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性暴力の8割「知人から」…被害者支援の弁護士「自分を責めないで」

2016年08月20日 09:11  弁護士ドットコム

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「魂の殺人」とも呼ばれる性暴力は、被害者の身体だけではなく、心にも深い傷を残します。性暴力の加害者は、決して「見知らぬ人」ばかりではありません。レイプや強制わいせつの被害者を支援する、「NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI」の代表を務める望月晶子弁護士によると、同団体には、知人や友人など顔見知りの相手から性暴力被害を受けたという相談が多く寄せられるそうです。


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性暴力の被害に遭った場合、どうすればいいのでしょうか。また、友人や恋人が被害に遭った場合に、どう接するべきなのでしょうか。望月弁護士に聞きました。


 ●「知人や友人が加害者」という相談が8割


―—顔見知りの相手から被害を受けたというケースは、どのくらいあるのでしょうか。


TSUBOMIでは2012年の設立以来、約1500人から相談を受けていますが、加害者が、知人や友人、会社の関係者だったというケースは8割にのぼります。レイプをされたという相談が一番多く、その次に多いのが、無理やり身体を触られたなどの強制わいせつです。


見知らぬ人から突然襲われたケースより、知人から被害を受けたケースのほうが、警察に行かずに泣き寝入りしたり、自分で加害者と話し合って解決しようとする人が多いようです。知人の場合、周囲の人との関係にまで影響が及ばないよう、「自分さえ我慢すれば今までの生活が何事もなかったかのように続く」と気持ちを押し殺す人もいます。


―—自分にも落ち度があったと責めてしまう人もいるのでしょうか。


そうですね。被害の発生場所としては、加害者の家や(被害者の)自宅が多いので、「部屋に上がらなければよかったんだ」「一緒にお酒を飲んだ私にも非がある」と、自分を責めてしまう人が少なくありません。


TSUBOMIに寄せられる相談は9割が女性からですが、男性からの相談も1割あります。男性は、女性以上に被害に遭ったことを相談しにくいです。「言っても信じてもらえない」と諦めてしまったり、「男は強いのだから抵抗できたはずだ」という世間のイメージから、「強いはずなのに襲われるなんて、男らしくない。ダメな人間だ」と、やはり自分を責めてしまうのです。


しかし悪いのは、望まない行為を強いた加害者です。被害者に非はありません。「私にも悪いところがあった」等と自分を責めたり、決してしないでください。


 ●被害後は72時間以内に産婦人科へ


―—性暴力の被害に遭った場合、まずどうすればいいのでしょうか。


可能であればまず産婦人科を受診してほしいです。レイプの場合は、妊娠のリスクを避けるためにも、できれば被害から72時間以内に受診して、緊急避妊薬(アフターピル)を服用してください。産婦人科を受診することで、性病などの早期発見・早期治療にもつながります。


TSUBOMIでは医療行為やカウンセリングは行っていませんが、被害について話を聞くことはできますし、提携している医療機関などを紹介することもできます。また今は、「ワンストップ支援センター」という性暴力被害者のためのセンターもあります。医療や司法など諸々のサービスが1ヵ所に集まっているので、お近くにセンターがあれば、連絡するとよいと思います。


ただ、被害に遭った直後はショックに打ちのめされていて、病院や警察に行く、加害者を訴えるなど、積極的に何かをしたいという気持ちがなかなか湧きません。


ショックの現れ方は、眠れない、食べられない、家から出られないなど人によって様々です。一見、何事も起きなかったかのように振る舞う人もいますが、実は本人にはものすごく大きな負荷がかかっています。TSUBOMIには、10年以上も前に被害に遭った人から、「今でも被害を忘れられない」と、相談が寄せられることもあります。


―—被害からある程度時間が経ち、気持ちが落ち着いた後に、「加害者を訴えたい」と相談に来る人もいるのでしょうか。


はい。時間が経てば経つほど証拠がなくなるので、被害の立証は難しくなりますが、訴えることで相手が犯行を認めるケースもあります。まずは弁護士に相談していただいて、何かできることを一緒に探していければと思います。


 ●被害者には今までと変わりなく接して


―—もし、友人や恋人など身近な人が被害に遭った場合、どのように接するべきでしょうか。


できるだけ普通に、今までと変わりなく接することが大切です。いつでも話して大丈夫だよ、という姿勢も示すといいでしょう。ただし、話を聞く際は、被害者が話したこと以上に根掘り葉掘り質問することは避けてください。


難しいのは、恋人が被害に遭った場合の接し方ですね。彼氏としては、自分の彼女にひどいことをした加害者への怒りが膨らむあまり、「警察に行って相手を訴えよう!」などと強く言ってしまいがちです。


本来ならばできるだけ早く警察や病院に行かれるとよいのですが、被害を受けた本人としては、「そっとしておいてほしい」と思っていることが少なくありません。なかなか行動を起こさない彼女に対して、彼氏が「なぜ何もしようとしないんだ」と戸惑うことで2人の関係がぎくしゃくし、被害者にさらにダメージを与える可能性も考えられます。


被害者の話や今の状況を聞いて、もしくは、話したくないようであれば無理に聞き出そうとせず、そっとしておくことが何よりも大切だと思います。




【取材協力弁護士】
望月 晶子(もちづき・あきこ)弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業後、大手総合商社勤務の後、平成12年弁護士登録。多くの犯罪被害者を支援した経験から、性暴力被害者に対し、医療、心理、福祉等の総合的サポートを提供したいと、2012年にNPOレイプクライシスセンターTSUBOMIを設立して活動している。

事務所名:諏訪坂法律事務所
事務所URL:http://suwazaka-law.tokyo