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夏の終わりに『君の名は。』現象勃発! その「前代未聞」度を検証する

2016年08月31日 12:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016「君の名は。」製作委員会

 数ヶ月前に試写で観た直後に「これは大ヒット間違いなしだ」とは思ったが、まさかここまでとんでもないことになるとは! 先週26日(金)に公開された新海誠監督の『君の名は。』が、土日2日間で動員68万8000人、興収9億3000万円という圧倒的なオープニング成績で初登場1位を獲得。金曜日の初日を合わせた3日間の動員は95万9,834人、興収は12億7,795万8,800円。公開初週にして、あっという間に動員100万人を突破している。


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 驚くべきは、この数字を全国296館という比較的コンパクトなスクリーン数で成し遂げてしまったこと。今年に入ってから『君の名は。』以上の初動記録、つまり公開週の週末2日間で興収10億円を突破した作品は『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』(約12億915万)、『ONE PIECE FILM GOLD』(約11億5577万)と2作品だけあるが、前者は348館、後者にいたっては739館と、『君の名は。』を大きく上回るスクリーン数での公開だった。また、いずれの作品も初日から入場者特典などのキャンペーンを展開していたことも考慮すべきだろう。『君の名は。』は300スクリーン以下で入場者特典もなにもない、いたって普通の公開形態で早くも現在の驚異的な数字に到達してしまったのだ。


 こうなってくると、公開館数の読み違いがあった(実際に各劇場では満員で入れない観客、いわゆる「『君の名は。』難民」が多数発生していた)、あるいは「そもそも夏休みの最後の週末ではなく、もっと興収が見込める夏休みのど真ん中に公開すべきだったのでは?」といった声も出てくるかもしれないが、それは後出しジャンケン的な意見と言うべきだろう。なにしろ新海誠監督作品の前作『言の葉の庭』の累計興収は推定1億5000万。そんなアニメ・ファンしか知らない「マニアック」な監督の新作を東宝が夏休み中に全国公開する、というだけでも大英断だったのだ。


 実際、ジブリ作品や細田守作品、あるいは一連のエヴァンゲリオン関連作品といった、過去の作家性の強いアニメ・クリエイターによる映画の興収推移と比べても、今回のいきなりの爆発は異例中の異例の出来事。東宝としては本作を足がかりに新海誠作品という「ブランド」をじっくりと育てていこうという心積もりだったはずだが、いきなり現在最強のブランドを手にしてしまったことになる。宮崎駿や細田守や庵野秀明と同様に「毎年のように新作を発表する」というタイプのアニメ・クリエイターではないので、製作サイドとしては空前の大ヒットに沸き立つ一方、作家を今後の過大なプレッシャーから守って、新たな長期的なプランを立てていく必要に迫られているだろう。


 さて、そんな『君の名は。』の前代未聞のヒット。RADWIMPSによる4つの主題歌と劇伴が収められたアルバム『君の名は。』は公開日からCDアルバムのデイリーランキングの1位を独走、公開前の時点で40万部超を達成していた新海誠監督自身によるノベライズ小説『小説 君の名は。』もずっとベストセラーの1位を独走と、理想的なメディア・ミックス状態をも生み出している。今週から多くの学校で新学期が始まり、学生層にはさらに口コミで広がっていくことと、「そんなにヒットしているなら観てみよう」という一般層(ジブリ作品はそうした層に支えられていた)の今後の動きをふまえると、50億、60億の壁は早々に突破し、本年度の日本映画ナンバー1の記録をどこまで伸ばしていくかというところが焦点となってくるだろう。先週の当コラムでは、『君の名は。』の化ける可能性を示唆するとともに、『シン・ゴジラ』が本年度の日本映画ナンバー1を射程に収めたと述べたが、『君の名は。』は「化ける」どころか「大化け」だった。本年度の日本映画の興収ランキングは、いずれも夏の東宝作品、『君の名は。』と『シン・ゴジラ』の1、2フィニッシュが確実な情勢となった。(宇野維正)