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「お館様」の華麗なるレキシワールド! ツアーファイナル武道館公演を観た

2016年08月23日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

レキシ(写真=田中聖太郎)

 8月17日。日本武道館は異様な雰囲気に包まれていた。袴の合わせがプリントされたTシャツをまとい、たわわに実った稲穂を手にした人、人、人。床に前方後円墳が描かれたステージ上にはアフロヘアの大仏が鎮座し、赤く目を光らせている。天井から吊り下げられた日の丸ですら、この日ばかりは演出のひとつに思えたほど。なんともカオスな空間だが、それもそのはず。ライブを行うのは、日本の歴史を歌った楽曲で、じわじわと支持を拡げているレキシだ。6月にリリースした5thアルバム『Vキシ』を携えた『レキシツアー 遺跡忘れてませんか?~大きな仏像の下で~』のファイナル、自身としても2年ぶりとなる武道館公演である。


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 客電が落ち、法螺貝を合図にメンバーが登場すると、おもむろにスクリーンに映しだされたのはマラソン中のレキシ。どうやら2年前と同様、今回も『24時間テレビ』の名物企画を模して登場したいらしい。しかも、ナレーションは茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ)、ZARDの『負けないで』をラーメンズの片桐仁が歌っているではないか! この無駄な豪華さがレキシのライブの醍醐味。すでにニヤニヤが止まらない。思惑通りひと笑いかっさらったのち、ステージ中央に設けられた扉からレキシ参上(無事、武道館にゴールできた模様)! 『Vキシ』の冒頭も飾っている「牛シャウト!」のイントロがはじまる。ホーン隊を従えた疾走感あふれるサウンドにのって、羽織袴姿のレキシもステージを右に左に駆け回る。バックバンドに混じってしれっとギターを弾いているピンク色の忍者姿はシャカッチことハナレグミだ。続く2曲目の「大奥~ラビリンス~」では、早くもこのふたりの悪ノリが炸裂。曲の合間に「あれ、やっちゃう? 昔一緒にやってたバンドの」とSUPER BUTTER DOG時代の楽曲「FUNKY 烏龍茶」を演奏し始めた。そう、このたびたび挿入される“思いつき”によるセッションがレキシのライブの要。観客を飽きさせない(もとい油断させない)演出である一方、どんな無茶ぶりにも的確に応えるバンドの技量の高さを見せつけられもする。その証拠に「年貢 for you」では、サザンオールスターズの「涙のキッス」、嵐の「A・RA・SHI」を観客との掛け合いで披露。予想もつかない “ライブ感”に会場全体のテンションもどんどんあがっていく。4曲目の「Let’s忍者」では再びシャカッチが登場。ここでもレキシから「エリック・クラプトンやって」と無茶ぶりが飛ぶも、健気に応えるあたりはさすが長年の同志。続くソウル風味のドライブチューン「古墳へGO!」では、恒例の「K・O・F・U・N」ダンス(からのX「紅」)で会場を盛り上げ、その勢いのまま「やぶさめの馬」へ。ニューアルバムの中でも一際爽やかな楽曲を、ステージをところ狭しと走りながら歌い上げた。


 と、ここで、2組目のゲスト、ネコカミノカマタリことキュウソネコカミが登場。楽曲に描かれる蘇我入鹿を意識し、“イルカに乗った少年”コスプレで現れたのはレキシネーム・ヤマサキ春の藩祭り(ヤマサキセイヤ)だ。自身の持ち歌「ファントムヴァイブレーション」やBUMP OF CHICKEN「天体観測」で横道に逸れるのをレキシにたしなめられつつ披露した「KMTR645」は、キュウソらしいギミックたっぷりのダンスロック。若手バンド筆頭とも目されるさすがの存在感を見せつけた。


 そして、バックバンドのキーボード担当、元気出せ!遣唐使(風味堂)とシャカッチ、レキシの3人が、ソウルトレイン風のダンスで魅せる「寺子屋FUNK」をへて、登場したのは阿波の踊り子ことチャットモンチー。MVにも参加している劇団シキブ(八嶋智人)の全力の観客煽りにも負けじと阿波踊りで応戦し、レキシ初のシングル曲として昨年リリースされた「SHIKIBU」を歌い上げた。


 ライブでおなじみの「salt&stone」を10曲目に、本編はいよいよ後半戦へ。ここで登場したのが艶やかな着物をまとった森の石松さんこと松たか子。有名女優のまさかの参戦に、会場の興奮も最高潮! 松の伸びやかな歌声が切なく響く「最後の将軍」のあとは、代表曲「きらきら武士」。レキシ楽曲中最強のダンスサウンドが会場を揺らし、大歓声の中、本編が終了した。


 「アンコールはむしろ見ないほうがいいかも」と意味深な発言を残していったんステージを去ったレキシが、再び姿を現したとき、バンドメンバーは全員一休さんの衣装。アニメ「一休さん」のオープニングテーマをバックに、おもむろにコミカルなダンスを披露する。「さあ、茶番のはじまりだ!」という宣言のもと、まずは「一休さんに相談だ」を歌唱。ここで再び劇団シキブが登場し、「屏風から虎を出す」有名なエピソードをネタにしたコントを展開。ノリノリの八嶋とともにひとしきり笑いをさらったあとはレキシ的大名曲「狩から稲作へ」がおごそかに始まる。武道館に稲穂が揺れ、文明の進歩を歌った大スケールの楽曲は、途中DREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」に脱線し、「ラ~ブ、ラ~ブ、稲を叫ぼう」と謎の合唱へと発展。このまま大団円に持ち込まれるかと思いきや、最後のゲスト、やついいちろうが登場。レキシが出演したドラマ『99.9 –刑事専門弁護士-』にちなみ、松本潤の出で立ち(自前)で現れるも、会場の冷たい反応に逆ギレし、笑いを誘った。ラストは出演者全員で再度「KMTR645」を熱唱。全15曲、3時間に及んだライブは幕を閉じた。


 改めて思うのは、なにをおいてもレキシの愛されぶりだ。もはやいっぱしのフェスが開催できるくらいのゲストミュージシャンはもちろんのこと、クールな佇まいながらどんなフリにも全力で応えるバックバンドのメンバー、そして数あるライブの“お約束”を一分も違わず遂行するファンたち。すべての人が彼を愛し、彼のパフォーマンスに笑顔を見せる。むしろ演奏よりもトークのほうがメインなのではと思わせるほど、どこまでも脱線していくレキシワールドをも許容してしまう何か。それは戦国時代の武将よろしく、類まれなるカリスマ性なのかもしれない。J-POP界の「お館様」を唯一無二の存在たらしめるのは、このレキシ取り巻く人々の愛そのものだと、実感するライブだった。(板橋不死子)