VivaC team TSUCHIYA
レースレポート
2016SUPER GT Rd.4 スポーツランド菅生
■日時 2016年7月23-24日
■車両名 VivaC 86 MC
■場所 スポーツランド菅生
■ゼッケン 25
■監督 土屋春雄
■ドライバー 土屋武士/松井孝允
■チーム VivaC team TSUCHIYA
■リザルト 予選 1位/決勝 2位
充実のテスト期間
そしてテスト時に決めたQ2の走者
2戦を終えて、前回の富士では表彰台を獲得し、いいリズムでシーズンのコマを進めています。第3戦が中止となり、約2ヶ月半のインターバルに3回のテスト走行の機会がありました。第3戦終了時点でシリーズランキングも4ポイント差の3番手につけ、目標であるシリーズチャンピオンの為には、JAF車両が有利なレイアウトの菅生&鈴鹿サーキットで、大きなポイントを稼ぐ必要があります。
鈴鹿・菅生・鈴鹿と3回のテストを、この先戦うための武器を作るというイメージを持って取り組んだところ、理想的な形でレースの準備をすることができました。具体的には、最初の鈴鹿テストで沢山のパーツの評価をして、その効果を確認。次の菅生テストで、その根拠に基づきバランスを確認し、タイヤの摩耗チェック。最後の鈴鹿テストで、引き続きバランス確認とハンディウエイトを重くしてのパフォーマンスチェックとタイヤの摩耗確認。それぞれ理想的にテストは進み、後半の2回のテストでは、タカミツにセットアップとタイヤテストをやってもらい、私、土屋武士はエンジニアに専念する時間を増やしました。
この狙いは、タカミツのセットアップ能力の向上と、新品タイヤでのアタックを繰り返すことにより、一発のタイムを出すことと、単純にドライバーとしてのパフォーマンスアップが目的です。そして菅生テストではしっかりと総合トップタイムをマークしてくれたので、この時に、次回の菅生戦のQ2はタカミツにやらせてみようと決断しました。
ここでポールが獲れたら、チャンピオンを目指す上での最強の武器になる!
向かえた第4戦菅生。フリー走行では、想定していた気温と路温からは大きく異なり、低いコンディションになったものの、バランスはテストと同様バッチリで、セットアップは何もいじらずにすみました。走り出しもタカミツからスタートし、2セット新品タイヤで走行。コンパウンドの比較をし、予選に向けてのタイヤ選びが難しかったのですが、決勝日は気温が高くなるという予報だったので、予定通りにハードのタイヤを選択。温まりが遅いタイヤだったので、予選に向けて皮むきをして備えました。
いよいよ予選。予定通り、Q2はタカミツでいくことを決定。正直、私自身もポールポジションの獲得記録を伸ばしたいという気持ちもありましたが、我々チームの活動テーマに「次代の職人を育てる」、「技術とスピリットの継承」があることと、シリーズを戦ううえでタカミツの成長が非常に大きなカギになるということが明白だったので、今シーズンの一つのターニングポイントになるだろうという想いもあり決断しました。
「ポールを獲得するチャンス」が大きいプレッシャーの中で、もし、タカミツがポールを獲ることができたら、それはチームにとって非常に大きな武器を手にするということにもなります。この先伸びしろがないおじさんドライバーの記録を伸ばすよりも(笑)、たった1年と3戦目の若いドライバーの記録が、“ゼロ"から“1"になる方がよほどチームの為になるし、チャンピオン獲得のためにはここでタカミツがポールを獲るかどうかにかかってるんじゃないかな、と密かに思っていました。
そしてQ1が始まりました。ここ菅生はサーキットの距離自体も短く、狭いコースレイアウトの中で、クリアラップを取るのが非常に難しいコースです。ましてや温まりの悪いハードタイヤを選択していたので、アタック前に赤旗が出てしまったら……という不安が脳裏をよぎりました。ですので、コースインからとにかく全開で走行し、計測5周目に1'18"6。本当は次の周からが一番タイヤがいい状況だったのですが、十分Q1をクリアできるタイムだったことと、このタイヤが決勝スタートに選択された時の為に(決勝のスタートタイヤはQ1、Q2のどちらか抽選で決定される)ここでアタックは終了しピットに戻りました。無事4番手で通過です。
そしていよいよQ2。見ている方が緊張していました(笑)まぁ、でもそんな雰囲気は出さないように、いつもと同じリズムで送り出し、あとは祈るだけです。そして刻んだタイムは1'17"493!! 正直言って、こんなタイムが出るとは思いませんでした。もし私が乗っていたらたぶん17秒8くらいじゃないかなと思います。全盛期の自分なら17秒6くらいか……それくらいマシンのパフォーマンスを引き出したスーパーなタイムでした! 確かに体重が私よりも15kgタカミツは軽いのでその分は速いのですが、それ以上のタイム差に驚きです。
ついさっきまで「大事なところでプレッシャー感じてミスしたら……」みたいなことを考えていて、まるで運動会のお父さんの気持ちでいたので、なおさらこの結果には嬉しさ100倍です!
