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元AV女優・川奈まり子さん「業界改革の旗印になりたい」出演者支援団体の構想語る

2016年08月14日 10:31  弁護士ドットコム

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アダルトビデオ(AV)への出演強要問題が大きく注目をあつめるなか、元AV女優で、現在は作家として活動している川奈まり子さん(48)が7月中旬、女優などの出演者を支援し、業界の健全化をうながす団体「一般社団法人表現者ネットワーク(AVAN)」を設立した。


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これまで女優や男優といった出演者を中心とした組織はなかったが、「出演者の権利を守る必要があると考えた」(川奈さん)。まずは、出演者とプロダクションの間で交わされる契約書を統一されたものにすることに着手したという。 


大手プロダクションの元社長が摘発されるなど、業界に激震が走っているが、AV女優たちを取り巻く状況や業界の健全化に向けて、今後どのようなことが求められるのか。川奈さんにインタビューした。


●権利を主張できない状況がある


−−どうして団体を設立することにしたのか?


私自身は、現役時代(1999年~2004年)に「強要被害」にあいませんでした。楽しく仕事をして、お金も稼げたし、非常に恵まれていたと思います。


しかし今、強要被害が大きな社会問題になっていますよね。そこで、元女優として、自分だけが恵まれていればあとはどうでもいいのか、どうしたら業界がよくなり、AV女優を取り巻く環境がよくなるのか、考えたんです。


−−団体はどんなことをするのか?


おそらく、被害の背景には、女優さんをはじめとした出演者たちが、権利を主張できない状況があると思います。だから、まず、出演者をネットワークでつないで、大きな集団を形成し、次に、出演者の権利が守られる「統一された契約書」をつくります。


AV女優さんは、プロダクションと契約を結んで、性的な内容の成人向け映像に出演します。そのとき、プロダクションが、あたかも出演者を雇用しているかのように、指揮・命令などしていたら「出演強要」ということになってしまいます。


また、出演者の多くは若くて社会経験が乏しく、法的知識が不十分です。契約書にサインする際、法的効力があるのか、本当に正しい契約といえるのかなどをチェックする知識・能力、経験がないことがほとんどでしょう。


そのうえ、従来の契約書には「勝手に出演を取りやめると違約金が発生する」「●年●月までは専属契約を結んでいるからやめられない」といった内容がいかめしい言葉づかいで書かれていることがあります。法的知識のない人は「わたしはやめられないんだ」と怯えてしまいます。


−−統一された契約書はどういうものなのか?


適法な業務委託契約の契約書で、出演者とプロダクションを対等な立場とするものです。現在、顧問弁護士の先生に作成していただいている最中ですが、わかりやすい日本語で「あなたは成人向け動画に出演します」「アダルトビデオというもので、性的な行為・表現が含まれています」といったことをきちんと書いてくれるようにお願いしました。まずは、AVANに仮登録してくださった女優さんと、私たちの方針に賛同していただいたプロダクションに使ってもらいます。


出演にあたっては、現状では多くの場合、女優さんとメーカーの間で「出演同意書」が交わされています。ほとんどのメーカーは撮影内容を伝えたうえで同意をとっていますが、いい加減なところもあります。


今、私たちAVANとIPPA(アダルトビデオのメーカーなどでつくる団体「NPO法人知的財産振興協会」)は毎週、「表現者の権利を守る会」という会合を開いて協議を重ねており、その中で、出演同意書についても統一されたものをつくることが決まりした。そちらもすでに作成段階に入っていて、間もなく完成する予定です。私たちは、出演合意書や新しい契約書を正しく運用するマニュアルも用意するつもりです。


●ドタキャンが発生すると損害額も大きい


−−高額な違約金については?


正しい契約が交わされていたら、プロダクションが不当に高額な違約金を請求するような事態も起きないと思います。そういうことが起きないような契約書をつくらないといけないと考えています。


出演者に対しても、契約のとりかわし方について啓発・学習する機会をもうけるつもりです。「AV出演の契約では、こういうことに注意する必要がありますよ」と教えていきます。自立した表現者として、正しい知識を身につけていただく必要があると思いますので。


−−そもそもなぜ違約金があるのか?


