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w-inds.が体現する“世界標準のJ-POP”ーー8月31日発売の注目新譜5選

2016年08月30日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

w-inds. 『Backstage』(通常盤)

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。8月31日リリースからは、AKB48、JY、T.M.Revolution、高橋優、w-inds.をピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)


(関連:w-inds.の新作は“時代性”を超えたサウンドに ニュージャックスウィング志向でチャート健闘


■AKB48『LOVE TRIP / しあわせを分けなさい』(SG)


  41thシングル『ハロウィン・ナイト』(2015年9月)以来、4作ぶりに指原莉乃がセンターポジションを獲得した45枚目のシングルは「LOVE TRIP」(ドラマ『時をかける少女』(日本テレビ系)主題歌)、「しあわせを分けなさい」(リクルート「ゼクシィ」CMソング)による、AKB48史上初の両A面。「LOVE TRIP」のMVでは「告れ、日本。プロジェクト」という恋愛告白企画を実施、「しあわせを分けなさい」のMVでは指原(新婦役)、吉村崇(新郎役)、徳光和夫(司会役)などをキャストにした結婚式シーンを撮影するなど様々なプロモーションが行われているが、軸になっているのはもちろん楽曲の良さ。「LOVE TRIP」は80s洋楽ロックを想起させるノスタルジックなサウンドを切なく愛らしいアイドルポップスへと導いたナンバー。そして「しあわせを分けなさい」は箭内道彦の作曲(!)による、昭和的ともいえる郷愁感がたまらないミディアムバラード。個人的には歌詞にまったく共感できないのだが、ポップスのキモである“懐かしさ”“どこかで聴いたことある感”を上手く活かしたプロダクションはさすがだ。


■JY 『好きな人がいること』(SG)


 ソロデビュー曲「最後のサヨナラ」に続く2ndシングル「好きな人がいること」はフジテレビ系月9ドラマ『好きな人がいること』の主題歌。ピアノ、アコースティック・ギターを活かしたアコースティック系のアレンジメント、軽やかに跳ねるメロディライン軸にしたポップチューンに仕上がっていて、彼女の少し舌足らずなボーカルの可愛さを上手く際立たせている。ドラマなどでは達者な日本語を話している彼女だが、歌に関してはどこかK-POP的な雰囲気があり、そこから生まれる独特のエキゾチシズムもシンガー・JYの魅力につながっているのだと思う。作詞はJY自身が担当。“仕事や恋を一生懸命にがんばる、普通の女の子”をテーマにしたドラマのコンセプトが、KARA脱退後、日本に活動の拠点を移し、新しい環境にアジャストしながら女優そして歌手として独自の存在感を発揮している彼女のキャリアと重なり、自然なリアリティを描き出すことに成功している。


■T.M.Revolution『RAIMEI』(SG)


 初のオールタイムベストアルバム『2020 -T.M.Revolution ALL TIME BEST-』がチャート1位を獲得するなど、20周年イヤーを快調に走り続けているT.M.Revolution(以下T.M.R.)のニューシングル。地域密着型のフェス『イナズマロックフェス』を定着させ、CM、バラエティ番組、舞台などでも際立ったタレント性を発揮している西川貴教はT.M.R.の在り方をきわめて客観的に捉えていて(ベスト盤に関する取材の際に西川は“T.M.R.は商材のひとつ”と趣旨のコメントをしていた)、“T.M.R.をどう活かすべきか”という視点はこのシングルにも正確に作用している。表題曲「RAIMEI」は、日本・台湾の合同映像企画『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の主題歌。高速の4つ打ち、激しい起伏に満ちたメロディといった従来のイメージを踏襲しつつ、随所にアジア的なテイストを織り交ぜることで“日本×台湾”というコンセプトに適応させているのだ。自らをキャラクター化させ、様々なコンテンツと結びつきながら展開するT.M.R.の在り方は、日本のエンターテインメント全体にとっても豊かな示唆に溢れている。


■高橋優『光の破片』(SG)


 9月3日、4日に地元・秋田県横手市で3万人規模のフェスを開催する高橋優の15作目のシングル『光の破片』は“10年後の自分から手紙を受け取った女子高校生が、未来に起きることを知りながら青春を生きる”という設定のTVアニメ『orange』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマ。楽曲の中心的なモチーフは、万華鏡。形が悪く、あまり綺麗とは思えないような一つ一つのカケラが他と組み合わさることで、無限の美しさを作り出す万華鏡を人と人の関係とリンクさせ、“一人きりで叶えられない景色”の尊さ、かけがえのなさを描き出している。カップリング曲の「TOKYO DREAM」では、いまの日本人の歪さ、愚かさ、浅はかさを真正面から歌っているのが、共通しているのは市井に生きる人々に対する視線。目の前にある光景を冷徹に見つめながら、そこに息づく人たちに対する温かい思いは決して失わない。その抜群のバランス感覚こそが、高橋優というシンガーソングライターの魅力なのだと思う。


■w-inds. 『Backstage』(SG)


 今年15周年を迎え、現在アニバーサリー・ツアーを開催中のw-inds.から「Boom Word Up」に続く2016年第2弾シングルが到着。最新のダンスミュージックをいち早く取り入れ、世界標準のJ-POP(矛盾している言い回しだが、彼らの音楽を聴くといつもそう感じる)を体現しているw-inds.だが、今回の楽曲「Backstage」も期待を裏切らない仕上がり。サウンドのベースになっているのはトロピカル・ハウス。さらにバウンシーなリズムを加え、J-POPらしい巧みな転調、“Come on!夏のBackstage”というキャッチーなラインを施すことで、幅広い層のリスナーが楽しめるポップスへと導いているのだ。しっかりと抑制を効かせたボーカルによって楽曲の魅力を引き出す橘慶太、それぞれのキャラを活かしたラップ/コーラスで華やかな色を添える千葉涼平、緒方龍一のパフォーマンスも的確。アーティストとしてのエゴを押し出し過ぎず、優れた音楽に近づこうするスタンスもまた、彼らの利点だろう。(森朋之)