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欅坂46、山形弁の長沢菜々香と翻訳係の米谷奈々未 『徳山大五郎』の見逃せない個性

2016年08月20日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)「徳山大五郎を誰が殺したか?」製作委員会

 『徳山大五郎を誰が殺したか?』の第3話のコラムでは尾関梨香と鈴本美愉の視覚的なコメディ演技に注目したが(参照:http://realsound.jp/movie/2016/08/post-2412.html)、〝ミステリー&コメディ〟と銘打っているドラマだけに、まだまだコメディリリーフは存在する。それは、劇中で山形弁を繰り出す長沢菜々香と、その翻訳係を務める米谷奈々未のコンビだ。先週放送された第5話では、台詞まわしで場を和ませる役目を担っている二人が印象的に映し出された。


 この第5話で、物語は次の段階へ進む。これまで意味深な登場シーンしかなかった長濱ねるが、ついにクラス全員の前に現れたのだ。教室内唯一の不在者であったために、徳山殺しの犯人として、さらには徳山の不倫相手としても疑いをかけられていた長濱ねる。彼女の登校によって、クラスの調和が徐々に乱されていくのである。第4話のラストで、教室のエアコンの隙間から、徳山が仕掛けたと思しきカメラを見つけた平手友梨奈。そこに映っていたのは、事件発生の朝、長濱ねるが教室で徳山と会っていた姿だった。


 事件から4日目が経った朝、教室のエアコンが壊れ、異臭が漂い始める徳山の遺体。消臭剤を置こうと平手がロッカーを開けると、中から長濱ねるが出てきたのだ。この何とも言えないシュールな登場の仕方はさておき、美術の授業でデッサンのモデルをやることになった長濱を教室の中央に据えて、全員がそれを取り囲むように尋問していく〝魔女裁判〟シーンはお見事である。


 前回の記事(参照:http://realsound.jp/movie/2016/08/post-2466.html)で、各グループの位置関係を解説したが、例によって〝魔女裁判〟の口火を切ったのはクラスのリーダー格である守屋茜であった。守屋たちのグループが先陣を切って攻撃を始めると、それぞれのグループが特徴的な行動を始める。守屋グループの織田奈那は眼鏡をかけて探偵モードに入り、渡邊理佐のグループは身体検査を提案する。中立派の佐藤詩織は「証拠も無しに疑うのはよくない!」と言い出し、当事者の長濱ねるから白けた目で見られる。そしてクラス委員の菅井友香は「私は最初から警察に通報したほうがいいと思ってた」と言い始め、守屋のグループと衝突する。


 序盤で織田が菅井を呼び止めて、徳山を剥製にしたらどうか、というジョーク交じりのやり取りも、このグループの犬猿の仲を象徴しているように思える。終盤には長濱ねるの提案によって徳山を埋めることに真っ先に賛成する菅井に、彼女のグループの面々と平手は違和感を覚えるのだ。菅井に何か秘密が隠されているということだろう。それは第7話で描かれそうなのでそこまで待つとしよう。


 今回のメインプロットとしては、フランス人の特別講師ノエル(ル・ギャル・アルノ)が美術の授業に訪れ、授業の最中にノエルが教室を出た隙に長濱ねるへの裁判が行われる。もちろん、今回は長濱ねるの怪演を楽しむ回でもあるが、やはり第1話から際立った存在であった長沢と米谷のコンビがようやく活かされた回でもあると忘れてはならない。


 常に長沢の横には米谷がいて、山形弁を翻訳して他のクラスメイトに伝えるわけだが、今回の序盤ではついに同じグループに属している上村莉奈も山形弁の解読に成功する。そんなユーモラスなやりとりから始まり、その後にはフランス語で話すノエルを見た土生瑞穂が、長沢に何と言っているのか訊ねる場面も登場する。長沢は「わがんね。おら山形弁、こいつフランス語」と返すのを見ると、ふと去年話題になった、フランス語に聞こえる方言を取り上げた宮崎県小林市の広報映像を思い出してしまった。日本語しかわからないと特徴的な方言もフランス語も同じように聞こえてしまうのだろうか。


 長濱への裁判の最中、教室に戻ってきたノエルが全員のデッサンが進んでいないことに怒る場面で、突然米谷が流暢なフランス語で会話するところは、前述の土生と長沢のやり取りや、これまでの米谷と長沢の関係を踏まえるとなかなか面白みのある場面だ。米谷のキャラクターといえば、第1話では池上彰の番組で得た知識を披露したり、第4話の進路希望調査で東大を志望するなど、クラス一の秀才として描かれてきたわけで、今回さらなる肉付けがされたのだ。


 しかし、『欅って、書けない?』を見ていても、長沢は少し訛りがある程度で、ここまでコテコテの山形弁ではないし、米谷も地味な優等生キャラとは程遠い。この二人は他のメンバー以上に、素顔と同じでも正反対でもなく、持ち前の個性を増幅させたキャラクターを与えられているのではないだろうか。それをきちんと、かつドラマ全体の雰囲気を整えるように演じられるというのは、見逃してはならない才能の持ち主だろう。(久保田和馬)