2016年08月29日 11:02 弁護士ドットコム
サラリーマンでも「経費」が認められる制度「特定支出控除」。経費として認められれば税金の控除の対象となり、確定申告によって納めた所得税の何割かが還付される。この制度を聞いたことがあっても、実際に活用したことがある人はまだ多くないようだ。この制度で認められるものは何か、税理士ドットコムの相談コーナーにも様々な相談が寄せられている(年収は一部、仮定)。
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ケース1)年収450万円・Aさん(会社員)「スーツ代は?」
営業職のため、スーツやワイシャツは消耗品。年間10万円くらい使っています。
ケース2)年収960万円・Bさん(会社員)「MBA取得の学費や教材費は?」
本業のかたわら、業務のためにビジネススクールでMBAを取得しました。学費以外にも、教科書などの書籍購入費用もかかっています。
ケース3)年収600万円・Cさん(会社員)「自己負担の交通費は?」
職場の交通費に上限があるため、月1万円を自己負担しています。
以上のような場合に、「特定支出控除」は認められるのだろうか。また、注意点は何か。眞喜屋朱里税理士に聞いた。
「特定支出控除」とは、一定の要件を満たす支出をした場合、確定申告により、給与所得控除後の金額から差し引くことができる制度です。
具体的には、通勤費、転居費、研修費、資格取得費、単身赴任者の帰宅旅費、そのほか必要経費として認められるものがあります。今回寄せられた質問の中にある書籍や衣服なども、勤務先から認められれば、「その他、勤務必要経費」として認められる可能性があります。
計算方法ですが、その年の給与所得控除額の半分を超えた分を、給与所得控除後の所得金額から差し引きます(衣服費など「その他、勤務必要経費」の上限が「65万円」となる例外あり)。そのため、数万円程度の支出ではなく、数十万円のまとまった金額がかかる支出が対象となるはずです。誤解されていることが多いのですが、対象になる項目の費用が丸ごと控除されるわけではないことに注意してください。
確定申告によって、所得税の還付を受けられ、住民税を減らす効果があります。しかし、いずれの特定支出についても、領収書などを保管しておき、かつ、会社の証明を貰う必要がああるなど、手間もかかります。
申告する際には、国税庁のウェブサイトにある証明書の様式をダウンロードして使うこともできます。
では、相談事項について回答していきましょう。
この方の場合、営業職で業務にスーツやワイシャツが必要だと言えますので、「その他勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費など)」として、特定支出控除ができます。年収が450万円の場合、給与所得控除の金額は144万円、控除の対象となるのは72万円を超える分です。
相談者のように年間10万円では、特定支出控除は受けられません。
しかし、スーツ等の消耗品を含め、他の特定支出控除項目が、給与所得控除額の半分となる72万円以上あれば、特定支出控除の対象となります。
ビジネススクールでMBAを取得した学費や、教科書などの書籍購入費用は特定支出控除の対象です。年収960万円のこの方の場合、給与所得控除は216万円となりますので、特定支出控除の対象となるのは、216万円の半分である108万円を超えた分のMBA取得費用となります。
しかし、特定支出控除は、年度ごとの申請となります。たとえ一括払いの支払いであっても、2年分の学費をまとめて申告することはできません。
通勤費も、特定支出控除の対象となります。
年収600万円の場合、給与所得控除は174万円となりますので、87万円を超えた分が対象です。ただ、通勤費だけで87万円にはなりません。これも他の項目と同様に、その他の特定支出控除項目を含めて87万円を超えていれば、特定支出控除の対象となります。
特定支出控除は、経費として認められるとはいえ、認められる支出は高額となっています。そのため、一般的なサラリーマンが医療費控除のような気軽さで使える制度ではないようにも思います。
ネット上には、まだこの制度への誤解も多いようですので、節税として考えるサラリーマンもいるようですが、還付額は数千円から数万円程度です。控除されると期待しすぎて無駄遣いしすぎることのないように気をつけた方がいいです。
【取材協力税理士】
眞喜屋 朱里(まきや・あかり)税理士
東京都中央区に開業している女性税理士です。女性起業家、中小企業の支援、資金調達等経営者のサポーターです。経営者の不安を少しでも和らげるのが私のお仕事です。また、代表が長年一部上場企業に勤務していたことから会社員の税務相談ものる独自の福利厚生プランも立ち上げています。
事務所名 :眞喜屋朱里税理士事務所
事務所URL:http://www.makiyatax.jp/
(弁護士ドットコムニュース)