2016年08月23日 15:52 弁護士ドットコム
関東地方を中心にパソコンやスマートフォンの販売、サポートなどの事業を展開する「PC DEPOT」(PCデポ)が、高齢者に不相応なサービス契約を結んでいた問題が、波紋を広げている。インターネット上で批判が高まったことを受けて、運営会社ピーシーデポコーポレーションは改善策を打ち出したが、消費者問題にくわしい弁護士は「そもそも契約に問題点が多い」と指摘している。
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ことの発端となったのは、契約者の息子であるケンヂさん(アカウント名)が8月14日にツイッター上におこなった次のような投稿だ。
「80過ぎの独居老人である父が、PCデポに毎月1万5千円の高額サポート契約を結ばされてました。解約に行ったら契約解除料10万円を支払わされました」
ケンヂさんに取材したところ、80代の父親は数年前から、認知症を患っているという。もともとパソコン好きで、近年はPCデポを訪れる回数が増えていた。今年の5月に体調を崩して入院し、退院後すぐに老人ホームに入所した。ケンヂさんは、父親の入院中に家の整理をしていたところ、PCデポから毎月のサービス料を請求されていることに気がついた。
PCデポは、パソコンなどに不慣れな人をサポートするサービスを提供している。ケンヂさんの父親は、そのサービスのほか、光回線やiPad Airレンタル、デジタル雑誌購読などのオプションがついて、月々約1万5000円という契約を結んでいた。計10台についてサポートしてもらえるが、3年間の縛りがあり、途中解約する場合、加入当月は約24万円、加入から8カ月は約21万円、12カ月までは約20万円かかる。
ケンヂさんは8月14日、不必要なサービス契約を解除しようと、千葉県内のPCデポの店舗を訪れたところ、店側から解除料として約20万円を求められた。話し合いの末、約10万円に減額されたが、「こんな契約がまかり通っていることがおかしい。許せない」という気持ちが高まり、ツイッターで告発することにしたという。
ケンヂさんによると、昨年9月にも、父親が同じようなサービス契約を結ばされていることがあり、同じ店舗で解約手続きをおこなっていたそうだ。その際、ケンヂさんは店側に「父は認知症なので、また来るかもしれないけど、絶対に契約しないで」と念を押していたという。
父親にも「行かないで」と伝えていたが、昨年12月、ノートパソコンの修理・診断のために店舗を訪れて、新たな契約を結んでしまっていた。ケンヂさんはさらに「iPad Airが本当に引き渡されたかどうかわからない」と話す。
「父親の家を探しても、iPad本体が見当たりません。認知症ですから、本人がなくしたという可能性はゼロではありませんが、使用履歴を調べると、店舗内の設定時の1度だけ。きちんと引き渡したかどうかは、会社側が証明すべきことじゃないでしょうか」(ケンヂさん)
運営会社のピーシーデポコーポレーションの担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「詳細については回答できない」としながらも、「本人(父親)とは数年来の付き合いがあり、今回の契約についても説明して、承諾を得ている」「実際に、iPadを利用した履歴も残っている」と強調した。そのうえで「配慮が足らなかった部分もあったと考えている」と述べた。
消費者問題にくわしい岡田崇弁護士は弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「ケンヂさんの話を前提すると、お父さんの認知症を店側がわかっていながら複雑な契約をしていることがそもそも問題です」と指摘する。
「医者の診断書などで当時認知症であったということを証明できれば、意思能力(事理を弁識する能力)がないということで契約が全部無効になる可能性もあります。
そして、契約書面には解約料等の記載は一応ありますが、月額料金0円といった記載が目立っているのに対して、文字が小さいうえ、複雑すぎて消費者にわかりづらく、適切な説明をおこなっていたとは言いがたいのではないでしょうか。また、サポートの内容やコンテンツ契約については、通常必要とされる量や回数を著しく超えている過量販売であった疑いもあります。
さらに、携帯電話契約と比べても、解約料があまりに高いことから、解約料については、『平均的な損害の額を超える』部分が無効となる可能性があります(消費者契約法9条1項)。また、契約期間が長期で、解約料無しに解約できる期間がほとんどないということであれば、消費者の権利を著しく制限しているため、解約料が無効となる可能性があります(同法10条)」(岡田弁護士)
SNS上で批判が高まったことを受けて、ピーシーデポコーポレーションは8月17日、利用者の使用状況にそぐわないサービス契約が結ばれていた場合は無償で契約解除することや、新たに70代の人が加入する場合は家族の確認をとるなどの改善策を発表した。
同社の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「わたくしどものお客さまには、高齢者だけではなく、若い人などいろんな方がいます。受付の際にも契約リスクについてきちんと説明しています。また、最近の高齢者は『ITリテラシー』が高いと考えています。ビジネスも含めて理解していただきたい」と述べた。
ケンヂさんによると、同社はケンヂさんに対して「あくまで本人がiPadを使いたいと望んだからおすすめした。ただ、使用状況にそぐわなかった」と説明したという。ケンヂさんは「常識はずれとしかいいようがない」とため息をつく。「使いこなせばネットは便利だし、高齢者も安心して利用できるような世の中になってほしい」と望んでいる。
国民生活センターによると、PCサポートをめぐる同様の相談が複数寄せられているという。今年6月には、70代の男性が月々約2500円の60回払いの契約を結んで解除しようとしたところ、8万円を請求されたケースがあったそうだ。同センター担当者は「解約料が原因のトラブルでは、契約期間が3年、5年など、携帯電話と比べて長期になっている傾向がある」と述べた。
岡田弁護士は「将来的には、継続的な契約について、消費者が無条件に解除できる法整備を検討する必要が出てくるでしょう。また、特定商取引法には『特定継続的役務提供』という類型があります。たとえば、エステや語学教室などの継続的なサービスです。PCに関するサポートについても、この類型に含めることにすれば、法律で定められた以上の違約金はとれなくなります」と話していた。
(追記1)ケンヂさんは8月28日、所在不明だったiPadについて「父親の部屋で発見した」とツイッターに投稿した。弁護士ドットコムニュースの取材にケンヂさんは「間違いないと思う」と回答した(8月30日16時更新)。
(追記2)ケンヂさんが「父は認知症なので、また来るかもしれないけど、絶対に契約しないで」と念を押していたという点について、ピーシーデポコーポレーションは、弁護士ドットコムニュースに対して「当該店舗がそのように認識した事実はない」と回答した。(9月1日13時更新)
(追記3)ピーシーデポコーポレーションは、ケンヂさんが「契約を結ばされた」と主張している点についても、「契約者ご本人さまの意思で締結されたものと当社は認識している」と説明した。(9月1日13時更新)
(弁護士ドットコムニュース)