「ワーキング・ホリデー」という言葉は、誰もがご存じのことだろう。2国間で労働意欲のある若者が相手国に出向き、自国を離れての休養をしつつ、その間の滞在費用を労働することで賄うことを認める出入国管理上の制度という。
日本の場合、台湾やカナダ、イギリスなど16カ国と、ワーキング・ホリデー協定を結んでいるということだ。ところが最近、この制度を応用して国内でも「ワーキング・ホリデー」を名乗る事業があり、その募集要項をめぐってネット上で一騒動起きていたので紹介しておきたい。(文:松本ミゾレ)
「ボランティア保険」ということは、報酬なし?
実は先ごろ、京都府のホームページに「京都ふるさとワーキングホリディ」なる催しの告示がなされていたのだが、これがいろいろと問題がありそうなものだった。
参加条件からして「18歳以上で農業に関心があり、誠意を持って農家の手助けをしていただける都市住民の方」とある。断言する。顔も知らない他所の農家に誠意を持って手助けできる人間なんか絶滅危惧種だ。さらに、こんな文面まで飾られていたのだ。
「なお、農家が忙しい時期でもあり、本企画の趣旨としてお客様扱いはしません」
おっと、これは穏やかじゃない。これではもはや、繁忙期の人手不足解消のための人員集めではないか。しかし、恐ろしいのはここからだ。
この募集案件、詳細を確認してみると「ボランティア保険は府で加入します」という一文がある。そう、ワーキング・ホリデーと言いつつ、国内、それも近隣の都市から若い人材を集めようとしているだけでなく、この一件ではそもそも報酬が発生すらしない。
これでは体のいいタダ働きの奴隷集めだ。このご時世、こんな炎上するリスクも高いものを、よくネットに堂々と掲示できたもんである。
ネットの批判を受けてページは削除か
この募集要項は即座にTwitterで晒され、togetterにもまとめられ、ユーザーからごもっともな指摘の応酬となった。その一部を抜粋してご紹介したい。
「えっ!?『ワーホリ』なのに報酬すらでないのですか?」
「『給料出さないけど手伝いに来い』って? ワーキング・ホリデーは『就労』やぞ。これは農業ボランティアじゃないか」
「京都ふるさとワーキングホリデイ、『お客様扱いしませんので』とか書いてあってゲラゲラ笑うんだけど、金を払わず労働力だけ得る話をうまく表現するか?のケーススタディになって良い」
意図的なのか天然なのか、本来のワーキング・ホリデーの意味を思いっきり間違った解釈をしている上に、「お客様扱いはしない」と断言し、農家の手伝いに来るように要求する。こんな催し、まともな人は避けて当然だ。
なお、現在この「京都ふるさとワーキングホリディ」についての新規募集についての詳細な説明文は、Googleで検索するといまだにトップに表示されるのだが、クリックすると「お探しのページアドレスが変更された、削除された、もしくはアドレス(URL)のタイプミスなどの可能性があります」と書かれたページに飛ぶ。
恐らくネット上で様々な指摘があったため、削除したんだろうが、その経緯については何も説明がないので確たる理由は分からない。まあ常識的に考えて、こんな農家しか得をしない催しはやらない方が良いとは思うんだけど……。
「指定された農家に、自力で到着できる方」にドン引き
ところがこの催し、実は恒例だったようで、数年前から継続的に参加者募集の案内を目にすることができる。たとえば平成25年には18歳以上のお手伝いさんを募集しているが、この際の条件がまたヤバい。「指定された農家に、自力で到着できる方」とあるのだ。
要は「お手伝いしたいなら、電車やタクシーを使って自分で農家まで来い」というのである。その際の交通費の支給は、当然ない。さらに解せないのは、この催しにおいては農作業従事者だけでなく、受け入れ先の農家も募集していることだ。いかにも泥縄といった感じだ。
高齢化が進む農家を支援するために、行政が若者を「技術を習得させてあげるよ」と誘っているのだろう。しかし労力に見合う報酬を支払わないのでは、まるでブラック企業の求人ではないか。
まあ、希望する人が皆無とはいわない。しかしこのような催しが、果たして本当に現地の農業の明るい未来につながるのかは疑問だ。他の自治体には、こういう「自己犠牲」を当てにしたような募集要項は通用しないという教訓にしていただきたい。
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