2016年08月13日 10:22 弁護士ドットコム
「今まで俺が払っていた税金を払え!」。ホステスをやめようとしたところ、勤務先の店長からそんな要求をされたという相談が、税理士ドットコムの税務相談コーナーに寄せられた。
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女性は、ホステスとして2年間勤務していた。本業の勤め先にバレないように、勤務中の報酬は日払いにしてもらい、雇用契約も結ばず、明細なども残していなかったという。
ところが、店を辞めるときにトラブルになり、店長から、本業にバレないように払った税金の分を支払うよう要求されている。具体的には、2年間分の税金と所得税の追徴課税、2年間払っていない分の延滞税・加算税等だそうだ。
今回のようなケースの場合、本人は改めて税金を納める必要はあるのか。新井佑介税理士に聞いた。
「今回のケースの構造は、『源泉徴収義務者』である勤務先が、相談者に支払った報酬から源泉徴収した税金について、退店トラブルを理由に、その返還を要求しているということでしょう」
新井税理士はこのように述べる。店側の返還要求は正当なものなのか。
「まず、業務委託の方を前提として源泉徴収制度と確定申告の関係から説明したいと思います。
日本の所得税は、所得者自身が自ら計算して申告納付する『申告納税制度』が基本となっています。しかし、一定の所得については『源泉徴収制度』が採用されています。
『源泉徴収制度』とは、簡単に言うと『賃金を支払う人が、受け取る人に代わって税金を計算して納付する制度』です。支払いを受ける者が自ら計算して納付するわけではない点に特徴があります。
注意点は、源泉徴収された税金は、あくまで支払者によって、一定の条件下で計算された概算額である点です。
そのため、いずれかのタイミングで正確な税額に計算し直す必要があります。この正確な税額を計算し源泉徴収された概算税額を清算することが、お馴染の確定申告になります。
また、『源泉徴取制度』では報酬を受ける側のために源泉徴収して、国に税金を納付する義務がある者を『源泉徴収義務者』と呼びます。『源泉徴収義務者』は制度を必ず守らなければなりません。
今回のケースでも、源泉徴収義務は勤務先にあると考えられるので、『支払った税金分の金銭を支払え』という要求は源泉徴収義務違反にあたる可能性があります。
また、延滞税や加算税は、法律によって国が課することができるものであり、勤務先が要求できるものではありません」
店側の要求は不当な可能性が高いということだ。一方で、相談者は自分では何ら税金に関する手続きをしていなかったようだが、本来、どんな手続を踏むべきだったのか。
「ケース・バイ・ケースになりますが、一定の場合を除き、確定申告をするべきだったと言えます。
本来確定申告をするべきであったのにも関わらず、申告を失念していた場合、本来収めるべき税金の他にも、利子税・延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があります。
もし確定申告が不要であった場合でも、住民税の申告は別途必要になる場合があるので、注意が必要です」
【取材協力税理士】
新井 佑介(あらい・ゆうすけ)公認会計士・税理士
慶応義塾大学経済学部卒業。金融機関との金融調整から新設法人支援まで、幅広く全力でクライアントをサポート。趣味はサーフィンとスノーボード、息子との早朝散歩が毎日の楽しみ。好きな言葉は「変わり続ける勇気」
事務所名 : 経営革新等支援機関 新井会計事務所
事務所URL: http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/
(弁護士ドットコムニュース)