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メルセデスが恐れる“下克上” その歴史を振り返る

2016年08月19日 18:21  AUTOSPORT web

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2016年F1第10戦イギリスGP 優勝を飾ったルイス・ハミルトン
メルセデス・モータースポーツのボス、トト・ウォルフは、2017年に向けてライバルチームのどこかが「特効薬」を発見することを警戒しているという。彼が恐れているのは、過去の例で言えば、2009年シーズンにブラウンGPが持ち込んだダブルディフューザーのようなアイデアだ。

 来年から、幅の広い前後ウイングやワイドなタイヤの導入を始めとしてルールが大きく変わり、コーナリングスピードとラップタイムは劇的に向上するものと予想されている。このような時期には、チーム間の序列がそれまでとは変わる可能性があり、2位以下のチームにとってはチャンスと言える。

 ブラウンGPは、2009年にいわゆるダブルディフューザーを開発してシーズンを席巻し、ドライバーズ、コンストラクターズの両選手権を制した後、チームをメルセデスに売却した。

「レギュレーション変更は、すべてのチームに平等な機会を提供し、誰も予想しなかったような開発アイテムが生まれる可能性がある」とウォルフは言う。 

「基本的にF1に『特効薬』はないと思っているが、2009年には実際にそうした例があった。ブラウンGPが、他のチームは気づか
なかったアイデアを持ち込み、それを見事に機能させて選手権をリードしたんだ。したがって、来季のクルマの開発では、大事なことを見逃さないように、きわめて慎重にことを進める必要がある」

 2014年に施行されたレギュレーション変更では、それまでのレッドブルに代わって、メルセデスが選手権の支配的勢力となった。その後、メルセデスは2年連続でドライバーズとコンストラクターズのダブルタイトルを獲得し、今年も3連覇に向けて着実に歩を進めている。

 メルセデスが、新しいエンジン規定に最もうまく対応して迎えた2014年シーズンと比べて、来季のルール変更は「また違ったチャレンジになるだろう」と、ウォルフは述べた。

「2014年もきわめて難しいチャレンジではあった。白紙の状態からエンジンの開発を始めながら、ライバルをリードする必要があったからで、幸いなことに私たちはそれをやり遂げた。2017年には、エンジンの性能をさらに高める必要があると同時に、シャシーの変化にも対応しなければならず、少し違った形のチャレンジになる。そこにはチャンスとリスクの両方がある」

「私の知る限り、ルール変更を経たあとも、前年までの支配的な地位を維持できたチームは、過去にひとつもなかった。私たちとしては、とにかく競争力を維持することが最大の目標だ」

 ではここで、過去のルール変更で優位を誇ってきたチームが転落した例を、簡単に振り返ってみよう。


1994年:ウイリアムズが1992年から93年にかけて完成させた、電子制御の「ドライバーエイド」が禁止され、ミハエル・シューマッハーとベネトンがウイリアムズの3年連続ダブルタイトル獲得を阻止した。ウイリアムズは何とかコンストラクターズ選手権を防衛したが、それはベネトンの2台目が年間でわずか11ポイントしか獲れなかったことによるところが大きい。


2005年:この年からピットストップでのタイヤ交換が禁止され、前年まで無敵だったフェラーリ/ブリヂストンのコンビが大きくつまずいた。選手権王者のシューマッハーはついに1勝しかあげられず、それもミシュラン勢が撤退し、わずか6台で争われたインディアナポリスでのアメリカGPでの「勝利」だった。この年、ミシュランを履くルノーのフェルナンド・アロンソが、初の世界タイトルを獲得した。


2009年:ほぼ独占的な「二強」として、2007~08年のタイトル争いを繰り広げてきたマクラーレンとフェラーリが、ダブルディフューザーを擁したブラウンとそれを追うレッドブルに取って代わられた。前年までのトップ2は、ブラウン、レッドブルに大きく引き離されて、3位と4位でコンストラクターズ選手権を終えた。


2014年:4年連続で選手権を制覇してきたセバスチャン・ベッテルとレッドブルが、王座から転落した。彼らにエンジンを供給するルノーが、新エンジン規定への対応で遅れを取ったためだった。この年、彼らを出し抜いてシーズンを支配したメルセデスは、それから2年半を経た現在もフィールドの頂点に君臨している。