タカミツは17歳の頃にFTRS(フォーミュラトヨタレーシングスクール)の受講生で、その時の担当講師が私。その頃からの付き合いです。才能は抜群で最初から何に乗っても速かったのですが、TDPのスカラシップを受けてレースに参戦していくうちにドンドン遅くなってしまいました。気持ちの面で弱いところがあって、いろんな話をすべて聞こうとしているうちに、自身の走りが出来なくなってしまいました。結果、TDPをクビになり、私のところへ来ることになって、藤沢に移り住んで一緒に働きながら、細々とですがレース活動を続けていました。
一緒にいる時間が長いので、タカミツがどんどん社会人として成長していくところも間近で見ることが出来、「今のタカミツならしっかり結果を出せるのではないか?」と思うようになったので、2014年にJAF-F4でもう一度プロへの道をチャレンジするチャンスを作ったんです。F4では主にセットアップのコメント力を重点的にトレーニングしました。速さはもともと持ち合わせているのは分かっていたので、あとは、「自分でチームを引っ張り、マシンを速くして、しっかり結果を出すことができるドライバーに」というのがテーマ。ただ結果を出すことを優先するのではなく、今やるべきことをしっかりと判断できるドライバーになることを何よりも優先して取り組んでいました。
アジアン ル マン シリーズにも数戦参戦してGTカーには多少慣れていたものの、皆さんがご存知のような目立った経歴はゼロです。昨年エントリーした時も「土屋武士の相方の松井孝允って誰??」と思われた方がたくさんいたと思います。「才能は抜群。でもそれを活かす強さがなかったドライバー」がタカミツです。そのタカミツが「精神的に成長し、自分の才能を発揮することができる強さを持ったドライバー」に成長し始めています。
先日のF3-Nクラスへのスポット参戦も、「今、自分に足らないものを得るために。自分がすべきことを」というテーマでタカミツ自身で自費参戦をしました。単純にフォーミュラのコーナリングスピードをトレーニングする為に、すべてを自分で段取りし、たくさんの人の協力があり参戦がかないました。これらはすべてプロになるためのステップだと、タカミツ本人も理解して取り組んでいます。
そんなタカミツが、今回のQ2でようやく自分の才能を証明できました。単純に、本当にうれしいです! 私自身、ドライバーとしての最後の仕事として「タカミツをプロに」という想いで活動してきたので、何個もあるハードルの一つを、それもかなり大きなヤツを越えてくれたことは本当にうれしかったです!! タカミツ本人はおごり高ぶることもなく、普通に走っただけです~みたいなリアクションでしたが(笑)、とにかくこれでチームは大きな武器を手に入れたことになります。「爆発的なスピードを持つドライバー」というカードを。500に行っても通用する速さを持つドライバーという意味では、今は#3GT-Rのマーデンボロー選手が筆頭かと思いますが、数少ないそのカードをうちのチームも持つことができたということは、この先戦ううえで非常に心強い。どれだけいっても、最後はドライバーの戦いになることは間違いありませんから。
ランキングトップへ
不利な要素は、人間力でカバー
そんな素晴らしい予選を終え、翌日の決勝日朝は──予報と違い、気温は低いし路面はウェット! おいおいと思いながらも粛々と準備を進めました。ウェットタイヤのフィーリングを確認し、セットアップはドライのままで走ることができることも分かり、あとは天候の回復を待つのみ……。そして難しいコンディションでのスタートが予想されていたので、ここは引出しの多いベテランの私がスタートドライバーを務めることになりました。本当はやりたくなかったけど……(苦笑)。
そしていよいよ決勝。霧雨模様の路温22度という最悪なコンディション。路温50度でも大丈夫な想定のタイヤだったので、もちろん最初はグリップしません。しかも後ろはブリヂストンとダンロップという他メーカーの2台。タイムの出方をみるとスタート直後の数周が劣勢なのは明白でしたが、覚悟を決めて、内圧も少し高めにして序盤を凌ぐことを優先に設定しました。
スタートは無難に決まり、トップで1コーナーへ。しかしタイヤはグリップしません。後ろは#31 プリウスをパスした#61 BRZ。とにかく1周目に集中しました。何度も抜かれそうなシーンがありましたが、何とかトップをキープ。1コーナーがイエローで追い越し禁止になったこともラッキーでしたが、4周目くらいにはタイヤもグリップしてきて、ここからは高めの内圧を上げすぎないようにペースをコントロールしていきました。それでも徐々に差は広がっていき、最大9秒ほどのマージンができて順調と思いきや、昨年のここ菅生に引き続き無線が壊れてしまいました! これは一大事で、一番の問題はエンジニアの私がドライブしてしまっていること。内圧を下げる指示ができない! スタート前に「どれくらいの内圧で走っているか無線で言うから、それでどれくらい落とすか考えて」ということは打ち合わせしてあったのですが、結構上がってしまっていたのでこれには頭を抱えました。
