに依存しきっている今の時代、子どもたちを無人島に送り込んで考えを改めさせようとしたって、それは付け焼刃に過ぎないのではないだろうか。
あわせてよみたい:ポケモンGOで寝不足GO