もし仮に、撮影の前日などに出演をキャンセルした場合、業界用語でいうところの「バラシ代」が発生します。つまり損害額で、これが高額な場合があるので、防ぎたい。あるいは、すでに出てしまった損害の責任を負わせたい。そういう発想から出たものでしょう。


たとえば、8月●日~●日までの3日間、東京都外のハウススタジオで撮影するとします。規模にもよりますが、1日数十万~百数十万くらいかかります。


スタッフの予定もおさえています。共演する男優、フリーランスのカメラマン、ビデオカメラマン、助監督、AD・制作、照明、音声など・・・複数います。ロケバスのレンタル代もかかるかもしれません。


キャンセルが1週間前なら問題ないと思うんですが、前日や前々日だとキャンセル料が発生するどころではなくて、ほとんどの場合、「100%」支払わないといけないことになってしまいます。


私たちは、契約書によって不当な違約金請求を防ぐとともに、会員になってくれた女優さんに対して、こうしたことを、イラストなどを使ってわかりやすく説明しようと考えています。そうすることで、彼女たちも出演に対して慎重になるのではないでしょうか。


●相談窓口をつくる


−−ほかはどんなことをするのか?


会員さん向けに相談窓口をもうけるつもりです。もちろん、強要被害についてもそうですが、外の社会とのトラブルについても受け付けます。会員さんたちが普段抱える悩みの多くは、社会の「スティグマ」(烙印)によるものだろうと想定しています。


たとえば、「AV女優というのがバレて、ストーカーにあっている」「AV男優だというのがバレて、アパートを追い出されそうだ」「夫にAV女優であるとバレてしまって、高額な慰謝料を請求されている」「副業でAVに出ていたところ、本業の職場に知られてしまって、クビになりそう」「職場に知られたことで、パワハラ・セクハラにあっている」など。また、「AVに出ていることで、絶えず不安を感じている」という人もいると思います。


そういうときに、私たちは、案件に応じて適切に、弁護士やカウンセラーなどを紹介できる態勢を整えようとしています。そして、実際に、「強要被害にあってしまった」「撮影現場でレイプされた」といった相談が寄せられた場合は、すぐに警察や弁護士に協力してもらおうと考えています。


●「AV出演」を肯定したい


−−現在、業界の動きはどうなっているか?


ほとんどのメーカーやプロダクションは、前向きに改革に取り組もうとしています。大手プロダクションが摘発・解散となったことで、メーカーもプロダクションも危機感を持ちました。


先ほど申しましたとおり、AVANとIPPAの「表現者の権利を守る会」は週一回のペースで続けられており、密度の高い議論を重ねています。毎週、なにか、業界の健全化にとって有意義な進展があるといっていいほどです。今後、AV業界は大きく変わると思いますよ。


−−構造的な問題の原因は何か?


AV業界が斜陽になっていることですね。1990年代~2000年代の初めごろまで、業界はとても景気がよかった。今のようにインターネットで配信されているアダルトビデオや成人向け動画を見るのではなくて、パッケージ(VHS・DVD)を買う時代でした。


当時、市場としてはそれほど大きくなく、そのなかで高いパッケージを売るビジネスです。そこに少ない数の女優が出演していました。女優のギャラは、相対的に今より高かったと思います。プロダクションやメーカーの数も少なかった。


しかし、2000年代半ば以降、市場が大きくなり、爆発的に新規参入が増えました。ところが、すぐにネット社会が到来し、裏配信が業界の売上を奪いはじめて、業界全体の収益が下がったにかかわらず、プレイヤーの数は減らないどころか、むしろ増えつづけたのです。


このしわ寄せが、出演者や制作現場に真っ先にきたのだと思います。彼らは企業ではなく、何ら権力を持たない個人ですから。


私は「AVに出演するということ」を肯定しながら、女優さんたちが納得・満足して出演できる環境をつくりたいと思っています。


本人、あるいは社会が、AVに出演したことを失敗だと捉えることが、差別と苦悩を生み出しているので、そこはしっかりと肯定したい。そのためにも、適法で安全な、そして人権を尊重した出演環境を整備する必要があると考えて、AVANをつくりました。


さまざまな業界に組合や同業者の連盟など団体が存在しますが、AV業界では、出演の当事者たちが団体を作るのは初めてのことです。それが初めてできたという事実そのもの、ひいてはこの団体そのものが、AV業界の改革の旗印になる。そんな意気込みで取り組んでいます。


(弁護士ドットコムニュース)