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北欧パンク文化は尊敬できるものばかりだったーーFORWARD・ISHIYAスカンジナビアツアー体験記

2016年08月13日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

FORWARDメンバーとアメリカツアーに帯同してくれたマルク

 筆者がボーカルとして活動するハードコアパンクバンドFORWARDが、2016年7月6日から7月11日にかけて、スウェーデンとフィンランド2国のスカンジナビア半島ツアーを行なってきた。


 合計4カ所のショートツアーではあったが、初めて訪れたスカンジナビアのパンクシーンなどをレポートして行きたいと思う。


 今回のスカンジナビアツアーはスウェーデンから始まるが、入国審査がアメリカほど厳しくないために、各自楽器を持っての入国となった。


 一応入国審査はあるが、通り一遍の質問に答えれば通る簡単なもので、改めてアメリカの入国審査の厳しさを感じずにはいられない。


 メンバー全員が無事入国を果たし、一息ついているところで今回のツアーのオーガナイザーであるJUKKAとフィンランドのHassakka-paivatフェスまで同行するJaniと合流。ツアーをまわるバンに乗り込みひとまず乾杯。


 初めてのスカンジナビア半島だが、最初の街であるスウェーデンのストックホルムは、気候がカラッとしていて日差しがあるため、日中はTシャツだけでも過ごせるのだが、夜は長袖がないと寒いと感じるぐらいの気候のため、梅雨まっただ中の日本から来た自分たちにとっては快適この上なく、過ごしやすさに一安心した。


 ライブ前日に到着したため、この日は英気を養いDS-13という現在のスウェーデンハードコアの第一人者であるバンドのベーシストChristofferの家にてホームパーティーをしながら地元のパンクスたちと交流を深めた。


 しかし夏期の北欧は白夜のシーズンなので、南の方に位置するストックホルムでもなかなか日が沈まない。起きている間はどんなに遅い時間でも少しとはいえ確実に陽があった。夜12時あたりでもまだ明るさがあり、完全に真っ暗になるのはせいぜい1~2時間ぐらいではないだろうか。初めて体験する白夜にはかなり驚いたが、今後北上するにつれ更に白夜の時間は長くなり、就寝中はわからないが、真っ暗になることがなかったのではないかと思う。


 スウェーデンは、80年代からハードコアパンクが盛んな国で、古くはANTI-CIMEX、MOB47、CRUDE SS、TOTALITAR、ASTA KASKなどのほかにも多くの素晴らしいハードコアバンドを輩出している国だ。


 筆者も上記のバンドをバンドを始めた頃から今でも聞いており、かなりの影響を受け今日に至るが、その国でライブができるというのは格別な思いがある。


 イギリスのDISCHARGEの影響を受け進化した独自のスウェディッシュスタイルハードコアは、諸外国でも大きな評価を得ており、現在のクラストコアと呼ばれるバンドたちにもかなり影響が大きい。


 ASTA KASKはそういったサウンドとは一線を画した独自のメロディックなサウンドで数多くのファンが世界中にいる。


 そして、上記のバンドの中で現在も活動しているバンドや、音楽活動を続けているメンバーは多く、2016年4月にはMOB47が2度目の来日を果たし、ASTA KASKも来日公演を2度行なっている。


 そうした中で、今回スウェーデンのライブでは、現役バリバリのスウェディッシュハードコアであるDS-13と、TOTALITARのメンバーが在籍するMEANWHILEとのライブが組まれており、現在のリアルなスウェディッシュハードコアを堪能できそうな期待で胸が膨らんだ。


 起きてからストックホルム旧市街観光などをしてライブハウスへ向かう。ストックホルムでライブを行なう場所は、中心部からは少し外れており、外観も非常に個性的で、アートスペースのような倉庫を改造して作られた場所だった。


