トップへ

クレイジーケンバンド、スピッツ……キャリア組の新作が好調の理由 共通点は“ブレない姿勢”

2016年08月12日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

クレイジーケンバンド『香港的士』(通常盤)

【参考:2016年8月1日~2016年8月7日週間CDアルバムランキング(2016年8月15日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2016-08-15)


 8月15日付けのアルバムチャート。ただでさえモノが売れない「ニッパチ」の、今はお盆ド真ん中。さすがに新作ラッシュなんてことにはなりません。今週の初登場は9位の葉加瀬太郎『JOY OF LIFE』と、4位のクレイジーケンバンド『香港的紳士』、この2枚だけです。


(関連:スピッツ 草野マサムネ、名曲誕生秘話を語る 「『ロビンソン』はタイのデパートで……」


 考えてみればクレイジーケンバンド(以下CKB)って不思議なワーカホリック・バンドであり、毎年だいたい1枚、夏に、しかもお盆のド真ん中を狙って新作を出しているのですね。昨年の『もうすっかりあれなんだよね』も8月12日発売でしたし、通算9枚目から12枚目となる4枚のアルバムは、どれも2007年から2010年の8月10日前後にぴたりとリリースされています。「ニッパチのお盆狙い」なんて言葉は聞いたことがないけど、CKBは明らかにそこを狙っている。これは何故でしょうか。


 「夏が一番僕にとっては音楽的な季節」と、以前横山剣さんが話してくれました。夏ソングがお好きなんですね……と安易に考えちゃいけません。いわゆる夏うた、夏に恋する男女に届く歌を狙うのであれば、作品はだいたい7月中、早ければ6月末にリリースされるもの。その歌が無事ヒットすれば、お盆休みのビーチでも「今年の定番」としてみんなが口ずさんでいる光景が見られます。しかしCKBの新作はそのお盆の最中に届く。このあと来るのは処暑であり、晩夏であり、なんとなく秋めいた気配を漂わせた夕暮れの寂しさでしょう。小学生の頃の「夏休みの終わりの気分」を未だに抱えているのかもしれないし、あるいは、オトナゆえに「すべてにおいて永遠はありえない」と悟っているのかもしれないけれど、つまるところ、横山剣が歌う男女のロマンはまさに夏が終わりゆくイメージにぴったりなんですね。これほどブレのない姿勢で、同じ季節に作品をリリースし続けていること。本当に見事だと思います。
 
 また、今週3位にランクインしたスピッツの『醒めない』にも注目を。初登場の先週で約8.3万枚を売り上げ、今週が約1.6万枚ですから、もう10万枚突破は時間の問題でしょう。ロックバンドで10万枚セールスを突破できるのはごく一握り、ワンオクかバンプかホルモンくらい一一。そんな言葉も聞き飽きたと思っていた矢先、そこに40代スピッツの名前が入ってくるって、正直予想もしていませんでした。いや、もちろんスピッツが非常に優れたバンドであることは十分わかっていますけども。


 今回の『醒めない』は、オープニング曲にしてリード曲となった「醒めない」がすべてを語っています。テーマはずばり、ロックに出会った初期衝動。サビには草野マサムネらしからぬ直截的な表現がちりばめられ、〈まだまだ醒めない アタマん中で ロック大陸の物語が〉〈最初にガーンとなったあのメモリーに 今も温められてる〉〈さらに育てるつもり〉と、いわば生涯ロック人生を貫くぞと宣言しているわけですね。歌で〈任せろ〉と胸を張るスピッツなど、初めて見たという人がほとんどじゃないでしょうか。


 本人たちは相当嫌がったと聞きますが、スピッツの代表曲はいまや音楽の教科書にも載っています。バンドがいくらロックにこだわっていても、その姿勢が全国民に届いていたとは言い難い。長らく「ロックにしては非常にポップ寄り/ポップスにしてはバンド形態を絶対崩さない」というポジションにふわふわ浮かんでいたスピッツが、今回は「自分たちは生涯ロック!」と肚を括っている。そういう作品が近年のアルバムよりも断然セールスを伸ばしている。これは、バンドにとって何よりも嬉しく誇らしい結果だと思います。(石井恵梨子)