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<AV出演強要>「消費者はレイプもの、デビューものにNOを!」支援団体が語る課題

2016年08月12日 11:02  弁護士ドットコム

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認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウが今年3月、若い女性たちが本人の意思に反してアダルトビデオ(AV)に出演させられている被害実態をまとめた報告書を発表して以降、AV業界をめぐって注目すべき大きな動きがあった。


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政府は6月上旬、内閣府が民間団体からAV出演強要の被害状況をヒアリングするという閣議決定をおこなった。また、6月中旬には、AV撮影現場に女性を派遣したとして、大手AVプロダクション(マネジメント会社)の元社長ら3人が労働者派遣法違反の疑いで摘発される事件もあった。


こうした一連の流れをどうみればいいのか、AV出演に関するトラブルに巻き込まれた女性たちを支援する団体「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS/https://paps-jp.org)で、相談員として活動している金尻カズナさんに聞いた。


●大手メーカーでも止められない「流れ」ができている


−−AV出演に関するトラブルの相談状況は?


大手プロダクションが摘発された6月には、AV出演に関する相談が20件ありました(PAPSとライトウハウスの共同相談支援事業)。従来は多くて月10件ほどでしたから、突出した数字です。このプロダクションに関する相談も多数ありました。沈黙を余儀なくされた人たちが「困ったことを相談してもいいんだ」と思ったようです。


この事件は「被害の可視化」につながったと思います。「被害はごく一部」ではなく、むしろ「氷山の一角だ」ということが証明されたと考えています。このプロダクションに所属する女性からの相談は、もともと複数あって、注目していました。


−−事件を受けて、AVメーカー(制作販売会社)でつくるNPO法人「知的財産振興会」(IPPA)は業界の健全化に向けてプロダクション側に働きかけていく、という声明を発表した。どう評価するか?


わたしたちとしては一定の評価をしています。メーカーは映像を処分できる権限をもった「権利者」です。そのメーカーの責任にもとづいて積極的に被害救済に取り組んでいただければと思います。


ほかにも、いろいろな団体が被害救済に向けて動いています。「被害をなくしたい」という考えは同じだと思うので、情報共有も必要になります。AV事業者全体の改善に向けて、ぜひ被害救済という観点からご尽力いただければと思います。


−−業界全体の改善は期待できるか?


IPPAに所属していないメーカーもあります。IPPAに入っているメーカーが健全化しても、かならず業界団体に所属しない「インディーズ」が出てくると懸念しています。やはり、複雑になってしまった問題を解決するために、事業者自ら、一度ゼロから考え直してみる時期がきているのだと思います。


−−メーカーにはどんな「責任」があるか?


大手メーカーは、その業務に携わっている会社内の人たちにとって、ある意味で「クリーン」な会社だと思います。数字(業績)を追っている世界だからです。たとえば、ある大手メーカーでは、チームごとにノルマがあり、売れる作品を作り続けなければ、給与が大幅に下げられています。


そのために撮影現場では、つねに新人を発掘しなければいけなかったり、より過激なビデオや新人デビューものを作らなければならないなど、システム化されて数打てばあたるような薄利多売が横行しています。こうしたネガティブな循環が起きています。


そして、誰もこの循環を止められません。大手メーカーでもなかなか止められないでしょう。こういう状況のなかで、機械的に、面接、撮影、販売する流れがあり、つねに出演者が弱い立場に追い込まれていくと考えます。


●メーカーの問題点とは?


−−メーカーはどういう部分を改善していくべきか?


たとえば、女優のなかには、海外サイトのオリジナル「無修正」作品に出演している人も多くいます。本人が望んだことかどうかわかりません。


現在、とても残念なことに、プロダクションのなかには、所属女優を無修正ビデオ制作会社にあっせんしているところもあります。日本で無修正に出演させる行為は、わいせつ物頒布ほう助の罪に問われます。


しかし、プロダクションの担当者は、出演者に無修正であることを告げずに出演させている現状があります。こうしたプロダクションの一連の行為は、到底許されるべきではありません。


出演者を守る観点からも、無修正ビデオに出演させたプロダクションは、一刻も早く販売を停止するよう交渉して、出演者が被った不利益を保障すべきです。メーカー側は、このようなことをつづけているプロダクションと取引をしないことが重要です。


また、AV出演のスカウト行為は、市区町村の「客引き防止条例」などで禁止されています。AV出演の求人広告をおこなった者も、職業安定法63条2項に抵触します。PAPSに、スカウトや高収入をうたったネット広告により誘引・契約させられ、契約の解除を妨げられるなどして、出演を余儀なくされた相談者が多いです。


プロダクションおよびメーカーはコンプライアンスが必要です。コンプライアンスとは、企業の積極的かつ自発的に法令違反を防ぐこと、企業倫理を遵守することを指します。スカウト行為や高収入広告で人を誘引している構造は、人権侵害性を内包していることを指摘しておきたいと思います。


販売方法に関しても、出演者が意見できないことが多く、本人が予測していたこととは違って「身バレ」が前提となったかたちで販売されてしまうトラブルも多くあります。


●「出演同意」に関して改善するべき点


−−出演への同意部分については?


