2016年08月15日 10:22 弁護士ドットコム
愛人関係だった男性から、別れた後にマンションの敷金を返せと要求されているーー。そんなトラブルを抱える女性の悩みが、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。
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相談者の女性には、2年ほど付き合っていた男性がいました。男性は既婚者で、女性との関係はいわゆる「愛人関係」でした。女性はその男性の名義でマンションに住み、生活費も援助してもらっていました。しかし、別れが突然やって来て、女性は住んでいたマンションを退去せざるを得なくなりました。
すると男性は「敷金として入金していた金銭を返金しろ」と要求してきました。急な出来事のため、女性が「お金を用意できない」と告げたところ、男性から「会社に内容証明を送る」というメールが来たそうです。
今回のようなケースで、女性が敷金に相当するお金を男性に返還する義務はあるのでしょうか。そもそも、愛人関係を結んでいた間に援助を受けた金銭を返還する必要はあるのでしょうか。石井龍一弁護士に聞きました。
●愛人契約は「公序良俗」に反して無効
一般的に、いったん渡した金銭の返還を求めるためには、そのための合意が両者で結ばれている必要があります。
今回のケースで、男性が女性に対してマンションを借りる際に援助した敷金について、『将来退去するときに、マンションの貸主から敷金が戻った場合、その資金返還分を女性から男性に返金する』といった合意が明確にされていたとは言えないでしょう。
そのため、相談者は男性に対して、返還された敷金分の金銭を返還する義務はありません。
そもそも、愛人関係を結んでいた間に援助を受けた金銭については、裁判所は「公序良俗に反する」ことを理由に返還義務を否定しています。
民法は、公序良俗に反する契約は無効であると定めています(90条)。
そして、愛人関係は、我が国の家族制度の根幹である、「一夫一婦制」に違反するものです。そのような関係を築いたり、維持するために金銭を援助することは、まさに『公序良俗』に違反するとして、民法の定めによって無効になると考えられるのです。
さらに民法は、そのような不法な原因で金銭などを給付した側は、給付を受けた側にその返還を求めることはできないと定めています(708条)。
そのため、受けた援助を返還する義務はないことになります。今回のケースでも、仮に敷金分の金銭を返還する合意が結ばれていたとしても、相談者は返還する義務はありません。
【取材協力弁護士】
石井 龍一(いしい・りゅういち)弁護士
兵庫県弁護士会所属 甲南大学法学部非常勤講師
事務所名:石井法律事務所
事務所URL:http://www.ishii-lawoffice.com/