 北欧は福祉に対しての理解が一般的に浸透しているためか、こういったライブをやる場所でもトイレは車椅子でも使えるようになっている。


 難しい部分はたくさんあるとは思うが、日本のライブハウスでもこういった認識を持つライブハウスが増えてくると素晴らしいのではないかと感じた。


 サウンドチェックを終えると食事を用意してくれていて、そういった部分は以前レポートしたアメリカと変わらない。相互扶助の精神が、世界中のアンダーグラウンドパンクシーンには共通している。(参考:菜食主義、シェアハウス、パーティ……現役パンクロッカーが見た、アメリカ・パンクスの生活


 開場時間が近づくと、続々と客が集まり始める。共演するMEANWHILEはTORTALITERのメンバーも在籍するために人気が高いようだ。


 実際ライブも大盛況ではあったが、MEANWHILEの後の出演だったためかFORWARDが始まるときには観客がまばらだった。観客もMEANWHILEで満足感を得られたのだろう。


 しかし、日本から来ているのに観ないで判断されたくはない。ライブが始まってからはライブハウスの外まで出て歌うと観客が中まで入ってきてくれ、その後は非常に盛り上がり、初スカンジナビアは良いライブとなった。


 2日目は、スウェーデン北部最大の都市Umeaという街だ。移動にはストックホルムから約8時間ほどかかったと思う。


 ここはストックホルムで泊めてもらったChristofferの在籍するDS-13の地元。


 会場に到着するとすでにパンクスがいて、FORWARDを流しながらタムロしている。会場がまだ開いていないためそのパンクスたちと雑談していると、日本のハードコアバンドがUmeaに来ることなど無いとのこと。過去に日本のハードコアではLIFEがUmeaに来ただけで、FORWARDが来てくれたことを非常に喜んでくれた。そうしていると間もなく会場のスタッフが到着した。


 オーガナイザーが言うには、このライブハウスは伝説的なライブがたくさん行なわれたライブハウスとのこと。数々の海外やスウェーデンのハードコアバンドが出演してきたライブハウスのようだ。出演順もDS-13を最後にしたいというので快くOKしたのだが、DS-13が到着すると、メンバーが昨日のライブを観てFORWARDを最後にしてくれと言ってくれたらしく、結局最後に演奏することとなった。


 もし昨日のライブが良くなければ順番を変わることはなかったのだろうか?


 どちらにせよ、FORWARADのライブを観てくれてそういった感覚で地元のライブに迎えてくれたことは素直に嬉しいし、自分たちがやっていることが間違ではないと感じることができ、この日のライブにも気合いが入る。


 あいにくの雨模様で、この街もスウェーデン北部最大の都市とはいえそれほど大きな街でもなく、ライブハウスも街の中心部ではないのに、さすがDS-13が地元でライブをやるというので、どこから来たのかと思うほどの観客が集まってきた。


 DS-13の他にも出演したバンドもレベルが高いバンドが多く、パンクロック的なアプローチではあるが、オリジナリティ溢れる演奏を見せるバンドは、名前を失念してしまったが非常に面白かった。


 そしてDS-13は圧巻のライブで、さすが現役スウェディッシュハードコアの雄と言える素晴らしいライブだった。


 自ずと自分たちも気合いが入り、FORWARDを楽しみにしていてくれたパンクスもいたので、期待に応えられるよう気合いを入れてライブをやった。


 DS-13が終わり帰ってしまうかと思った観客も大勢残ってくれ、Umeaでのライブも非常に思い出深いものとなった。


 そして翌日は今回のツアーで1番大きなライブであるフィンランドの街OULUで行なわれるHassakka-paivatフェスだ。


 移動もやはり8時間ぐらいはあり、国境もあるためにこの日はオーガナイザーが借りてくれたゲストハウスで就寝。白夜と時差の疲れなどもあり、みんな早々と就寝した。


 しかしこのあたりまでくると暗くなることはない。初めて体験する白夜には連日驚かされる。


 その分冬の時期になるとほとんど昼間が無いらしく、自殺率も非常に高いという。明るさがそこに関係しているかどうかはわからないが、白夜と同じ時間だけ明るくならないということは、精神面にも非常に大きな作用があるのではないかと、白夜を体験してみて感じることではある。


 そういった精神面がサウンドにも現れ、スウェーデン独自のハードコアスタイルが進化し続けているのだろうか?


