先日、幽霊を見た。人間、おどろくと面白い反応をするもんで、僕はその瞬間「うわ! びっくりしたぁ!」と叫んでしまった。
どうせよく確認してみれば見間違いだったんだろうけど、まあ、そんな話はどうでもいい。およそ1年前に、こちらのコラムでネット上でよく目にする都市伝説やら怪談やらの中で、割と人気のあるものを紹介したことがあった。昨年は「コトリバコ」や「八尺様」について書いたが、こういう体験をしたばかりなので、今年も似たようなものを書いてみたいと思う。(文:松本ミゾレ)
「ほんとに下半身を見てねえんだな?」「実は謝らなければいけないことがある……」
■リゾートバイト
ネット掲示板で繰り返し転載されているので、ご存知の方もいるかもしれない。この話、まずめちゃくちゃ長い。しかもリゾート感皆無。
一旦読み出すと、結末に至るまでに数十分はかかること請け合いだ。そういう意味では暇潰しには最適なんだけど、精神的に参ってしまうようなグロ表現が少なくないので、耐性のない方は読まないほうがいい。
話のあらすじは、大学生3人が夏休みに、旅館でアルバイトをするものの、何故かその旅館の2階は閉鎖されており、それなのにしばしば女将さんが食事を用意しては階段を上っていくというもの。
2階に何かが住んでいるのでは? と投稿者らが勘繰ったことで、恐ろしい呪いの儀式に巻き込まれる、という内容だ。長い話だけど、途中でダレる部分もなく、緊張感を持って読めるお薦めのエピソードである。
■姦姦蛇螺
日本各地にある寺社仏閣とその周辺の管理地には、時として奇妙な何かが封印されていることもあるという。
姦姦蛇螺(かんかんだら)もその中の一種で、普段は山奥に封印されているというが、実質的には人の立ち入る可能性の低い区画で、放し飼いのような状態である。
女性の体にいくつかの腕が生えているという奇怪な姿で、下半身は蛇のようになっているとされる。その正体はかつて生贄として大蛇に供された巫女で、その怨念によって恐ろしい姿になってしまった。特に姦姦蛇螺の下半身を見てしまった人は大変なことになるという。
この話は、そんな姦姦蛇螺と遭遇してしまった田舎の中学生3人の記録という仕立てになっている。
■リアル
閲覧注意の怪談は世に数多あるが、ああいうものは長ければ長いほどに説得力を増してしまう性質を持つ。
読み込み、話に没頭しきったところで、最後の最後で話し手が「実は謝らなければいけない事がある」と告白する。そこで読み手はつい心臓を締め付けられる思いをするものだ。「リアル」という話は、まさにこのテイストをしっかり踏襲した秀作である。
あらすじとしては、興味本位で試した、霊を呼び寄せるまじない行為のせいで、幽霊の執拗な干渉に悩まされた男性が、実家が懇意にしていた尼僧を頼り、その後本山に避難をするという筋書きとなっている。しかしこの幽霊というのがかなり粘着質なタイプで、なかなか男性から離れてくれない。
そうこうしているうちに尼僧も寿命で亡くなり、男性は四十九日後に手紙を渡される。そこに絶望するしかない内容の言葉が綴られている、というのが全体のあらすじである。
読むと災いが起きるとされている話の中でも、特に意地悪な構成をしているので、ああいうのが苦手な方は読むべきでない。
■猿夢
あなたは明晰夢を見たことがあるだろうか? 途中で「あ、これは夢だ」と気づく、アレのことである。
人によっては、夢だと気づいても、その内容が興味深い場合、しばらく起きるのを拒否して夢の続きを楽しんだ経験を持つこともあるはずだ。
「猿夢」はまさにこの明晰夢の中でも、一番遭遇したくないシチュエーションが描かれる話である。ある人物が就寝中、遊園地にあるようなチープなお猿さんの電車に、数人の男女が乗っている光景を夢に見る。
それが夢であると気づきつつ、この人物もまた興味本位で電車に乗ってみるのだが、発車した電車で流れるアナウンスは、行き先とは無関係に「活き造り」や「抉り出し」など、物騒な言葉ばかり。
そしてアナウンスが聴こえると、乗車していた男女の1人ずつが、次々に言葉通りの無残な目に遭う。いよいよ自分の番になって聴こえてきたアナウンスは「挽肉」。必死の思いで目覚めて窮地を脱し、現実に戻ったこの人物だったが、それから4年後に全く同じ夢の続きを見てしまい……。
話そのものが簡潔ながら、オチのインパクトもあり、なかなかよくできたエピソードである。
■悪魔の最大の目的
短く、特に悲惨な展開が待ち受けているわけでもないが、タイトルに関連する要素が大きな印象を残す。それがこの「悪魔の最大の目的」である。
日本はキリスト教よりも仏教や神道の方が盛んなので、悪魔という表現は馴染みが薄いが、この話は牧師の父を持つ若者が投稿したという。
白眉なのは、前述のように悲惨な展開が待ち受けていないのに、悪魔によって上手く思惑通りに動いてしまっている被害者がいるという点。しかもその被害者にしたって、恐らく自分が被害者という自覚も、日常生活を送る上での実害にも悩んでいない。
宗教観の関係なく、死後の世界に思いを馳せたことがある人にとっては考えさせられる内容になっている。
探せば色々!ネットで語り継がれる怪談ともっと触れ合おう!
といった具合に、今回もそこそこメジャーな話を5つほどピックアップして紹介してみた。 それぞれの話はネットでタイトルを検索すればすぐにヒットするはずなので、気になったものは是非全文を確認してもらいたい。
もっとも、こういう話はフェイクがほとんど。恐らくこの5つの話にしたって、大半は作り話だろうけど、作り話には作り話の良さがあるし、それだけに起承転結がしっかりしていて完成度も高い。
読み物としても優秀なこれらのエピソード。蒸し暑く眠れない夜のお供としては適しているはず……。
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