2016年08月13日 10:22 弁護士ドットコム
ネット通販大手の「アマゾン」が自社の通販サイトに出品する業者に対し、商品の価格をほかの通販サイトなどよりも高くならないよう要求していたとして、公正取引委員会が8月8日、独占禁止法違反の疑いがあるとみて、アマゾンの日本法人「アマゾンジャパン」に立ち入り検査をしたと報じられた。
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アマゾンは自社サイトで商品を販売する業者に対して、ほかの通販サイトで販売している価格の中でもっとも安い価格か、それ以下の価格に設定するよう求めることで、ほかのサイトで買うよりも高くならないようにしていたという。
公取委は「不公正な取引方法」にあたると考え、調べを進めているとのことだが、ネット上では、「消費者にとってはありがたい話ではないか」「何が問題視とされているのか」といった意見もあがっている。今回のアマゾンの手法は、何が問題とされているのか。独禁法に詳しい籔内俊輔弁護士に聞いた。
「今回の公取委の調査の対象となっているとされる取引条件は、『最恵国待遇条項(most-favored-nation clause)』(「MFN条項」)等と呼ばれているものです。
これは、アマゾンの通販サイトでの販売価格が、ライバルである他の通販業者等の通販サイトでの販売価格よりも高くならないこと(アマゾンで買うのが一番安いか、少なくとも他で買うのと同じ価格であること)を、出品者に対して約束させるものです」
籔内弁護士はこのように述べる。MFN条項は、独禁法上問題があることなのか。
「MFN条項は、一般的に、競争にとって良い場合もあれば、悪い場合もありうるもので、前提となる事実関係をよく見てみないと、独禁法上問題があるかどうかは判断が難しいと言われています。
本件の事実関係に合致しているかどうかはわかりませんが、たとえば、出品者が様々な通販サイトを通じて実際に販売しており、また、出品者間での価格競争が活発であるという前提ならば、競争の維持促進を目的とする独禁法からみても望ましい効果が生じる場合もあります。
MFN条項があることで、アマゾンを利用する一般消費者は同じ出品者が別の通販サイトでより安く販売されていないかチェックする手間も省けますし、別の通販サイトでの価格競争による価格引下げがあればそのメリットも享受しうるといった点です」
競争にとって、「悪い面」はどんなことだろうか。
「公取委は、電子書籍を中心に調査をしているとも報道されているようですが、日本の電子書籍の市場でアマゾンの取扱いシェアが増加したことで、電子書籍の出品者(出版社等)の中でもMFN条項の課された取引が増えてきており、出版社等にとってアマゾンを通じた販売がより重要になってきていると推測されます。
そうした状況で、たとえば、他の通販業者等が、アマゾンよりも電子書籍を安く販売しよう出版社等に対して価格交渉をしても、出版社等は、他の通販サイトでアマゾンよりも安い価格で出品してしまうと、ネット上で直ぐにアマゾンにも知られ、アマゾンでも値下げが義務付けられることになります。
そのため、出版社等は、他の通販サイトにはアマゾンより安く出品するのを差し控える可能性があります。
こうなると、電子書籍でアマゾンに価格競争を行おうと考えている他の通販業者等は、より安い価格で出品者から供給を受けることができず、アマゾンに価格競争で対抗できなくなってしまうのではないかという懸念があります(そして、電子書籍の価格も高止まりする可能性もあります)。
このような競争が機能しにくくなる影響が生じていると、独占禁止法違反となる不公正な取引方法の1つである『拘束条件付き取引』として、問題になる可能性があります。
もちろん、公取委もまだ調査中で、アマゾンのMFN条項が独禁法違反と判断したわけではありません。アマゾンの立場からすれば、商品の評価レビューや返品対応等で高い品質のサービスを提供しているアマゾンのプラットホーム(通販サイト)を出品者が利用できるので、その見返りとして最安値での供給を条件付けることには合理性がある等、様々な反論があるかもしれません。
公取委が、過去にMFN条項について違反とした事例はないようですが、今後、慎重に調査を進めていくことになるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
籔内 俊輔(やぶうち・しゅんすけ)弁護士
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科博士課程前期課程修了。03年弁護士登録。06~09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。
事務所名:弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kitahama.or.jp