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内田彩が順調に階段を駆け上がる理由 武道館ライブで見せた“第1章”の集大成

2016年08月18日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『AYA UCHIDA Complete LIVE ~COLORS~』の一場面(写真=草刈雅之)

 声優・内田彩が8月13日、東京・日本武道館で行なったワンマンライブ『AYA UCHIDA Complete LIVE ~COLORS~』は、彼女にとっての“第1章”が完結したともいえるステージだった。


 内田はデビューから約1年半で4枚のアルバムをリリースし、2年に満たない月日で武道館のステージへと立った。このスピード感は声優アーティストとして極めて異例である。ではなぜ内田はここまで順調に階段を上ることができたのか。今回の集大成的ライブには、その回答とも言える要素が散りばめられていたように思う。


 序盤は快活な楽曲で会場のテンションを上げていくーーと予想していたライブ冒頭は、彼女が板付きで「妄想ストーリーテラー」を切なく歌いあげる、という感動的な展開に覆された。そこから「Floating Heart」「Party Hour Surprise!」や「キックとパンチどっちがいい?」とエレクトロ・ポップ~ミュージカル調の楽曲が続く展開に。かと思えば、「夏らしい曲」と銘打ったパートでは、バンドサウンドで「Let it shine」や「最後の花火」を爽やかに歌い上げる。MCでは「武道館の上の玉ねぎあるじゃん? これ、球根じゃないかなって。ここから芽がでるものの象徴に見えてならないのです」と、これまで木々や花の萌芽や開花をテーマにしてきたことを踏まえ「この武道館のてっぺんから新しい芽が発芽できれば」とこの日の意気込みを口にした。


 続けて「へらへらしてるだけがうっちーじゃないんだぞ!」と宣言したパートでは「afraid…」のイントロでセットが回転し、これまで姿を見せずに演奏していた東タカゴー(Gt.)、黒須克彦(Ba.)、宮崎京一(Gt.)、櫻田泰啓(Key.)、SHiN(Dr.)が登場。「シリアス」などのロックナンバーを披露し、内田はパフォーマンスで時折セクシーな一面を覗かせた。


 その後、内田は「声優は役がないと名乗れないでしょ? でもソロデビューして歌うことは、聴いてくれるみんながいると成り立んだなあって」と、全国ツアーやファンへの感謝、30歳になったことへの思いを伝えて「ハルカカナタ」を歌唱。続けてバンドセットでは初めてとなる「ピンク・マゼンダ」を披露し、改めて彼女の楽曲に奥行きがあること、その歌声がバンドに負けない力強さを持つことを証明してくれた。


 ライブは後半に突入すると、セットがベッドルーム風に変化した「Sweet Dreamer」でドリーミーな雰囲気を作り出したり、ハードロック調の「絶望アンバランス」ではバンドメンバーがステージを縦横に駆け回ったりと、より幅広い世界観を演出。合間では、内田の計らいでバンドメンバーによるMCが行なわれ、いかに彼らが内田との信頼関係を築いているかが伝わってくる雰囲気がステージ上に漂った。


 そして、ミント色の衣装に着替えた内田とともに、ライブはラストスパートへ突入。トロッコに乗って客席のファン一人ひとりに笑顔を振りまいた「ドーナツ」、センターステージが2階席の高さまでせり上がり、大歓声が巻き起こった「Go! My Cruising」、バンドメンバーが全力の演奏で盛り上げ、この日最もエモーショナルなパフォーマンスを見せてくれた「Blooming!」では、内田が<めぐりめぐっているこの星に少女や少年がいる>の<この星>を<武道館>に、<夢でもファンタジーでも 大人になっても枯らせたくないよ>の後ろを「大人になってもいつまでも、忘れたくないよー!」と強いメッセージに変えて熱く歌い上げた。


 ここで、内田から1stシングルについてのアナウンスが行なわれ、「ディレクターさんから、私のソロ活動で一番印象に残っているのは『笑顔』だねって、『内田さんいつも笑顔だから、ライブにも作品にも笑顔が溢れてるよね』と言われて」と、次作は笑顔をテーマにした作品であることが明かされた。続けて、内田は「ハイスピードで走ってきた私の背中を見守ってくれて、付いてきてくれて、こうしてたくさんの笑顔を返してくれてありがとうございます!」とファンへの感謝を口にし、彼女の“始まり”である「アップルミント」を熱唱した。


 バンドメンバーが内田を残してステージを後にすると、彼女は「みんなが思っている以上に曲を聴いて好きになってくれて、声優・内田彩とは別に、歌う人・内田彩としてやってこれた」と述べ、「日本武道館なんて大きな会場でライブをするのは……夢? 目標? にしてなかったけど、やっぱり一生懸命楽しいことをしていると不思議な気持ちになるの。そんな時間を生み出すのって、人と人とのふれあいや、ここにいるあなたたちのおかげです!」と叫んだ。その後、「コンプリートに欠かせないのは“みんな”なので、最後にこの曲をやります」と、ファンに捧げるラストナンバー「with you」を歌い上げ、ライブが終了した。


 34曲を様々な演出で駆け抜けるように披露し、“今の内田彩”をしっかりとファンの目に刻みつけたこの日のライブ。楽曲やスタッフに恵まれ、ファンに恵まれ、バンドメンバーに恵まれるのは、それぞれが内田の『笑顔』に引き寄せられているからではないか。ステージの上を楽しそうに走り回る彼女を見て、そんなことを考えてしまった一夜だった。(中村拓海)