まぁ、それでも差は広がっていくから大丈夫だろうと思っていた矢先に、セーフティーカーが入ってしまいました。これでマージンはゼロです。しかも無線がないのでいつピットに入るかも指示できません。ドライバー兼エンジニアのアキレス腱は無線だということに走りながら気づいてしまいました……。
結局、SC後2周でピットに戻って、一応予定通りの左側2輪交換でピットアウトしましたが、やはり少しドタバタして5秒ほどのロスがありました。あらゆる想定はしてあったのですが、僕が走りながら指示できる前提だったので、これもまた一つ勉強です。
ピット後はタイヤ無交換の#88 ウラカンと#18 86 MCに前に出られてしまい、3番手でのコース復帰となりました。無線は壊れたままだったので、あとはただ応援するしかなく……。意外と気持ちは楽でしたが心配事はたくさん。後方から#31 プリウスが速いタイムで追い上げてきていたからです。状況的には同じマシンの#18 86 MCは問題ないとして、#88 ウラカンをパスできるかどうかだなと思っていました。#31 プリウスに追いつかれる前にトップに立てるかどうかで今日は勝てるかどうかが決まるなと。結果は、#88 ウラカンを抜く前に#31プリウスに抜かれてしまい、そのあとすぐに#88 ウラカンをパスしたものの、最終的には地力の差があり追いつくこともできずに2位でチェッカーを受けました。
今回のレースはしっかりと準備ができたことで、“運が悪くなければ”必ず勝てるというくらい準備をして挑みましたが、「無線が壊れる」、「SCが入る」という二つの不運があり優勝することができませんでした。もしスタート後すぐに抜かれていたら、「気温が低かった」ことも不運に入れていたと思います(笑)。
これらのことに対応しての2位表彰台というのは、チームとしての力がついてきた証拠だと思いますし、今回のレースはチーム全員でやり切った感のある、いい内容だったということがポジティブなことだと思います。そして何より、タカミツのポールポジション!! これがこれからのレースで活きてくることは間違いないと思います。すでにマシンには手を入れるところはなくなっているので、これからは純粋に人間の勝負になります。今回の2位でシリーズランキングもトップに立つことができました。イコール、ハンディウエイトが一番重いということ。86 MCはウエイトエフェクトが他のマシンよりも大きく効いてきます。シリーズを争うには不利なマシンですが、チームの人間力でカバーできるよう、切磋琢磨してこれからのレースを戦っていきたいと思います。気持ちを引き締めて、益々頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします!!
【松井孝允コメント】
今回の菅生大会は前回の合同テストから好調で、マシンのバランスも走り始めから良く予選に向けては順調だと感じました。不安材料はタイヤの温まり。天気の関係上、気温と路温が低くタイヤの温まりに関して不安はありました。その中でもフリー走行中にスクラブをして予選に向けて準備できたことは良かったです。そして迎えた予選では武士さんがタイヤを残したままQ1を通過してくれたので、あとは自分のできることをやろうと思い予選に挑みました。武士さんからは「タイヤと会話して」といつも通りの無線で送り出してもらいました。とにかく集中して走りました。アタックは今までにないくらい完璧で車のバランスも最高でした。これまでアタックをして気持ち良さを感じたことがなかったので、とても不思議な感覚でした。また、ポールというのもすごく嬉しかったです!
決勝はスタートを武士さんが担当。決勝も天気が曇りでタイヤの温まりの部分で不安材料がありましたが、ウォームアップを使ってタイヤをしっかりと温めるというやり方を見て、今の自分にない引き出しだったのでこれも大変勉強になりました。レースの内容は、無線は壊れていたものの、トップでバトンを受け取ったので自分のベストを尽くそうと集中し、プッシュをしました。しかしタイヤの内圧が高かったため、バトルを無駄にすることは避け、オーバーテイクの時だけタイヤを使うことを心がけました。
結果は2位。優勝はできませんでしたが、ランキングがトップになれたことは幸いでした。後半戦はウエイトもきついので取りこぼさずコツコツとポイントを重ねていき、チャンピオンを目指して戦っていきたいと思います。
今回の菅生大会、応援してくださった皆様、有難うございました。次回の富士ラウンドでも応援よろしくお願いいたします。