本人同意に関しては、現在のところ、以下の3つが指摘できると考えます。


(1)出演することのマイナス影響に関する説明を十分におこなうこと


メーカーも、出演者に対して、とくに出演におけるマイナス面を重要事項としてきちんと説明すべきだと考えます。たとえば、撮影では、避妊しない性交行為が実際におこなわれる場合があります。このことに関して、性感染症や妊娠などのリスク、あるいは極めて暴力的な撮影の場合の身体への損傷が起こりうること、販売における身バレの確率性の高さなど説明したうえで同意をとるべきです。


(2)同意形成の実質的なプロセスの検討を


20歳前後で出演した人からの相談のなかには、応募した当時はAV業界のことがよくわからなくて<同意>したという人がいます。自分自身の究極のプライバシーをさらす行為に関する<同意>の意味について、『サインをしたから』と理解するこれまでの外形的なものではなく、実質的に本人がどの程度理解しているかを厳密にかたちに残す方法が模索されるべきでしょう。


(3)「同意がつづく期間」の明確化


行為の内容からいって、その<同意>が未来永劫有効とされるべき性質のものではありません。5年後や10年後もその同意が有効としてあつかわれている現状は改めるべきです。しかし、契約などでは、出演者のパブリシティ権はメーカーが保有するとされて、出演者は無権利状態に置かれています。


そのため、一度出演すると引退後も販売されつづけています。その当時、同意したかもしれないけど、引退後に生きづらく感じてしまう人がいます。性行為は「究極のプライバシー」ですので、一般化して議論すべきではなく、法整備も検討してよいと思います。


●消費者が「NO」をつきつけるべき


−−ほかに問題点はあるか?


ある大手メーカーの出演同意書では、出演者に対して、パブリシティ権を放棄するように書かれています。パブリシティ権とは、法的な規定はないものの、プライバシー権の1つとされ、個人の肖像をみだりに使われるのを防ぐためのものです。


しかし、大手メーカーの出演同意書を見る限りでは、出演者はパブリシティ権の一切を放棄する内容になっています。このような内容は、本来であれば「無効となるべき」と考えます。また、すでにAV出演をやめて時間が経過しているにもかかわらず、オムニバス販売(すでに販売された複数のAVをひとつにまとめ直し、新たなAVとして販売すること)されるなど、映像の二次的利用がおこなわれています。


パブリシティ権を乱用してきたのが大手事業者です。今後は、本来あるべきかたちのパブリシティ権に戻して、これまで、みだりに行使されたパブリシティ権は、出演者に返還されるべきだと考えます。


これらの制作過程の問題に匹敵する最大の問題点は「需要・ニーズ」だと考えています。わたしたちは決して、AVそのものを否定しているわけではありません。ただ、被害をなくしたいだけです。個人的な意見として、人権侵害性のないAVがあれば、肯定されるべきです。


出演者の問題ではなくて事業者側の問題です。本当に出演したい人、プロ意識のある人たちが、自らその内容や場をコントロールして出演しているならば、問題になることはありません。


一方で、事業者側は過剰に「需要・ニーズ」を煽るところがあると思います。「レイプもの」など徹底的に女性への差別や憎悪をテーマにした過激的作品をつくったり、処女性とその凌辱をテーマにした「新人デビューもの」を量産しています。


通常であれば、監督は演技による迫真性を求めますが、ある相談者は「演技は不要で、実際に出血し苦悶する様子の迫真性を撮影された」と述べました。本当の意味で演技なら「本番行為」「中出し」も必要ないはずです。過激な映像が制作される理由は、そこに需要があるからだと考えます。


需要はより強い性的刺激を求めています。メーカーは消費者の要求に応えるために、より刺激的なシチュエーションを設定して撮りつづけているという、被写体にされる人たちにとっては『最悪のスパイラル』が形成されているのが現状だと考えています。


ある男性からは、「自分はAVが好きだけど、やっぱり消費者だから、AVを批判することに後ろめたさがある。人権侵害性のないAVが見たい。レイプまがいのことがおこなわれているのはおかしい」という話を聞きました。


消費者も、人権侵害性のあるAVには「NO」と突きつけることが大事です。消費者が「NO」と「YES」をどう識別するのか、今のところその方法はわかりません。しかし、消費者の意識が変わらないことには、事業者側も変わらないと思います。


(弁護士ドットコムニュース)