近年、モータースポーツ界において多くのドライバーやチームが愛用するギアブランドがある。それは、サッカーや陸上など他のスポーツでもおなじみのブランド、プーマだ。1990年代後半からモータースポーツに参入しメキメキとシェアを拡大。いまや日本を含め多くのチームが愛用しているが、そんなプーマ・モータースポーツのセールス部門の実質的なトップである、『レースウェア・シニアセールスマネージャー』を務めているブルーノ・ヴァリエンティが日本のモータースポーツマーケットのリサーチとスーパーGT第5戦富士を訪れるために来日したので、彼に話を聞くことができた。
今回は、レーシングギアのカテゴリーによるカスタマイズと、気になる最新のギア事情について聞いた。
■カテゴリーにおけるカスタマイズは「それほどない」
ここまで、F1でレーシングギアをサポートし続けたブルーノにモータースポーツの“道具”に何が重要なのかを聞くことができた。では、プロドライバーはさまざまな車両をドライブすることになるが、それによってレーシングギアの部分で何か変化はあるのだろうか。
「基本的にそれほど大きな違いはない」とブルーノは語る。
「ただ、レースの種類やサーキットのタイプによってブレーキングの強さや頻度が異なるため、その都度レーシングシューズのソールに鉄板を入れたり(!)、強化したりすることがある。そうやって対応しているんだ」
「また、グローブについては、近年はパドルシフトが多いが、シーケンシャルシフトの場合はレバーを操作しなければならない。そうすると、モノコックに手を打ち付けてしまうことがあるんだ。そのため、クッションとなるパッドを外側につける。レースによって配置も異なるからカスタマイズしているが、基本は同じだよ」
■軽量化と安全性の攻防
近年のレーシングスーツは、機能性も高まり重さもどんどんと軽減している。「最近のフォーミュラカーでは“ライトウェイト”というのが極めて重要にテーマになっている。100gと言わず、ほんの数gでも軽いほうが燃費に繋がるので、道具の軽量化が求められている」とブルーノも語る。
「プーマの方向性としてもライトウェイトを重視しており、より少なく薄い素材でシューズを作るというので、その部分の耐火性が担保されているかどうか常にFIAによってチェックされている。奇抜であればあるほど目につきやすくなるので、検査にひっかかりやすくなるが、ルールなのでそこはきちんと対応しなければならない」
「ミッドソールなど、どうしても燃える素材を使わなくてはいけない部分については、(難燃性の)ノーメックスでカバーしたりといろいろな工夫をする。普通のシューズとは違い、レーシングシューズに関しては細部に至っても燃えないようにしないと、ルールに通らないんだよ」
「新しいモデルを出すたびにホモロゲーションの検査を受けるのは大変ではある。素材が進化してきている分、その素材、たとえばプリント部分が燃えないかどうか、注意しなくてはいけないんだ」
■これからの時代のマーキングはプリント? 刺繍?
シューズの話にも出てきた“プリント”は、近年のレーシングギアにとって、じつはかなりのキーワードとなっている。シューズはもちろん、レーシングスーツやグローブでも、スポンサーロゴやドライバーネーム等のマーキングが、これまでの刺繍からプリントに変化しつつあるのだ(生地を直接染める技術もある)。
では、長年レーシングギアを見てきたブルーノにとって、プリントという技術をどう見ているのだろうか。
「基本的にどちらが好きとかいうのはない。どちらにも良し悪しがある」とブルーノ。
「先ほども言ったとおり、道具の軽量化が求められている。プリントでやるか刺繍でやるかによって重さが変わってくるので、意識して未来に進んでいっているチームはプリントを選択して、軽量化を目指している。対して伝統的なチームは、格式を重んじて刺繍を選択するところがある」
しかし、ブルーノはチームにとって最も重要である“スポンサーロゴの露出”において、プリントはまだ“弱点”があるとしている。
「ただし、良くなってきているとは言え、プリントの耐久性はまだ弱い。仮にスポンサーロゴが剥がれたときの保証を考え、重量をとるか、スポンサーをとるか考えると、本来は刺繍の方が安全と言える。しかし、最近ではほぼすべてのチームがプリントを選択するようになっている」
「全体的に言うと、軽量化とスポンサーに対する視認性の良さが重要になっているが、将来的にはプリントの占める割合が多くなると思う。ただ、プリントの面積が広くなると通気性が悪化し、ドライバーのパフォーマンスに影響するからね」
一方でブルーノは、プリントの方が精密な模様を描くことができることもアピールした。近年では、メルセデスのふたりやトロ・ロッソといったF1ドライバーのグローブに腕時計の模様が見られるが、あれもプリントだからこそできる技術だろう。今後、レーシングギアにおける刺繍は、ブルーノの言うとおり減っていく方向なのかもしれない。