F1ベルギーGPの予選後、各チームから配信されたドライバーの公式コメントでは、ほとんど触れられていなかったが、多くのドライバーがピレリが今回ベルギーGPで設定した高すぎるタイヤの最低内圧と、ベルギーGPとしては暑すぎる気温について言及していた。
戦略的なパワーユニット交換によって最後列からスタートするルイス・ハミルトンも、そのひとりだ。オー・ルージュからケメル・ストレートという約20秒の全開区間があるスパ・フランコルシャンでは比較的オーバーテイクが可能なため、ここでペナルティを消化する作戦を採ったのだが、今回は良くてもトップ10フィニッシュだろうと考えている。
「ものすごく厳しいレースになるだろう。オー・ルージュではスリップストリームが使えるけれど、これだけ暑いと、ついていくのは大変だ。もしクリーンなレースになったら、トップ10に入るのでさえ簡単なことではない」
ハミルトンは今年の中国GPでも22番手からスタートしているが、そのときには7位まで巻き返した。しかし、スパは条件が異なるという。
「中国とは、まったく違う。今回は内圧が高すぎる。僕のレースキャリアを振り返っても経験したことのないプレッシャーだ。それに中国GPと比べると気温がすごく高くて、暑いからブリスターが起きるだろう。中国よりも、ずっと厳しいよ」
タイヤについて懸念を見せているのは、フェラーリのセバスチャン・ベッテルも同様だ。ベッテルはQ2でソフトタイヤを選択、スタートでは有利と思われるソフトを装着できるものの、安心はしていない。
「タイヤがすぐに熱くなってしまう。たった1周でも最後には、すごく熱くなる。だから最後のシケインでリヤが流れたんだ。レースではタイヤの管理がポイントになる」
ベッテルと同様、Q2でソフトを選択したレッドブルのダニエル・リカルドは、メルセデスに対抗できるかと尋ねられると、笑みを浮かべた。
「彼らは昨年のシンガポールGPでも苦戦していた。もし暑さが原因なら、今回も苦しむだろう。レースが楽しみだよ」
予選トップ10に入ったマクラーレンのジェンソン・バトンは、興味深い発言をしている。
「これは秘密でもなんでもないんだが、僕たちはライバルたちより、いくらか多くのダウンフォースをつけている」
スパではダウンフォースをつけるとセクター2が速く、削るとセクター1と3が速くなる。どちらもタイム的には同じくらいだが、レースを考えた場合、セクター1でオーバーテイクできるレス・ダウンフォースでないと戦えないため、ほとんどのドライバーはレス・ダウンフォース仕様を選択するのだが、今年は少し様相が異なる。
それは予選の最高速(今回はスピードトラップがオー・ルージュに設定されていたため、最高速はセクター1となっている)にも表れていて、ダウンフォースをつけたというバトンの最高速は、リカルドと同じ336km/hを記録しているだけでなく、なんとハミルトンとも同じなのである。
実はメルセデスは金曜日の空力パッケージを土曜日になって変更。ダウンフォースを高めに設定している。つまりオーバーテイクを重視するよりも、タイヤの管理を優先したと考えられるのだ。
また、あるドライバーはレースは大混乱に陥るかもしれないと語った。
「とにかくブリスターがひどい。フリー走行ですら、スーパーソフトもソフトも4輪すべてにブリスターができる。レースが心配だ」
決勝日のスパ・フランコルシャンは、再び青空が広がっている。スタート時の気温は土曜日より、いくらか涼しくなると予想されているが、例年よりも暑くなることは間違いない。そうなるとレースでは、いつも以上にタイヤの管理が重要になる。今年のベルギーGPは、いつものようなメルセデス楽勝の雰囲気はない。