近年、モータースポーツ界において多くのドライバーやチームが愛用するギアブランドがある。それは、サッカーや陸上など他のスポーツでもおなじみのブランド、プーマだ。1990年代後半からモータースポーツに参入しメキメキとシェアを拡大。いまや日本を含め多くのチームが愛用しているが、そんなプーマ・モータースポーツのセールス部門の実質的なトップである、『レースウェア・シニアセールスマネージャー』を務めているブルーノ・ヴァリエンティが日本のモータースポーツマーケットのリサーチとスーパーGT第5戦富士を訪れるために来日したので、彼に話を聞くことができた。
今回は、レーシングギアのなかで“最も重要なものは何か”について聞いた。
■レーシングギアのなかで最も重要なのは……
こうしてモータースポーツ界にそのブランドが浸透することになったプーマだが、かれこれ23年間もレーシングギアに関わるブルーノに、“道具”においていったい何が重要なのかという質問をぶつけてみた。
「アクセルワークにダイレクトに関わるから、レーシングシューズが最も重要であり、ドライバーごとのカスタマイズが大事だ」とブルーノは教えてくれた。
「しかし、自らのニーズをきちんと伝えることができる選手はあまり多くないんだ。フィードバックができないドライバーのシューズをカスタムすることは、しゃべることのできない動物を相手にする獣医のように困難だよ(笑)」
「自らの要望をきちんと伝えられる最たる例は、ミハエル・シューマッハーだ。彼は自分のシューズに関する思い入れが深かった。他人に自分のニーズを伝えることも本当にうまかったんだ。それとは対照的に、彼のチームメイトだったルーベンス・バリチェロはただ単に『問題がある』としか言わず、何がいけないかを言ってこなかったんだが、シューマッハーのフィードバックを活かしたところ問題が解決したくらいだ」
■道具へのこだわり=クルマへのこだわり
そして、ブルーノがシューズの次に挙げるのがレーシンググローブだ。
「ステアリングを直接握るものであるためフィッティングが重要で、それに対してドライバーは敏感になる。また、ヘルメットの下に着用するバラクラバは顔という神経が密集している部分に接触するため、不快感につながりやすい」
「最近のF1では、無線のマイクの設置やドリンクチューブの関係から、バラクラバに対する技術的要求が高まっているんだ。マイク用のポケットを作ったり、高精度のマイクを設置するためポジショニングに気を配ったり、また不快感を低減するためにより薄く、縫い目を目立ちにくくしたりしている。ただ、構造上縫い目をなくすことはできないので、そこが技術開発を進めていく上での至上命題だ。また、快適性にはアイテムの素材も関わってくる」
「総じて言えることは、レーシングギアのフィードバックが優れているドライバーは、マシンのフィードバックにも長けている。このフィードバックのスキルはチームに所属する人間としては必須の能力で、マシンの調子が悪い理由が自分で分析できる人間は、改善点をチームに伝えることができるから、レースの結果が変わってくるんだ」
「それと同じことが道具にも言えて、シューズの履き心地が悪い理由を伝えてくれれば、より良いものを提供できるため、結果につながってくる。それができていたのがシューマッハーだったんだよ」