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Spotify、Apple Music、TIDAL…世界の音楽配信ここまで進んだ 各サービス現状と日本での展望

2016年08月21日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Spotify

 先日、Newspicksによって報じられた、定額配信「Spotify」日本上陸の噂。この数年、日本上陸の情報があとを絶たず、ヤキモキさせられる。そんな定額配信は、この間も世界の音楽業界を席巻し、ダウンロードを脇役へ追いやる勢いでストリーミング時代を牽引している。はたして現代の音楽好きにとって定額配信とはどんな存在なのか。この原稿では、音楽の未来を期待させる定額配信が、現在世界でどれほど先を走っているのか、そしてこれから日本では何が期待できるのかを探りたい。


(関連:いよいよ日本上陸へ Spotifyの現状と強みを改めて分析してみた


 話をアメリカに飛ばすと、この7月に一つ重要な指標が公開された。それは2016年前半で、オーディオ形式の音楽配信が動画形式の音楽配信を歴史上初めて上回ったと、調査会社のニールセンによって伝えられている。


 以前は(そして今でも)、YouTubeが音楽を楽しむ場所として決まっていた。だが調査によれば、オーディオ形式の音楽配信は、再生総数が1136億回まで上昇し、2014年に比べて108%増えているそうだ。だが動画形式の音楽配信は、再生総数が953億回、伸びは28.6%と伸び悩んだ。


 この結果は、Spotifyをはじめ、アップルが手掛ける「Apple Music」や、高音質での配信を売りにする「TIDAL」といった、昨今話題に上る定額配信が着実に市民権を得ていることを証明している。


■音楽に夢中にさせる


 Apple Musicは開始からわずか1年たらずで、有料ユーザーを1500万人以上集め、課金制の音楽ビジネスへ進路変更している。これまでiTunesストアを通じたファイル・ダウンロードで音楽を楽しむ行為に配信が加わったことで、手軽に楽しみたいライト層から、没頭したい愛好家まで、”音楽”への関心を改めて高めている。


 Apple Musicといえば、海外アーティストたちの作品の先行配信が注目を集めている。今年に入っても、ドレイクのアルバム『Views』やチャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』など、若者中心に人気の作品を配信したのだが、結果的に前者はアルバムチャート1位、後者で言えばApple Musicの配信のみでトップ10入りした初のアルバムとなり、先行配信が持つマーケティングパワーを体現し業界構造を変えている。


 今年7月には、アプリ内でしか聴けないラジオ局「Beats 1」のDJ、Ebro Dardenが六本木のJ-WAVEスタジオ内から日本のヒップホップをテーマに生放送を行ったことも、国内で注目された。配信を音楽を届けるだけに留まらず、自らも音楽を掘りファンと結びつける双方向な音楽のやり取りが、ユーザー任せにしない体験として世界レベルで始まっている。


 極端に言えば、最新音楽の登竜門としての機能を果たすApple Musicは、ストリーミング時代のMTVと呼べるかもしれない。


 日本に上陸していないサービスだが、海外でニュースのヘッドラインを度々飾る「TIDAL」。ヒップホップの世界で知らない人はいないジェイ・Zが、運営する定額配信だ。ジェイ・Zは、アーティスト以外にも、総合エンターテインメント会社「ロック・ネイション」を運営する起業家であるだけに、配信についても野心的だ。


 アーティスト目線なTIDALは、ロスレスのCD音質での配信が注目されている。HIFIスピーカー・ブランドとすでに組むなどして、オーディオ愛好家向けの配信というジャンルを開拓しつつある。


 しかしながら、TIDALでも狙いは若者層の音楽好きで、そのための”独占コンテンツ”は大きな売りだ。ビヨンセ、カニエ・ウェスト、リアーナなどの期待の新作を次々と独占で配信し続け、ビヨンセの『LEMONADE』に至っては未だに配信ではTIDALのみでしか聴くことができない。またカニエ・ウェストのファッションショーに代表されるエッジの利いたイベントの動画ライブ配信も積極的に取り組んでいる。


 アップルのブランド力には劣るが、TIDAL独自の魅力に惹かれ、ソーシャルメディアで圧倒的な影響力を持つアーティスト達が集まる。TIDALは最も的確にソーシャル時代の拡散力を体現する音楽サービスだ。今は有料ユーザーがわずか420万人だが、今後どのように定着していくか、関心があつまる。


 最後はSpotifyだ。定額配信の最大手として、有料ユーザーを3000万人以上を抱えるSpotifyで注目しておきたいのは、「プレイリスト」文化の先駆者ということだろう。


 ミックステープのようにトラックを並べるプレイリストは、各サービスがすでに導入済みで、日本でも体験した人は多いはず。Spotifyのプレイリストは、音楽として流通させようとする音楽業界の考えから一步先を進み、現実世界の中まで拡張させている。


 毎週月曜に更新される「Discover Weekly」は、Spotifyユーザーに自分に合った30曲をSpotifyが個別にセレクトしてくれる、テーラーメイドの音楽発掘ツールだ。2015年からすでに50億曲をDiscover Weekly内だけで配信している。


 月曜にアプリを開けば、毎週違った曲が用意されてる、まるで自分のテイストを熟知しているレコードショップに足を運んだような気分に浸れる、気の利いたサービスだ。


 運動好きのSpotifyユーザーは、「ランニング」プレイリストを使えば、走る速度に併せて曲のテンポが自動調整され、高揚感ある曲が次々と再生される。スマートフォンの加速度センサーを活用して音楽とテクノロジーのメリットを引き合わせたこの手法は、まさにSpotifyが提示する未来のプレイリストと言える。


 これ以外にもゲーム好きや、親子で聴くための子供向けプレイリストを用意する。プレイリストが、ただ音楽を聴くだけのリストというイメージを覆している。Spotifyのプレイリストは、今風に言えば「体験」中心で音楽とユーザーをつなぎ、音楽の聴き方のデザインを変えた。


 Apple Music以外は日本では未だに利用ができないため、その存在感を体験することはできないが、音楽好きならアーティストやメディアのニュースですでに目にすることができる。大きな分岐点となりそうなのが、今アメリカで起きているYouTubeと音楽業界の対立かもしれない。プロモーション面などでは貢献するものの、収益面でアーティストやレーベルのメリットが低いYouTubeに対する風当たりが厳しくなり、これまでの関係が崩れれば、定額配信を支持する声もアーティストたちから高まるだろう。


 日本でも定額配信への関心や普及も加速の方向に向かうかもしれない。


 日本では、定額配信の違いが分からない。機能性に差がない、とよく言われる。しかし、実際にはアプリの機能やデザインだけでは伝わらない大きな違いがあり、急速に現実世界へと進出しながら、音楽の作り手とリスナーの距離を世界レベルで縮めている。かつてカセットテープやMTVが音楽の聴き方を変えてきたように、これからApple Music、TIDAL、Spotifyが日本や世界の人々の音楽の聴き方を変えていく代表的なスタイルとなっていくとすれば、それはどれだけ現実世界とリンクできるかがカギになっていくはずだ。(ジェイ・コウガミ)