企業が投資家に経営状況などを説明するために作成される「IR資料」。業績推移や見通し、今後のビジョンなど投資を判断する上で重要なことが書かれているものだが、数字や文字での説明が多く、どうしても固くなりがちだ。
そんな中、今「めちゃ面白い」「インパクトすごいww」と注目を集めているIR資料がある。玩具メーカー、タカラトミーの2016年3月期の決算説明会資料だ。どうしてこうなったのだろうか。
繰り返される「JAPAN 強い STRONG」の言葉
タカラトミーといえば、女の子から絶大な支持を集めるリカちゃん人形を擁する「タカラ」と、男の子に人気のトミカやプラレールなどを看板商品に持つ「トミー」が、2006年に合併して誕生した玩具メーカーだ。
合併の背景には、進行する少子化への危機感があった。子どもの減少で市場が縮小し、先行きが明るいとは言い難い。資料にも、売上高は前期比131億円のプラスな一方、期初見通しには及ばない1630億円という記述や、当期純利益はマイナス67億円という厳しい数字もある。
しかし、その後資料の6ページ目からトーンが激変する。突如登場するのは、堅いアスファルトの間から顔を出す雑草の写真。その上に「我々の努力が『見える』成果を生み出しています」という力強い言葉が被さっている。
次のページには、変革を表す「革」の筆文字。戦略を示すページには「時代と共に新しい遊びで発展 ENDLESS」「新しい年齢層を取り組む AGELESS」「新しいマーケティング BORDERLESS」と、勢いのある言葉が韻を踏むように掲げられている。
主力商品群を紹介するページでは、前年比「2割増」「5割増」といった数字とともに、赤い丸から力こぶを作った腕が伸びるイラストが載っている。繰り返されるのは「JAPAN 強い STRONG」の言葉だ。
「誰だよ!これでいこう!!って言った人」と話題に
このIR資料は5月13日の説明会で使われたものだが、8月16日に2ちゃんねるに「タカラトミーの決算報告書がヤバい」というスレッドが立ち、ネットで話題となった。IR資料とは思えないダイナミックな表現に衝撃を受けた人が多いようだ。
「タカラトミーの上場企業らしからぬ決算資料に 壮大に草wwwwwwwww」
「誰だよ!これでいこう!!って言った人ファンになるわ」「斬新過ぎてもし懐に余裕があれば全力で株を買いまくりたくなるレベル」
「絶対に笑ってはいけないタカラトミー決算報告書」
中には、「素人が作ったんか」「スライドが見にくすぎるw」「一消費者として心配になるレベル」といった声もあったものの、強烈な印象を与えたことには間違いない。
過去の資料を見ると、現在のトーンに変わったのは2014年3月期の期末から。いったい何があったか。キャリコネニュース編集部がタカラトミーの広報担当者に話を聞いたところ、2014年に現社長のH.G.メイ氏がCOOに就任したことがきっかけのようだ。
「メイ社長は商品のマーケティングと同様に、IR活動においても投資家の皆さまに『分かりやすく説明する』ことを強化するように心掛けております。決算報告書も当社への理解をより深めてもらえるように、ビジュアル等を用いて作成しています」
アニュアルレポートは世界5位の栄冠に輝く
メイ社長はタカラトミーのCOOに就任前、日本コカ・コーラをはじめとして複数の企業でマーケティングを担当していた。この資料を誰が作ったか気になるところだが、同社担当者によると、「メイ社長を中心に関係部門と一緒に作成しています」とのことだ。メイ社長はオランダ出身だが、8歳から14歳までを日本で過ごしており、日本語が堪能だ。
ネットと同様、投資家からも「ビジュアルを多数用いていて印象に残る」「わかりやすくなった」と好評を得ているようだ。ネットにも「タカラトミーの決算報告書ネタにされてるけど去年の株主総会では結構ウケてたぞ」という声があがっている。
メイ氏の「分かりやすさ」の心掛けや遊び心は、他のIR資料にも及んでいる。
「例えばIRツールの一つの『アニュアルレポート』では、船に乗ったおもちゃを表紙にあしらい、取締役の紹介ページでメイ社長が航海の地図を手にしています。経営をチェックする監査役は望遠鏡を手にしたりと、デザインに遊び心を加えています」
デザインだけでなく中身の評価も高い。同社の2015年度版のアニュアルレポートは世界24カ国、6000以上の企業が参加する「LACP Vision Award」で総合5位を獲得している。現場任せにする経営者が多い中、自らIR資料を作成して社員や投資家を元気づけるメイ社長に今後も注目したい。
あわせてよみたい:脱・親族経営の「タカラトミー」