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大阪のカフェで出会う、思いある一皿のお話

2016年08月17日 00:02  オズモール

オズモール

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旅をして、日本各地の作り手に出会い、私たちに手渡していく――。“料理開拓人”として、さまざまなアプローチで食の尊さを伝える堀田裕介さんが生み出した、大阪の2つのカフェ。食材の作り手と生活者をつなぐ拠点である「foodscape!」に続く新展開として、今年4月にオープンしたのが北欧スタイルの「smorrebrod(スモーブロー) kitchen nakanoshima」。この場所から、食の未来がまた広がっていきます





















店内はすべて窓際の席で、外の景色もフォトジェニック。レモンウォーター、デトックスウォーター/淡路島の食材と器を使ったフェア中のメニュー。湯引きハモ、ビーツのヴァリエ、黒オリーブパウダーのスモーブロー1600円。食材の独創的な組み合わせと美しい盛り付けがアートのよう 


◆明治37年築のレトロな建物で 朝から滋味あふれるひと皿を



大阪の中でも落ち着いた“大人のエリア”と言われる中之島。smorrebrod kitchen nakanoshimaは、この街の歴史的建造物として知られる中之島図書館の2階にある。緑が見える窓から柔らかな光が差し込み、都会とは思えないゆるやかな時間が流れている。

スモーブローはデンマークの伝統食であるオープンサンドのこと。西日本で初の専門店になるという目新しさに加え、素材をシンプルに調理する北欧スタイルが、食材そのものの味わいを大切にする堀田さんの考えにフィットした。

「ここは図書館の知名度もあって、年配の方も多く来てくれますし、近隣にホテルがあるので海外の方の姿も見かけます。1年前にオープンしたfoodscape!が生活に密着した日常の店なら、smorrebrod kitchenは旅行客も含めて、非日常的な時間が過ごせる特別な店という感じですね」

パリで経験を積んだシェフ葭谷真輝さんと堀田さんが共同で考案するメニューは、全部で20種類ほど。foodscape!のパンの上に、淡路島や大阪・泉佐野、滋賀・長浜、福岡・田川郡、京都・大山崎など…日本各地の色とりどりの食材が盛り付けられ、アート作品さながらの美しさ。旬の野菜をはじめとする食材のみずみずしい味わいを、foodscape!同様に「産地の風景」としても堪能できる。














朝食で人気のスモーブローの3種盛り。食事系とデザート系を組み合わせたチョイスがおすすめ/夏以降、カフェの入る図書館の敷地で野菜作りを始める予定。畑を作りたくてスタッフになった女性もいるそう/デンマークの革新的なレストラン「noma」の本が堀田さんの愛読書。食材にとことん向き合った独創性豊かな料理に影響を受けている


◆各地の生産者や店のスタッフと 新たな食材を作り上げる



スモーブローキッチンのメニューに「シャークフライ」の文字が。「サメって食べられるんですよ」と堀田さん。実際、クセがなく、弾力のある白身魚のような味わいでおいしい。サメは水揚げから日が経つと生臭くなるため、食材としてほとんど流通しないものだったとか。それを堀田さんは、淡路島の水産加工の企業と協力して食材にする技術を見つけたのだという。

「地方に行くと、たくさん獲れるのに食材にできないものが結構あるんです。こういうものでも、加工技術や調理法、見せ方次第で、みんなが欲しがるような食べ物になる。ただ料理を作るだけでなく、新しい食材を作って流通までのせることを仕掛けていきたいと思っています」

流通の出口としてお客さんに食材を直接提案できるという点でも、ふたつのお店は大きな意味を持っている。そしてもうひとつ、食材作りの大きな試みが、smorrebrod kitchen nakanoshimaで自社農園をつくること。自分たちで日々野菜を育てることで、命の尊さや循環を、都会にいながら感じられるようにという狙いがある。

「これは、お客さんはもちろんなんですけど、店のスタッフに向けた試みでもあって。飲食業をやっていると、日々をこなすことに精一杯になり、食べ物や命の尊さを忘れがちになるんです。植物は自分で命を絶つことはなく、植木も野菜も、人間がとったときそこで命が絶たれます。料理を提供するものとして、そういう命の循環を感じながら仕事をしてほしいなと。
…といっても難しくならず、小学校で飼っていたウサギにみんなで餌をあげていた時のように楽しみながらやれたら」



















「食の尊さを伝え、飲食に携わる人の可能性も広げたい」と語る堀田さん。スタッフは女性が多い。スモーブローにとって重要な盛り付けは、女性の細やかな感性がかかせない/店は9時から営業。朝から栄養のあるものを提供し、スタッフにも規則正しい健康的な生活をしてほしいという思いがある


◆ワクワクするような 食の本質に触れる旅へ



「料理開拓人」としての活動の浸透に加えてfoodscape!とsmorrebrod kitchen nakanoshimaの人気もあり、堀田さんのもとには、飲食店のプロデュースや食を通した地域おこしなど、新しい仕事が次々に押し寄せている。目下、大阪市との協同プロジェクトで、中之島の公園でfoodscape!のパンを毎朝自転車で販売する計画「foodscape! cycle」も進行中だ。並行して走らせている複数のプロジェクトのなかには、海外を舞台にしたものも。

「香港の飲食店をプロデュースする話をいただいているのと、あとはベトナムですね。カカオやコーヒーを、日本人が管理して日本のクオリティで生産している企業が現地にあるのですが、そのカカオを使ってBean to Barを大阪でやりたいと思っていて。ベトナム産のカカオは柑橘系のような華やかな酸味があるんですよ」

今後、海外との縁が順調に広がっていけば、香港やベトナムなどの食材がふたつの店で展開されることも期待できそう。堀田さんの食活動は、出会った人やものを巻き込みながら、ワクワクする方向へどんどん進化していく。
「興味の赴くまま好きなことをやって、流れに任せていたらこうなった感じですね」と、当の本人はさらり。でも、と堀田さんは続ける。「僕は誰もやらなかったことを、誰よりも真剣にやってきたと思う」

静かな開拓者スピリットを原動力に、旅から得た世界中の人とのつながりを大切に育み、また次の縁を手繰り寄せて。堀田さんが進む先には食の新しい未来が、そして拠点を持った大阪には、楽しみながら食の本質に触れることができる場所が待っている。

foodscape! cycleで買った朝ごはんを公園で食べたり、smorrebrod kitchenの畑で実った野菜のスモーブローを味わったり、日本人がつくったカカオのBean to Barを楽しんだり。
大阪を訪ねる楽しみが、これからもっと増えていく――。旅のイメージが、期待とともにふくらんでいく。




TEL.06-6222-8719
大阪府大阪市北区中之島1-2-10中之島図書館内2F
営業時間/9:00~21:00(20:30LO)
アクセス/京阪電車なにわ橋駅より徒歩5分

●foodscape!_cycle

foodscape! bakeryが今夏より始めたオリジナル三輪自転車での移動販売(写真)。北浜駅近くの難波橋そば、バラ園、芝生広場などをめぐりながら販売。販売時間と場所の詳細は、下記Instagramより要確認





WRITING/ASAMI KUMASAKA PHOTO/EDDY OHMURA