トップへ

RADWIMPSは新たなスタートを切ったーー『Mステ』初出演を機に活動の足跡を辿る

2016年08月26日 19:11  リアルサウンド

リアルサウンド

RADWIMPS

 RADWIMPSが、本日8月26日の20時より放送される『ミュージックステーション 2時間SP』に出演する。同番組内でRADWIMPSは自らが音楽を担当した新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』の主題歌「前前前世(movie ver.)」を披露する予定だ。彼らが地上波テレビの音楽番組に登場するのは、これが初めてのこととなる。


 2005年にシングル『25コ目の染色体』でメジャーデビューして以来、その高い音楽性と深遠な世界観で大きな求心力を持ってファンを惹きつけてきたRADWIMPS。彼らは、なぜ今、『ミュージックステーション』への出演を選んだか。その背景には、デビューから11年目を迎えて新しい扉を開けつつあるバンドの現在がある。


 8月24日にRADWIMPSはニューアルバム『君の名は。』をリリースした。新作は、主題歌4曲と劇伴22曲を担当した同名のアニメーション映画のサウンドトラックでもあり、バンドが1年半をかけて取り組んできた正真正銘の新作でもある。アルバムには、バンドサウンドだけでなく、ピアノやストリングスを用いた美しい旋律のインストゥルメンタル楽曲も収録されている。


 先日公開された記事「RADWIMPSが『君の名は。』で発揮した、映画と音楽の領域を越えた作家性」でも書いたが、おそらく、野田洋次郎自身にとっても今作の制作にあたっては「劇伴作家」として映画の世界に寄り添うという、今までにない挑戦を果たした実感があったはずだ。そしてそれは、映画と音楽というフィールドを超えて深く共感しあう新海誠監督の作品だからこそ実現したものだと思う。


 8月24日に放送された『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM系)にゲスト出演した際、野田洋次郎は「1年半かけてコツコツ作っていきました」と制作の背景を明かしていた。劇中音楽は新海誠監督との密なやり取りを経て完成していった。監督が音楽に合わせてシーンを作り変えるようなこともあった一方、使われなかった楽曲もあったそうで、同ラジオ番組で野田洋次郎は「歌が入った曲も最終的には10曲以上作った」と語っていた。バンドの公式ページに掲載されたスタッフダイアリーによると、当初はプロのピアニストを呼んで弾いてもらうことも考えていたが、ピアノのタッチが変わることにより物語の統一感がズレると考え、野田洋次郎自らが全て弾くことにしたという。また、ストリングスのアレンジも通常は専門の編曲家に頼むことがほとんどだが、これもバンドだけでやりきった。


 これだけの意欲作であるからこそ、映画の公開日にあわせて自らテレビで主題歌をパフォーマンスするという決断を下したのだろう。


 そして、RADWIMPSがこの『君の名は。』の音楽を作っていた昨年からの1年半は、バンドにとっても様々なターニングポイントを経てきた期間でもあった。


 2015年9月には、ドラムの山口智史が持病の悪化により活動を控え休養に入ることが発表された。2009年のライブ中に足が思うように動かせない症状が発覚し、リハビリを続けながらの活動を続けてきたものの、フォーカル・ジストニアと診断を受けた神経性の症状が悪化。無期限の休養としてドラマーとしての山口智史の籍は残したまま、当面はサポートドラムを迎えて活動を続けることとなった。


 そんな最中にバンドは10周年を迎え、新たな試みを繰り広げることとなる。10月からは韓国、フランス、ドイツ、イギリス、台湾を巡る海外ツアーを開催し、11月からは初の対バンツアー『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤』を、米津玄師、きのこ帝国、plenty、LOVE PSYCHEDELICO、ゲスの極み乙女。、ハナレグミ、クリープハイプ、スピッツ、いきものがかり、ONE OK ROCK、Mr.Childrenという豪華なメンツを迎えて行った。


 そして、2015年12月には幕張メッセ国際展示場にてワンマンライブ『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR FINAL RADWIMPSのはじまりはじまり』を開催した。


 バンドが乗り越えてきた激動の日々は、2016年3月に公開されたバンド初のドキュメンタリー映画『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』に克明に映しだされている。


 映画の公開にあわせて行われたスペシャル・トークショーでは、野田洋次郎は「先が見えなくて、僕たちのバンドは続いていくのかな? という気持ちもどこかにあった」と撮影開始時のことを振り返っている。


 一方、2016年には野田洋次郎のソロプロジェクトillionも再始動している。7月には原田郁子をゲストボーカルに迎えた新曲「Water lily」が配信され、全国ツアーも実現。フジロック・フェスティバルにも出演を果たした。illionの3年ぶりとなるニューアルバムは、10月12日のリリースが予定されている。


 つまり、デビュー以来「4人組のロックバンド」として歩みを進めてきたRADWIMPSというバンドが、デビュー10周年を経て、その内実も、体制も、大きく刷新することで再び新たなスタートを切ったのが昨年から今年にかけてのバンドが辿った足跡だった。


 ここ数年、BUMP OF CHICKENやKen Yokoyamaなど、デビュー以来地上波テレビへの出演を拒んできたバンドやアーティストが『Mステ』に初出演を果たし、そのたびに大きな反響を巻き起こす例が多くある。今回のRADWIMPSの『Mステ』出演も、その流れの中の一つの出来事として捉えられるだろう。そして、それぞれのアーティストにそれぞれの思惑と狙いがあったように、今回のRADWIMPSも、バンド自身とスタッフを含めたチームの意志によって、そのことを選んでいるはずだ。


 ひょっとしたら、ファンの中には複雑な心境を抱える人もいるかもしれないが、少なくとも、テレビの音楽番組への出演によってロックバンドの表現の「本質」が損なわれることがないだろうことは、ここ数年の例を見ても明らかだ。


 RADWIMPSが踏み出した新たな場所の先にあるものに、期待したい。(柴 那典)