 スウェーデンのハードコアの素晴らしさを知るものとしては、その素晴らしさはいったいどういうことなのか知りたい気持ちが、このような思いを抱かせる。


 初スウェーデンは、非常に楽しく充実した素晴らしいものになり、機会があれば是非また来たい国である。


 ゲストハウスで目覚めると、オーガナイザーの家が近くにあり、そこに朝食が用意されているというので、ツアーメンバーで朝食を食べ出発。


 この日からフィンランドに入るが、スウェーデン、フィンランド共にEU加盟国のため、国境での入国審査などはなく素通りで入国。しかし、スウェーデンとフィンランドでは通貨も言葉も違う。国境付近のバーガーショップで小銭を使いきり、今回のツアー最大のライブであるフィンランド北部の街OULUでのHassakka-paivatフェスに向かう。


 このHassakka-paivatフェスは、2日間に渡り28バンドが野外ステージと室内ステージにわかれ行なわれるフェスだが、アメリカ、ドイツ、スウェーデン、フィンランドのバンドと、日本からは我々FORWARDが出演する。D.I.Yとしては大きい規模のフェスだと思う。


 パンクやハードコアに限らず様々なバンドが出演していたが、FORWARDが2日目の野外ステージの最後を務めることになり、メイン扱いだったことには驚いた。


 このフェスのポスターも日本のアーティストであるSUGIが描いたほか、フィンランドではいわゆるジャパニーズハードコアスタイルのサウンドが好まれており、そう言った点でも隣国のスウェーデンとの違いを感じる。


 隣国で地続きでありながら、言葉も通貨もパンクの好みも違うというのは非常に興味深かった。


 パンクに関しては、基本的な好みは世界共通で変わらないが、スウェーデンではD-BEATやクラスト系が好まれ、フィンランドではジャパニーズハードコアスタイルが好まれていたように思う。


 筆者が1988年から行っているBURNING SPIRITSというシリーズGIGがあるのだが、このBURNING SPIRITSというものが、海外では一種のジャンルのように捉えられており、ここフィンランドで話した際にも「俺はBURNING SPIRITSハードコアが好きで影響を受けている」と言った人が多く、非常に感激するとともに、ここまで認知されてきた責任感を感じずにはいられなかった。


 出演者も多数ながら良いバンドが非常に多く、ドイツのバンドEXILENTは女性ボーカルと女性ギターからなるクラスト系のハードコアだが、非常にオリジナリティ溢れる楽曲と女性ギターのコーラスでのデスボイスには度肝を抜かれた。


 他にもフィンランドのバンドで女性ボーカルのKOHTI TUHOAも非常に素晴らしく、まだ結成して間もないらしいがフィンランドにも素晴らしいバンドが多数いる。


 観客にも面白い人が多数おり、結構な年齢のメタル好きや若者など様々な人々が集まってきていた。


 同日にSLAYERが出演するメタルフェスがあり、海外ではメタルもパンクも聞くという観客が大勢いるために心配だったのだが、それにもかかわらずこれだけの観客が集まったことにも驚いた。


