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F1チームの前半戦開発アプローチ(1):メルセデスはエアロ・冷却がさらに進化

2016年08月18日 13:51  AUTOSPORT web

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2016年F1第11戦ハンガリーGP ルイス・ハミルトン
F1の開発競争は、例年とは少し違った状況の中で夏休みを迎えている。どのチームも、今年のクルマの開発の継続と、大幅にルールが変わる2017年に向けての作業のバランスを見極めようと腐心しているからだ。空力依存度の高いシルバーストンでのレースと、その直後のテストセッションでは、これに関する各チームのアプローチのヒントが、数多く見られた。誰もがリソースを限界まで使いきっているこの時期に、どのチームがどんなことに取り組んでいたかをまとめてみた。

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■メルセデス:エアロとERSの冷却に重点

 メルセデスの最新仕様のリヤウイングは、トロロッソが開幕から採用しているコンセプトに追従したもので、外観上の特徴はエンドプレート前側にあるドラッグ軽減用のルーバーだ。

 これをさらに進化させて、メルセデスはルーバー前端が閉じておらず、翼端板外側に4つのストレーキを追加したものを持ち込んできた。ルーバーを「オープン」にしたのは、エンドプレート前端で気流が分かれてしまうのを防ぐことで、小さなゲインを狙ったものと思われる。


 また、彼らは例の複雑な形状のバージボードの改良も続けている。シルバーストンでは、ベーンの枚数が減らされるいっぽうで、形状はさらに手の込んだものになり、ベーンの間のフロア前端にスロットを設けて、アンダーフロアの空力効果を高めようとしていた。

 ディフューザー周辺に手が加えられたのも、このフロア前端の改良と関連したものかもしれない。リヤまわりでは、クラッシャブルストラクチャーの下のセンターフラップと、ディフューザーの外縁部の形状が変更されている。


 エンジンカバー後部のバルジが変わったのは、メルセデスが昨年と同様に、シーズン途中でERSの冷却の改善を試みたことを意味している。このバルジの中には、ギヤボックスの上にマウントされたERS冷却用の放熱器がある。つまり、放熱器のサイズが大きくなったために、ボディワークの形状変更が必要になったのだ。

 ERSをよく冷やしてやれば、信頼性が高まるだけでなく、エネルギー回生能力も高まる。また、熱の発生によって、効率が低いハーベスティングモードへの切り替えを強いられるような状況も生じにくくなるだろう。

 サイドポット全体の形状もわずかに変わっており、「脇腹」部分の傾斜を深くして、コークボトルエリアをさらにスリムに絞り込んできたようだ。


■フェラーリ:2017年向けの開発を応用か?
 フェラーリの最近のアップデートは、メルセデスほど全般的なものではなく、フロントウイングにこれまでと違うパーツを追加したり、シャシー下面に新しいフィンを加えたりした程度にとどまっている。


 好奇心をそそるのは、このシャシー下面に設けられた新しいフィンだ。これはスプリッターの上方、モノコック底面が高く持ち上げられている部分に追加された、ごく小さなベーンである。

 その基本的な機能は、それよりも少し前方のフロントサスペンションの下にある、ターニングベーンと同じだろう。つまり、フィンの下流の空気の流れをコントロールして、フロントタイヤの後流が車体中央のボディワークのほうに流れないようにすることだ。

 なぜこれが興味深いかと言えば、2017年のルールでは、この領域のデザインの自由度が現在よりも高くなるからだ。要するに、フェラーリは来年用に考えている開発部品のうち、いくつかは今年のクルマにも使えることに気付いたのかもしれない。


 フロントウイングの両端部も、ややアグレッシブさを増した形状になっている。ただ、その違いはほんのわずかで、新旧2つの仕様のフロントウイングを並べて見ない限り、なかなか気づかないかもしれない。

 具体的に何が変わったかと言えば、ウイングの外寄りにあるアーチ状(前方から見て)の部分の形状だ。これが以前より高くなり、かつ丸みを帯びたのである。とはいえ、それでもまだメルセデスの同じ部分にある矩形のアーチと比べると、相対的には小さい。

 このアーチの目的は、ウイング下面で強い渦流を発生させて、フロントタイヤ周辺の気流を外側へ導くことにある。

 ウイングの形状以外では、エンドプレートにも変更が加えられた。これもまた微妙な違いではあるが、垂直なベーンのアンダーカットが大きくなり、そのベーンの外側にストレーキが追加されている。

■レッドブル:ハロの空力的影響を測定
 レッドブルの成績は確実に上向いているが、不思議なことに、RB12には明らかにそれとわかるような開発の形跡が見られない。イギリスGP後のインシーズンテストで、レッドブルは初めてコクピット保護デバイス「ハロ」を試す機会を与えられた。



 このテストランのために、レッドブルはクルマにいくつかの空力センサーを取り付けた。なかでも最も興味深かったのは、エアボックス下のインレットに取り付けられたセンサーだ。レッドブルは、現在このロールフープ下のエリアに、ERS冷却用のエアインレットを配置している。このインレット部分のセンサーで、彼らはハロが発生する気流の乱れのマッピングを行っていたのだ。

 ハロによって乱流が起き、エアインレットに入る空気の量が減ってしまうとすれば、エンジンの性能とシステムの冷却にも確実に影響を及ぼす。チームにとっては、デザイン上の大きな課題のひとつになるだろう(注:このテストのあと、ハロの導入は2018年に先送りされた)。

■ウイリアムズ:タイヤの変形をレーザーで計測
 シルバーストンのテストで、ウイリアムズはリヤタイヤの様子を調べることを目的として、リヤウイングのエンドプレートにテスト器具を取り付けてきた。これはタイヤのサイドウォールに向けて、水平に緑色の光の線を当てるレーザー光の発生装置と、その光の線の形の変化をとらえる2つのカメラユニットで構成されている。つまり、彼らは走行中にタイヤがどう変形するかをとらえて、記録しようとしていたのだ。




 タイヤの形状は、クルマ全体のエアロダイナミクスに意外に大きな影響を及ぼす。また、タイヤとフロア、リヤブレーキダクト、ウイングエンドプレートなどとの隙間も、タイヤの変形量と変形のしかたに応じて決める必要がある。


 そして、テスト終盤には、以前にバルセロナ・テストでも使用した大型リヤウイングをマシンに取り付けて走らせた。これは2016年のレギュレーションには合致せず、17年のリヤウイングの試作品でもない。その目的は、単純に取り付けやすいに位置にウイングを追加して、来年の大きなディフューザーとリヤウイングが発生するダウンフォースをシミュレートすることにある。