ブラック企業ではトイレすらまともに行かせてくれない――キャリコネニュースの8月7日の記事、「ブラック企業のトイレ事情が人権問題レベル」では、そんな衝撃的な話を取り上げた。
排泄は人間の生理現象の一つだが、トイレの回数を数えられたり、行く回数を減らすために飲み物が禁止されたりする職場があるのだという。中には、「トイレ行きやがって!!」と非難されるため、「言い返せない若い子は次々と膀胱炎や婦人系の病気になって退職してる」と明かす人もいた。
「タバコ休憩はOKでもトイレはダメ」という最悪の会社も
この記事が配信先のニコニコニュースやmixiニュースで多くの反応を集めた。「人の生理現象を批判することがありえない」「ブラックここに極まれり」と会社を非難する意見があがる中、自分の体験を投稿する人も目立った。
「レジ一人でトイレ行けないとかよくあるな。腹壊しやすいから結構困る」
「コールセンターと工場で働いてた事あったけど、どっちもトイレの回数数えられてたな」
「タバコ吸いに行くのはOKなのにトイレに行くのはダメな会社があった。 タバコ吸わないのに……」
トイレまで制限するようなブラック企業は流石に少数派かと思いきや、決して特殊なケースではないようだ。明らかに倫理的に問題がありそうだが、法的にはどうなのか。労働問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士(東京弁護士会所属)に話を聞いた。
「長時間トイレに行かせないように強制することは違法」
岩沙弁護士によれば、トイレに行く時間は労働者が使用者の指揮命令下におかれているので労働時間に当たる場合がある。しかし、「業務の必要性から短時間我慢させることは別として、長時間にわたりトイレに行かせないように強制することは違法です」と話す。
「労働契約法5条は『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』と定め、使用者の労働者に対する安全配慮義務を規定しています。人間がトイレに行くのは生理現象であり、トイレを無理に我慢すると健康を害するのは明らかです。したがって、使用者は労働者が健康を害さないようトイレに行けるよう業務や業務量の適切な調整等を行う義務を負います」
この義務を怠ることになるため、長時間トイレに行かせないことは違法となるのだという。そのため、記事で紹介したように膀胱炎などの症状が出た際は、「治療費や慰謝料などを請求できる可能性があります」と話す。
また、トイレに行かせないように飲み物を控えさせる行為も問題があるという。
「水分を補給することは人体の活動に不可欠であるため、使用者は労働者が健康を害さないよう飲食する機会を与え業務や業務量の適切な調整等を行う義務を負います。したがって、長時間にわたり飲み物を控えさせるのは同義務に違反することになります」
トイレの回数を数える行為にも慰謝料請求が認められる
それでは、トイレには行けるものの、回数を数えられるのはどうなのだろうか。直接身体には影響が出ない行為ではあるが、これも「人に対して嫌悪感を与える行為」となるため、慰謝料請求の対象になり得るという。
「トイレに行った回数を数えられることは普通の人は嫌悪感を感じますので、このような監視を継続した場合、慰謝料請求が認められるでしょう」
だが、慰謝料が認められても金額はあまり高くはならないそうだ。また、トイレに行きたくても、ワンオペの現場などでは難しいこともある。これに対し、岩沙弁護士は「トイレに長時間行けないようなワンオペは安全配慮義務違反になり得ます」とコメント。
「経営者としてはワンオペの時間を短くしたり、そもそもワンオペを廃止するなどしてトイレに行く時間を確保する必要があります」
と職場環境の改善を促した。
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