雨のため順延となっていたインディカー・シリーズ第9戦テキサス。27日に71周目からのリスタートが切られ、グラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン)が、ジェームズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン)を0.0080秒差で抑え、今季初勝利を飾った。1周遅れから挽回を期してレースに挑んだ佐藤琢磨(AJフォイト)は、マシントラブルによりリタイアに終わった。
6月に第9戦として開催されたファイアストン600は、248周のレースのうちの71周で雨のため赤旗中断となった。そして今日、76日後に残り周回数が行われた。177周のバトルをリードしたのはジェイムズ・ヒンチクリフだったが、彼はファイナルラップでトップの座を奪われ、大逆転の勝利を飾ったのは、グレアム・レイホールだった。
ターン3からターン4でヒンチクリフをパスしたレイホールは、0.0080秒という僅差で今シーズン初優勝、キャリア4勝目を手に入れた。ホンダにとってはインディ500以来となる今シーズン2勝目だ。
ヒンチクリフの速さは圧倒的だったが、終盤に重なったアクシデントで上位陣のマシン間の差は無くなってしまった。さらに、シュミット・ピーターソン・モータースポーツは作戦面でのミスを犯した。
ゴールまで20周を切ってからは、周回遅れが列の後方へと移動させられるルールを忘れていたのだ。トニー・カナーン(チップ・ガナッシ・レーシング・チームズ)は236周目に新品のタイヤを装着すべくピットに向った。トップを走るヒンチクリフのタイヤは、この時点で30周を走っていた。レイホールはヒンチクリフよりは少ない19周を走ったタイヤをこの時装着していた。
最後のリスタートは、ゴールまで8周の241周目。タイヤの状況からはカナーンが有利と考えられたが、今日ずっとトップを走ってきていたヒンチクリフのスピードはまったく衰えを見せず、カナーンがインサイドに並びかけてもトップの座を譲らなかった。
最後のリスタート時に2番手にいたレイホールは、カナーンやサイモン・ペジナウ(チーム・ペンスキー)も交えたトップ争いで4番手まで後退を余儀なくされたが、接近戦での走りは最も冴えており、カナーンをパスしてヒンチクリフに迫った。
最後の1周を告げるホワイトフラッグはヒンチクリフが先頭で受けた。しかし、レイホールがターン3で攻撃を仕掛け、これを見事に成功させた。ヒンチクリフはターン4から逆襲を仕掛けたが、インディカー史上5番目の僅差、0.0080秒の差でレイホールがウイナーとなった。ホンダにインディ500と同様にワンツーフィニッシュを飾った。
0.0080秒差での優勝は、2002年にサム・ホーニッシュJr.がカストロネベスを下したテキサス・モーター・スピードウェイでのレコード=0.0096秒差を破る新記録だ。
最終ラップだけをリードして優勝するドライバーは、今日のレイホールが史上14人目。いちばん最近の例は、2013年のサンパウロ戦でのヒンチクリフだ。
「最後の数100ヤードだけヒンチクリフはリードができなかった。ゴール前の接戦でエリオ(カストロネベス)が上がってきて僕にぶつかり、僕は外側のトニー(カナーン)にぶつかった」
「あの時にアクシデントにならずに済んだのはラッキーだったね。ハードに働き続けてくれているチームのために勝ちたかった。未勝利のままシーズンを終えたくなかった。最後のイエローが出された時、まだチャンスはあると考えた。僕のマシンは集団の中で速かったと思う。今日来てくれたファンにはおおいにレースを楽しんでもらえたんじゃないかな」とレイホールは語った。
2位となったヒンチクリフは、「残念だ。僕らのマシンは本当に速かったんだが……。最後はタイヤの差だったかもしれない。チームは素晴らしいマシンを作ってくれたが、今日はグラハムと彼のチームに拍手を贈る」とコメントした。
チャンピオン争いは、ポイントリーダーのペジナウが4位フィニッシュし、ランキング2位のパワーは8位。ふたりのポイント差は残り2戦で28点となった。今日3位フィニッシュしたカナーンは、カストロネベスを1点だけだが上回りランク3番手に浮上した。
佐藤琢磨(AJフォイト)は、1周遅れの17番手からスタートすることになっていた。トップのヒンチクリフのすぐ後ろからのスタートのため、彼をパスできればリードラップに復活できるはずだった。
しかし、10分間だけのレース前プラクティスでまさかのクラッシュを喫し、今日のレースでの活躍は期待しにくい状況に陥った。右フロント・サスペンションが壊れてのクラッシュだった。
ポコノでオーバル用マシンに大きなダメージを与えたため、今回のレースにAJフォイトはロードコース用マシンをコンバートした14号車で臨んだが、その組み立て時にトラブルがあったのかもしれない。
クルーたちは必死の作業でスタート直前にマシンの修理を終え、グリッドに並んだ。しかし、急造マシンはセッティングが完全でズレており、苦しい走りを続けるしかなかった。無線にもトラブルが発生、90周を走ったところでリタイアの道を選んだ。
「ポコノでいろいろとサスペンションのセッティングを試し、そこから学んだことを盛り込んで今週のテキサス用マシンを作ってきたのですが、そのセッティングがどれだけの力があるのかを確認できませんでした」
「クルーたちが頑張ってくれて、マシンは何とか間に合いましたが、走り出してみると、ノーズが上を向いている状況で、タイヤも20周ほどで消耗してしまいました。無線のトラブルも発生したし、ロードコース用のマシンで走り続けても有効なデータは得られないと考え、マシンを停めました」と琢磨は苦しいレースを振り返った。