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TUBEは“日本の夏”を更新し続けるーー28回目の横スタライブで見せた熱と色気

2016年08月29日 15:41  リアルサウンド

リアルサウンド

TUBE

 毎年夏の恒例となったTUBEの野外スタジアムライブ『TUBE LIVE AROUND SPECIAL 2016 -RIDE ON SUMMER-』が8月20日、横浜スタジアムで開催された。2015年にデビュー30周年を迎えた大ベテランのTUBEだが、前田亘輝(Vo)は「1曲も知らない人が来ても楽しめるショーを」と公言しており、多くのヒット曲だけに頼ることなく、今なお進化を続けている。31年目からその先へ――この日のライブでも、新たな一歩を踏み出したTUBEがパワフルなパフォーマンスを見せつけた。


 昨年の30周年記念ライブを収めたBlu-ray『TUBE 30th Summer 感謝熱烈 YEAR!!!』は6月13日付のオリコン週間ランキング「ミュージックBD」部門で1位を獲得しており、前進を止めないTUBEのステージへの注目度は、今なお高まるばかりだ。今年で28回目を数えるスタジアムライブは台風の接近で天候が不安視されるなかでの開催となったが、スタンドに至るまで3万人の観客に埋めつくされ、開場前から周辺はさながらお祭り状態。親子連れやサーフファッションの若いファンの姿も見られ、その支持層の広さもやはり、年代を超えて楽しむ夏祭りを思わせた。


 そんな熱気のなか、5つの巨大な気球(バルーン)が設置されたメインステージにTUBEメンバーが登場。前田の「ようこそ、28年目の横スタへ!」というMCでスタジアムが割れんばかりの歓声に包まれる。冒頭に披露されたのは、2015年6月発売のアルバム『Your TUBE+My Tube』の収録曲「Please Freeze Me!」から、1985年7月発売の1stアルバム『HEART OF SUMMER』に収録された「ONJUKU-OUHARA-TAITOU抜けて」まで、ロックナンバー10曲をノンストップでつなぐメドレーだ。


 メドレーは30年のキャリアを振り返る内容になったが、デビュー当時の楽曲もまったく古さがない。タイトながら包容力のある角野秀行(Ba)&松本玲二(Dr)のリズム隊、春畑道哉(Gt)の情熱的なギター、そして、声帯嚢胞の除去手術からわずか半年とは思えない前田の艶やかなボーカル――それが一体となった熱量の高いパフォーマンスは“懐メロ”という言葉からは程遠く、最前線を走り続けるトップバンドの凄みを感じさせた。


 ダンサーを交えて豪華なステージが展開された「SHA LA LA ~English version~」、そして誰もが知る夏の名曲「シーズン・イン・ザ・サン」と続き、加熱した観客をクールダウンさせるように、雨が降り始める。前田の「ここはハワイだと思えば、雨は気持ちのいいスコール」という言葉もあり、観客はそれを楽しんでいたようだ。会場の盛り上がりに水が差されることはなく、通算60枚目となる最新シングル「RIDE ON SUMMER」でボルテージは最高潮に達した。


 同曲は、前田の声帯手術後、初めてレコーディングされたメッセージソングだ。“毎朝目覚めるたび、新しい自分に変われるチャンスは誰にでもある”という思いが込められており、夏の雨空のなかでも、観客にさわやかな朝を想像させた。


 雨はすっかり上がり、後半に展開された、ギタリスト・春畑のソロコーナーも見逃せない。11月にフル・アルバムの発売と全国ソロツアーを予定している春畑は、サッカーJ1リーグ所属・ヴィッセル神戸のために書き下ろした新曲「WE ARE ONE」を披露。そのエネルギッシュかつテクニカルなパフォーマンスは、日本人として初めてフェンダー社に全面的なサポートを受け、「春畑道哉モデル」まで発売されたギタリストの面目躍如といったところ。ヴィッセル神戸のチームフラッグがたなびくなか、「WE ARE ONE」のタイトル通り、まさに会場をひとつにする名演だった。


 ハイライトのひとつになったのは、“夏のバンド”TUBEの対極的な存在とも言える、“冬の女王”広瀬香美による提供曲「おかげサマー」のパフォーマンスだ。メインステージ中央に置かれた前田が気球に乗り込むと、アリーナへとゆっくりと飛び、スタジアム後方のサブステージへ。スタンドから声を上げ続けていたファンをよろこばせた。


 本編最後のMCでは、「今日は久しぶりに歌えることの喜びを噛みしめながら、楽しいステージができました」と、前田から観客に感謝の言葉が伝えられた。そして披露されたのは、昨年12月、冬のシングルとして発表された「灯台」。<生きた証>としてこれまでの道のりを振り返る壮大なバラードが胸に迫る。野外ライブ恒例の噴水による演出が、涼やかさとともに感動を増幅させた。


 アンコールではさらに爆発的な盛り上がりを見せ、お待ちかねの「あー夏休み」には、台風とともに過ぎ去ろうとする夏の襟元をグッとつかみ、目の前に引き寄せるような、否応のないパワーがあった。1990年の楽曲だが、四半世紀を過ぎても変わらない魅力がこの曲にはある。同時に、TUBEが生み出した夏のアンセムは、「夏休み」とは言えなかなか浮かれて過ごすのも難しいご時勢だからこそ、単純な“懐かしさ”とは違う意味での郷愁を伴い、また違った輝きを放っているように思えた。


 ラストには花火が打ち上がり、まさに大団円。しかし、声援は鳴り止むことがなく、ダブルアンコールとして92年リリースの名曲「夏だね」を披露。その後、前田が「パイプラインという名前で、今はなき横浜シェルガーデンというアマチュアのステージに立ったのが最初でした。その感動は、今も忘れません。そして今は、その何倍も多くの人に聴いてもらえるバンドになりました」と感慨深く語り、最後は「海のバラード」を熱唱。海を見て日々のさまざまな思いを洗い流し、フラットな気持ちで明日に向かう――そんなメッセージに観客は聴き入った。


 夏という季節――そのイメージを構成する重要な概念は、「熱」と「色気」ではないだろうか。それをネガティブに捉えれば、夏は“うだるような暑さや、妖しく不純な誘いに満ちた季節”にもなるが、TUBEが感じさせてくれる夏は、より輝かしいものだ。つまり、あくまで前向きに発せられる「熱」と、明るく艶やかな「色気」を絶妙なバランスで併せ持つバンドだからこそ、数多くのアーティストが夏曲をリリースしてきたなかでも、TUBEは日本の夏を象徴する存在になったのだろう。


 夏という季節に飽きることがないように、TUBEの音楽も夏がくるたびに、新しい気持ちで聴くことができる。「手術前よりいい声が出るようになった」と胸を張った前田の歌声に耳を傾けながら、“夏はまだまだTUBEのものだ”と確信するライブだった。(文=橋川良寛)