 野外ステージで出演が最後なのだが一向に暗くなる気配はなく、室内ステージでのDS-13が圧巻のステージを終え、いよいよ自分たちの出番がまわってきた。


 遠巻きに観ていた客に火をつけることができた良いライブだったと思う。


 満足感もあり、短い間ではあるが今回スカンジナビアにきてからの良いところが出たように思う。


 日本のハードコアパンクの代表として、BURNING SPIRITS創始者として、恥ずかしくないライブはやったつもりだ。


 終わった後にも、たくさんの観客たちが声をかけてくれ、初めて観た人々にも印象に残るライブができたことを実感した。


 初めての北欧の地でこういったフェスに出られたことに感謝すると共に、最終日の明日も気合いを入れてライブをやり、有終の美を飾れたら最高だ。


 OULUに住むツアーに同行してくれたJaniの家に泊まりゆっくりと休み、朝食をとり、ここでJaniとはお別れ。


 今日はスカンジナビア最終日のTAMPERE。この街はヘルシンキまで2時間ぐらいの街で、毎年夏にはPUNTALA ROCKフェスという大きなパンクフェスをやっている街で、過去にも日本からCRUDE、MUSTANG、九狼吽などが出演し、今年も鉄アレイが出演している。


 ほか海外からも有名ハードコアバンドが多数出演しており、夏の北欧パンク最大のフェスを行なう街であう。


 今回のツアーオーガナイザーであるJUKKAもこの街に住んでおり、フィンランド最大の都市ヘルシンキよりも、フィンランドハードコアはTAMPEREを中心に栄えているように思える。


 この日にやるライブは当初Hassakka-paivatフェスへの影響を考えシークレットライブであったが途中から発表され、今回のFORWARDのツアーTシャツの日程にもプリントされた。


 この日のライブハウスVASTA VIRTA KLUBIは、TAMPEREパンクスの仲間のような人間がやっており、昼間から2階にあるBARもやっていて非常にやりやすそうな場所だ。


 ツアーオーガナイザーのJUKKAも「ここはベストな場所だ。サウンドも素晴らしいし、経営する人間たちも素晴らしい」と言っている。ツアー最終日にふさわしい場所を選んでくれて非常に嬉しく思った。


 ここTAMPEREにはJUKKAともうひとりSEVEという人物がおり、SEVEは少し日本語も話せるほどの日本通で、この日出演する彼のバンドBACKLASHも、日本のハードコア、特にBURNING SPIRITSハードコアと呼ばれるバンドの影響が非常に大きく、サウンドのみならずファッションまでもが故チェルシー(POISON、DEATH SIDE、PAINT BOX)を彷彿させるアロハシャツに派手な短パンというファッションだ。


 SEVEの両親もいつもライブにくるようで、この日も日本のハードコアのTシャツを着て会場に現れた。


 ライブも非常にレベルの高いバンドばかりで、フィンランドのパンクバンドの質の高さに驚いた。


 日本のハードコアを基本としながら独自のサウンドを追求し、北欧ならではのエッセンスやノイズコア的な要素などもあったりして、どのバンドも非常に素晴らしかった。


 そしてFORWARDのライブも大いに盛り上がり、オーガナイザーであるJUKKAも盛り上がってくれ、優秀の美を飾れたと思う。


 終了後も、地元のパンクスや2階のバーにいる一般客たちとも盛り上がり、店が終了した後も近所の公園で飲み明かし、スカンジナビアツアーを終了した。


 初めて訪れたヨーロッパだったが、北欧のシーンは音楽的にも人間的にも非常に素晴らしく、また是非来たいと思わせる場所であった。


 スウェーデン、フィンランド両国共に、言葉や通貨の違いはあったが、素晴らしい扶助の精神がこの地でパンクを根付かせているのだろう。北欧のパンク文化は最高であったとともに、尊敬できるものばかりだった。


 こうしてバンドをやっていなければ訪れることなどできない国で、交流を深め「また来い」と言われることは、生きている上で最大の喜びである。


 同時に、どんな国でも本気のパフォーマンスをすれば必ず心は通じ合えるということを体験できる。


 どんな機会でもいい、もしチャンスがあるならば是非海外へ行き、言葉も文化も食べ物も違う人間たちと心を通じ合える体験をして欲しいと心から願う。(ISHIYA)