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F1チームの前半戦 開発アプローチ(2):ハイペースで改良を続けるマクラーレン

2016年08月19日 11:21  AUTOSPORT web

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フェルナンド・アロンソ
F1の開発競争は、例年とは少し違った状況の中で夏休みを迎えている。どのチームも、今年のクルマの開発の継続と、大幅にルールが変わる2017年に向けての作業のバランスを見極めようと腐心しているからだ。空力依存度の高いシルバーストンでのレースと、その直後のテストセッションでは、これに関する各チームのアプローチのヒントが、数多く見られた。誰もがリソースを限界まで使いきっているこの時期に、どのチームがどんなことに取り組んでいたかをまとめてみた。

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■マクラーレン:エンジンまわりのパッケージングを改善
 2015年のF1復帰以来、ホンダはマクラーレンの「サイズゼロ」コンセプトにより、極度にタイトなエンジンのパッケージングを強いられてきた。特にインレットシステムは、その下にターボを収めるために取り付け位置を上げたいのだが、空力的に有利なボディラインを実現するにはできるだけ下げたい、という板挟みにあっていた。そして、そのように矛盾した要求を満たすために、ホンダは吸気チャンバー内の吸気管を90度曲げるという設計を選択し、これがエンジンの性能に悪影響を及ぼしていたのだ。

 だが、現在はこの吸気チャンバーが当初よりも背の高いものになり、内部空間が広がった結果、吸気管も直線的な形状にすることができ、吸入空気の流れが改善されている。さらに、チャンバーの形状も変わって、シーズン後半戦でより大型のターボとMGU-Hを導入できるようになっている。そうすれば、パワーと信頼性の両面で、一層の進歩が期待できることは言うまでもない。

 シャシーに関しては、相変わらずのハイペースで、空力関係の開発部品が投入され続けている。最近では、フロントウイング、Tトレイのスプリッター、フロントブレーキダクト、リヤタイヤ付近のフロアのスロット、ディフューザーなどが、改良または追加された。




■フォース・インディア:総じて成功だったアップグレードの弱点を修正
 大規模なアップデートを投入してペースが向上したあと、フォース・インディアはタイヤマネージメントに苦しみ始めた。この問題を解決するため、彼らはリヤサスペンションを旧仕様に戻してみたが、シルバーストンテストでは天候が安定せず、問題が解消されたかどうかをしっかり確認するには至らなかった。

 また、彼らはフロントウイングにも手を加えてきた。ただし、完全に新しいウイングではなく、エレメントの一部を変えた程度の変更だ。シーズンも半ばを過ぎたこの段階では、今年のマシンのために完全に新しいウイングを開発して製作するよりも、既存のウイングの小規模な変更にとどめておくほうが、リソースの活用という観点からも効率的で賢明と言える。

 その具体的な変更点は、エンドプレートから外側へ伸びる「フットプレート」の幅が少し広がり、外縁が急激に下向きに下げられたことだ。




■トロロッソ:クーリングに関する新たなトライ

 トロロッソはシルバーストンのテストで、新しいクーリングのセットアップを試した。エンジンカバー上部を新しく作り直し、ふたつのインレットを新設して、ロールフープよりもやや後方からギヤボックスの上にあるクーラーに空気を導くようにしたのだ。

 これは今後のレース全般に向けた開発かもしれないが、最も可能性が高いのは、10月のメキシコGPへの準備だろう。同地ではサーキットの標高が高く、空気が薄いため、低地でのレースよりも大きな冷却能力が必要とされる。

■ルノー:2017年に向けたデータ収集
 すでに2016年のマシンの開発を停止したルノーにとって、シルバーストンテストは、17年に向けての準備として実車に各種のセンサーを積んで走らせ、データを収集する絶好の機会になった。そうしたなかでも、特に目立ったのが、前後のアクスルのホイールに取り付けられたセンサーだ。これらのセンサーは、各タイヤの後方を通る細い棒状のサポートで支持され、シャシーにつながっていた。

 これは「ホイールフォースセンサー」と呼ばれ、シャシー内のスプリングやダンパーの動きから間接的に荷重状態を知るのではなく、ホイール自体に実際にかかっている外力を計測するものだ。

 このセンサーからのデータは様々な形で利用されるが、たとえば、サスペンション・システムの中に剛性の足りない部品が存在するかどうかを確かめることもできる。ホイールに加わっている力と、サスペンションの動きにズレがあれば、サスペンションのどこかが「たわんでいる」ことになるからだ。

 また、このようなテストで得られたデータは、チームがシミュレーションで使用するタイヤの数値モデルを作るのにも役立つ。タイヤの数値モデルが正確であれば、クルマのコース上での挙動も、より正確に予測できるのだ。


■ザウバー:ようやく空力開発レースでの追撃を開始
 ザウバーは開幕からシーズン半ばに至るまで、アップデートらしいことがほとんど何もできなかった。よって、彼らがシルバーストンに新しいリヤウイングを持ち込んだことは、歓迎すべきニュースだった。

 それまで彼らは、「ハイブリッド型」のマウントパイロンで支持された、古いリヤウイングを使っていた。フェラーリ製ギヤボックスの1つのマウントに固定されたパイロンが、その先で2本に分かれ、旧型リヤウイングの2つのマウントにつながっていたのだ。しかし、新しいウイングでは上から下まで1本のピラーとなり、運動性能に及ぼす影響が大きいリヤエンドの重量を軽減している。

 新型リヤウイングのエンドプレートは、トロロッソやマクラーレンの路線に追従したものだ。上部のルーバーはトロロッソやメルセデスと同じように前端が開放されたタイプだが、そのルーバーのスロットがずっと後方まで伸びて、フラップまで達している。これはドラッグを軽減する効果をさらに高めようとしたものだろう。

 また、エンドプレートのウイングメインプレーンより下には、マクラーレンのものと似たエアインレットがいくつか成形されている。その狙いは、リヤウイングの下面に空気を流し込み、翼端部に発生する渦とドラッグを減らすことにある。


 この新しいリヤウイングは、おそらくシーズン開幕前から計画されていたものだが、ザウバーが直面していた資金難のため、製作が遅れていた。正式にチーム買収が完了したことで、こうした状況も変わることを期待したい。

 2017年に備えた作業として、彼らはモノコック上面に3Dプリンターで製作したトップカバーを取り付けてのテスト走行も行った。これは2017年のシャシーの形状を模したものと思われ、シャシー上面の高さを規定の上限まで上げ、その先がノーズ先端に向けて急激に下がる形状になっている。つまり、見た目には、現在多くのチームが採用している形に近いものであり、ザウバーがこのあたりの形状に関して、ルールの限界まで攻めきっていなかったことをうかがわせる。